憲法とILOの関係を考える
―国際社会で日本がやるべきこと 高木 光(労働ジャーナリスト)
ILO(国際労働機関)というと、労働争議をやっている人はともかく、一般の労働者にはいまひとつ、なじみが薄い存在です。でも、日本国憲法を持つ日本人にとっては、軽視できない組織なのです。それは、戦争の惨禍をふまえて、国際社会とどう向き合っていくかという点で共通項があるためです。
労働運動の世界でILOといえば、今ならJAL(日本航空)の不当解雇について訴えたり、公務員労働者の労働基本権で何度も日本政府に「勧告」を出しているところとして知られています。
古くは、国鉄労働組合(国労)などが分割民営化にともなう不当解雇を申し立てた歴史があります。
でも、フツーの組合員はILOという名前は知っていても、何をしているところかまではあまり理解しているとはいえません。
世界平和の実現のためには
ILOは、第1次世界大戦が終わった1919年に誕生しました。戦争の惨禍を繰り返さないために必要とされたのです。
「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」
これは、ILO憲章の冒頭に掲げられている文章です。いまでいうなら、格差と貧困、不正がはびこる世の中は戦争の温床になるということです。
その精神は、ILOのフィラデルフィア宣言にもうたわれています。「一部の貧困は全体の繁栄にとって危機である」との指摘です。自分さえよければいい、自分の国さえ平和ならいいという考えでは、世界の平和は実現できないと警告しているのだと思います。
ILOは、労働に関わる国際条約をつくり、それを各国で具体化することを求めています。ちゃんと条約が適用されているかをチェックするのも大事な任務。各国の使用者や政府、裁判所などが条約内容に反する行いをしているなら、労働者や労働組合がILOに提訴し、その是正を求めることができる仕組みです。
もちろん、ILOには裁判所のような強い権限があるわけではありません。条約違反に対しては、ねばり強く働きかけていくのが基本的なスタンスです。
日本国憲法とILOの共通点
今年の10月、日本でILO関係者が国際シンポジウムを開きました。そのなかで、条約勧告適用専門家委員会の横田洋三委員長が発言し、日本国憲法の前文を引用しながら、「この精神で日本はILO活動を進めてほしい」と訴えました。
「われらは、平和を維持し、専制と隷従(れいじゅう)、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと務めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」
「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」
というのが、前文のエッセンスです。
国際社会で貧困と格差を是正し、社会正義を実現することが、世界の平和に寄与するのだという理念が盛り込まれています。
憲法前文は、ILO設立の精神とそっくりだといえます。
世界の圧倒的多数のなかで日本は
しかし、日本は憲法前文の精神を生かした活動ができているでしょうか。
ILO条約の批准率は3分の1にも達しません。特に重要な8条約のうち、2条約(強制労働と差別待遇を禁ずるもの)を批准していないのです。とても世界のモデルになれる状況ではありません。
経団連から選出されているILO理事はこの点について、「未批准条約を早期に批准するべきと思っていない」と断言。批准するための国内法整備などを慎重に行う必要があると述べています。世界の圧倒的多数の国が8条約を批准しているにもかかわらず、いまだにこんな言い訳をしているのは恥ずかしいかぎりです。
本物のグローバル化へ
経団連も日本政府も、よく「グローバル化に対応しなければ日本は国際社会で生き残れない」などと主張しています。
でも、憲法やILOが求めているグローバル化への対応については、極めて後ろ向きな姿勢を取り続けています。
企業本位のグローバル化対応しか頭にないのでしょう。貧困と格差の是正を通じた世界平和の実現へ、いまこそ本物のグローバル化対応が求められます。
【学習の友2012-no:712-12】(高木光・労働ジャーナリスト)
日本国憲法 前文
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。
そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。
われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理念を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。
われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと務めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。
われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して、他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
日本共産党は、徹底した平和主義をかかげる9条、国民の生存権と文化的生活を明記した25条をはじめ、憲法の全条項を厳格に守り実践することこそ、豊かな国民生活を保障する切り札であり、真に国民本位の政治を実現する道だと確信しており、広範な人々との共同を通じて、憲法を擁護しその条項の徹底のために全力をあげます。
日本共産党ホームページ
http://www.jcp.or.jp/
携帯版
http://www.jcp.or.jp/i/index_i.html
―国際社会で日本がやるべきこと 高木 光(労働ジャーナリスト)
