甘酸っぱい日々

面白くても何ともならない世界で 何とかしようとする人達のために

神保町花月 『テルニ』

2010-08-17 22:20:42 | 神保町花月
仲良し9期の、わちゃわちゃお祭り公演に行ってきました。
全ての面で満足、と言えるほど、素晴らしい公演でした。
もしかしたら再演するかも?というお話があったそうです。
このお話は、内容を知ってしまうと、面白さが半減どころかほぼなくなってしまうようなものです。
そのため、今回見ていなくて再演を期待される方は、この先をお読みにならないようお願いいたします。
今回も、詳しい内容は省き、感想のみつらつらと。








まず私は、松橋さんにありがとうと、心からありがとうと言いたいです。
本当に、素晴らしい作品を書いてくれてありがとうございました!!
大満足でした。
神保町花月という劇場って、不思議なところで。
この劇場に求めてることって、人それぞれ違うんですよね。
それじゃあ劇場側がどうとらえているのかっていうと、劇場側もだいぶ幅をもたせたいろいろなことをやっていて。
だから、結局個人で色々な意見が出てくる。
私としても、今回二つの思いがありました。
せっかく神保町花月なんだから、普段はなかなか見れないシリアスな表情が見たい!というのと、
やっぱり神保町花月なんだから、笑わせてくれないと!というのと。
だから、この二つを同時にやってくれた松橋さんに、もう感謝というかなんというか、逆に私の思いが伝わりすぎてちょっと怖いくらいです。私、どこかで松橋さんに話したっけ?って(笑)
松橋さんは、神保町でしかできないことをやってくれたなと。
だからこそ、神保町に何を求めるかによって、賛否両論出てきてしまうのは仕方ないことなんだろうな。
ただ私は、本当に嬉しかったです。

私は、関町さんが大好きです。
でもこの公演を通して、もっともっと好きになりました。
この人は本当になんなんだろう。どんな役でも平然とやりきってしまう。
一番初めの、月野に語りかけるときの優しい感じが大好き。
怒りに声を震わせてる時も、かすれた声での「うまそうだろ…?」も大好き。
そして、いじめられている時のかよわい感じと、10年後の狂気のギャップ。
シーンが変わって、半田がいる部屋に入ってきたときの、「失礼するよ」からのスーツにやられました。
本当に素晴らしかったです。
見終わった後、心底この人に売れてほしいと思いました。
もちろん前から思ってましたが、それ以上に。
あぁ、もう。今まで色々あったけど、こんなに売れてほしいと思ったことないよ。
いろんな場所に出ていってほしいし、いろんな場所で活躍してほしいよ。
遠山さんだって、外部の劇団さんのお芝居に出たことあったじゃない。
この演技のポテンシャルといい声を、無限大ホールという小さな場所での茶番のためだけに使うのは、本当に宝のもちぐされのような気がしてきた。
ただ、関町さんご自身は、あまりそういうのに興味なさそうですけどね。
以前のシチサンでも、しっかり稽古をやれと怒る演出家先生に対し、自分は芸人だからときっぱり言っていましたし。
芸人ということにプライドを持っているというか、その演技力を生かして茶番をやっちゃう、という才能の無駄遣い感に面白さを感じてるということなのかな。
長々書いてしまいましたが、とにかくすごかったということです。
土曜2回目のエンディングでにしじが言っていましたが、60ページほどある台本の中で、関町さんが出てこなかったのはほんの2,3ページだったそうです。
ほとんどすべて出ずっぱり。
脚本家と演出家の期待が感じられました。
いや、もしくはこの二人がただただドSなのかもしれない。
この際、それでもいいです(笑) やりきった関町さんに、ただただ拍手です。

私は今回、初日、そして土曜1回目2回目を見に行きました。
その土曜2回目で、まさかのサプライズ。
関町さんと児玉さんが、役を交換したのです。
初めのシーン、後ろ姿のシルエットが青い光にぼんやりとうつる感じなのですが、そこでもう幕あいたときからシルエットが違うんだもん。
振り返ったら児玉さんで、本当にびっくりしました。
これは、脚本家と演出家の悪ノリだったそうです!!
そして、これを本当にやろうと決めたのは公演始まってから。
しっかり練習する時間のない中なのに、それに加えて児玉さんのセリフ覚えに協力しない同期のかたがた(笑)
前日の夜練習に付き合ってくれたのは、ゲストの望月さんだったそうです(笑)
全体的に考えてみると、いい試みだったなとは思います。
この公演にはリピーターの方もたくさんいらっしゃったでしょうから、こういう工夫があれば、より新たな面白さが生まれるんだろうなと。
でも、中には、関町さんが主演だと聞いて楽しみにしていたのに、見られなくて残念だった方もいらっしゃるかもしれない(私もそうですが・笑)
また、児玉さんが主演をやるんだったら、その回を見に行きたかったと思った方もいらっしゃるかもしれない。
そういう面では、少しどうなの?と思わざるを得ない気持ちも、正直のところあります。もちろん、それを言ってしまったら、サプライズと悪ノリが意味をなさなくなってしまうとは思うのですが(笑)
ただ、このお二人の演じ方の違いを見れたのはとてもお得だったなぁと思いました。
特にそれが顕著に表れたのは、半田への復讐のところ。「そんなに大切なら、ちゃんと守れよ」ってところ。
関町さんは、優越感に浸ったような笑顔でそのセリフを言い放ち、うなだれている半田の頭上に、彼女の服をはらりと落とすんですよね。
その静かに狂気に満ち溢れた関町さんが上手すぎて鳥肌が立ちました。
対して児玉さんは、そのセリフを怒ったような強い口調で言い放ち、彼女の服を半田に投げつける。
全く対照的でした。
こんな違いが見られたのもいいところかなと思います。

橘さんは、出番こそ少なかったものの、とても重要な役だったなぁと思います。これは橘さんにしか出来なかっただろうなあと。
エンディングで、「同期とやったという感じがせんわ!」とすねていましたが(笑)、でも橘さんがいなきゃ成立しなかった話だと思いますよ!
餅ナスザーサイという言葉を執拗に言わせる、脚本家演出家のいじめに、よくぞ耐えてくれました(笑)

横山さんすっごくよかった!!
あの優しい雰囲気だからこそ、どこか憎めない、そして苦しむ様子が伝わってきました。いいなぁよっこん。

そして、いじめる演技が上手すぎる文田、西島の性格悪いコンビ。
それなのに、10年後の春崎に追い詰められるシーンは棒読みなんだもんなぁ(笑)正直、これが一番の笑いどころだったかもしれないよ(笑)
根建さんと赤羽さんは、この二人よりも安定感あったと思います(笑)
特に好きだったのが、「おめでとう、何でもない日だけど」と「そんなに大事なら、ちゃんと守れよ」の言い方。ぞくっとした。

今回、ストーリー、そして演技と同じくらい印象に残ったのは、照明の美しさでした。
一つひとつの照明がとても鮮やかで、なおかつ繊細でした。
演出家さんが、細かいところまでこだわっていらっしゃるんだなぁということが伝わってきました。
好きだったところはたくさんあるんですが、中でもとても好きなのが、春崎が車に飛び込もうとするところ。
照明とSEだけで、車が通っていることがわかるんです。
実際に車が見えるような気がするんです。
あれは本当にすごかった。
もう一つ、最後に春崎が丘から飛び降りるところ。
飛び降りる寸前、というより、飛び降りた直後に照明が消えて、辺りが真っ暗になる。
そのタイミングが絶妙で、飛び降りた瞬間の春崎のシルエットがまるで残像のように目に焼き付いて離れませんでした。
あとは、美しいオレンジ色の夕焼けとか(だからこそ春崎がいじめられている残酷さが際立つ)、
父と話している部屋の窓とか(照明で窓作っていたんですよね)、
原が警備しているオフィスでの懐中電灯とか(すごく巧妙でした)
言い出したら書ききれないくらい、全て好きでした。
照明以外で言わせてもらうと、後半の映像は本当に素敵でした。
モノクロの世界に、色がついた。
たったそれだけのことなのに、こうも綺麗に感じるのか。
それはもちろん画像が美しかったからというのもありますが、「これから何かが始まる!」という、わくわく感があったからだなぁと。
ここすごく感動しました。
演出家先生はシチサンで、「もう二度とやりたくない」と何度もおっしゃっていましたが、そんなのもったいない。
ぜひまた挑戦していただきたいです。


私は、夏が大好きです。
四季で、夏が一番好き。
それは、夏は他の季節よりもみんながはしゃいだり、盛り上がったりするけれども、そのお祭り騒ぎが終わった後、一抹のさみしさやわびしさがあるからだと思うんです。
最後の花火は、その一抹のさみしさを表現してくれていたように感じました。
同期だらけ、やりたい放題のお祭り公演。
はしゃぎすぎた後の、お祭りが終わるさみしさが胸に迫ってきた。
それを美しい花火で実感し、「あぁ終わってほしくないな」という思いが残ったので、なんだかじわじわと泣きそうになってしまいました。
夏だからこその美しさ。最高でした。
何度も反芻して、何度も楽しみたい。
素敵な夏の思い出を、ありがとうございました。