ILO(国際労働機関)というと、労働争議をやっている人はともかく、一般の労働者にはいまひとつ、なじみが薄い存在です。でも、日本国憲法を持つ日本人にとっては、軽視できない組織なのです。それは、戦争の惨禍をふまえて、国際社会とどう向き合っていくかという点で共通項があるためです。
労働運動の世界でILOといえば、今ならJAL(日本航空)の不当解雇について訴えたり、公務員労働者の労働基本権で何度も日本政府に「勧告」を出しているところとして知られています。
古くは、国鉄労働組合(国労)などが分割民営化にともなう不当解雇を申し立てた歴史があります。
でも、フツーの組合員はILOという名前は知っていても、何をしているところかまではあまり理解しているとはいえません。
世界平和の実現のためには
ILOは、第1次世界大戦が終わった1919年に誕生しました。戦争の惨禍を繰り返さないために必要とされたのです。
「世界の永続する平和は、社会正義を基礎としてのみ確立することができる」
これは、ILO憲章の冒頭に掲げられている文章です。いまでいうなら、格差と貧困、不正がはびこる世の中は戦争の温床になるということです。
その精神は、ILOのフィラデルフィア宣言にもうたわれています。「一部の貧困は全体の繁栄にとって危機である」との指摘です。自分さえよければいい、自分の国さえ平和ならいいという考えでは、世界の平和は実現できないと警告しているのだと思います。
ILOは、労働に関わる国際条約をつくり、それを各国で具体化することを求めています。ちゃんと条約が適用されているかをチェックするのも大事な任務。各国の使用者や政府、裁判所などが条約内容に反する行いをしているなら、労働者や労働組合がILOに提訴し、その是正を求めることができる仕組みです。
もちろん、ILOには裁判所のような強い権限があるわけではありません。条約違反に対しては、ねばり強く働きかけていくのが基本的なスタンスです。
日本国憲法とILOの共通点
今年の10月、日本でILO関係者が国際シンポジウムを開きました。そのなかで、条約勧告適用専門家委員会の横田洋三委員長が発言し、日本国憲法の前文を引用しながら、「この精神で日本はILO活動を進めてほしい」と訴えました。
「われらは、平和を維持し、専制と隷従(れいじゅう)、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと務めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」
「いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」
というのが、前文のエッセンスです。
国際社会で貧困と格差を是正し、社会正義を実現することが、世界の平和に寄与するのだという理念が盛り込まれています。
憲法前文は、ILO設立の精神とそっくりだといえます。
世界の圧倒的多数のなかで日本は
しかし、日本は憲法前文の精神を生かした活動ができているでしょうか。
ILO条約の批准率は3分の1にも達しません。特に重要な8条約のうち、2条約(強制労働と差別待遇を禁ずるもの)を批准していないのです。とても世界のモデルになれる状況ではありません。
経団連から選出されているILO理事はこの点について、「未批准条約を早期に批准するべきと思っていない」と断言。批准するための国内法整備などを慎重に行う必要があると述べています。世界の圧倒的多数の国が8条約を批准しているにもかかわらず、いまだにこんな言い訳をしているのは恥ずかしいかぎりです。
本物のグローバル化へ
経団連も日本政府も、よく「グローバル化に対応しなければ日本は国際社会で生き残れない」などと主張しています。
でも、憲法やILOが求めているグローバル化への対応については、極めて後ろ向きな姿勢を取り続けています。
企業本位のグローバル化対応しか頭にないのでしょう。貧困と格差の是正を通じた世界平和の実現へ、いまこそ本物のグローバル化対応が求められます。
【学習の友2012-no:712-12】(高木光・労働ジャーナリスト)
日本国憲法 前文
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起こることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。
そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。
われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。
日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理念を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。
われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと務めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。
われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して、他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる。
日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓ふ。
日本共産党は、徹底した平和主義をかかげる9条、国民の生存権と文化的生活を明記した25条をはじめ、憲法の全条項を厳格に守り実践することこそ、豊かな国民生活を保障する切り札であり、真に国民本位の政治を実現する道だと確信しており、広範な人々との共同を通じて、憲法を擁護しその条項の徹底のために全力をあげます。
日本共産党ホームページ
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