橋下「思想調査」
訴えた55人 「生き方踏みにじられた」
憲法・人権守るたたかい
橋下徹大阪市長が市職員に組合活動への参加状況などを記名アンケート形式で答えるよう強いた「思想調査」(2月)に対し、「耐え難い精神的苦痛をうけた」と55人の職員が損害賠償を求めて立ち上がりました。
3日、大阪地裁での第1回口頭弁論では、2人の原告が陳述し、弁護団が市側の主張の不当性と訴訟の意義を明らかにしました。(大阪府・小浜明代)
大阪市
「誰に組合の集会や学習会に誘われたか、正確に答えれば大好きな先輩を売ることになります。でも正確に答えなければ処分が待っています」。当時の苦しい胸の内を陳述したのは、原告団事務局長の川本正一さん。41年間勤務し、来春には定年の予定でした。
しかし、同僚たちの「本当は答えなくなかった」という告白や、「私らは公務員になる時に、憲法を尊重し全体の奉仕者として職務を執行すると誓ったやんか」との言葉が怒りに火を付けました。
「懲戒処分をちらつかせ、強権的に職員を従わせるやり方では、落ち着いて市民のお役に立つことはできません」と訴えました。
調査項目は、組合活動が悪いことかのように思わせるものです。
勤続36年の保育士で、原告団長の永谷孝代さんは「子どもたちの笑顔を守りたい」と地域の人たちと手をつないできて、「自治体職員として市民のための仕事をしたいと頑張ってきた自分の生き方を土足で踏みにじられた感じがしました」と告発しました。
「アンケートを提出しないことは、そんなに悪いことなのかと考え悩みました。公務員も1人の人間。人間として守られるべき権利が普通に守られない職場は異常です。ただ子どもたちや保護者のために一生懸命仕事がしたいだけなんです」人間の尊厳を踏みにじる攻撃に、涙をこらえて訴えると、傍聴席でも目頭を押さえる人が。
責任逃れの市
市の「答弁書」の責任逃れの酷さも浮き彫りになりました。
「実施主体は橋下市長から委託を受けた野村修也弁護士ら第3者調査チームで市ではない」(同チーム)公務員ではないので公権力の行使は存在しない」「『業務命令で強制した』という評価は適切ではなく、調査の実効性を確保するために業務命令という形をとったにすぎない」
これに対し、弁護団の西晃弁護士は
① 調査が市総務局長を通じて各所属長を経由して行われた
② 橋下市長自らの職員宛の自筆の署名入り文書で市長の業務命令として回答を求め、「正確に回答がされない場合は処分の対象となりえます」と明示している―と具体的に反論。「実施主体が市であることは明白で、市長自らが権力を背景に処分をも明示して行った業務だ」と主張しました。
野村氏らは市の委託を受けて調査項目を作成、調査活動を行い、公権力行使の一端を担ったとし、「野村氏らが公務員の身分を持たなかったとしても法解釈上『公権力の行使を行う公務員』に該当する」と断定しました。
「憲法訴訟」
西氏は、調査項目はすべて憲法に明記された参政権(15条)、勤労者の団結権(28条)という極めて重要な基本的人権に関するものであり、個々の職員の政治的思想・信条や良心に基づく価値観に密接に関連するものばかりだと指摘。これらは本来個人の自由の範疇に属するもので、公権力が処分を背景にその表明を強制するべき領域のものではないと述べました。
西氏は「選挙で選ばれた市長であっても法秩序を破壊し、憲法で保障されている基本的人権を侵害する権限など一切与えられていない」と強調。裁判が「違憲性を明確に宣言し、今後二度と同様の違法行為を行わせないことが目的で、『憲法の保障』を確認・獲得することに最大の意義を見いだす憲法訴訟だ」と結びました。
支援広がる
口頭弁論には200人が駆けつけました。
報告集会で、市職員・教職員ОB応援団長の渡辺武元大阪城天守閣館長は「橋下市長は責任者として全く謝罪していません。勝利しないと橋下・維新の害悪が全国に広がっていきます。一番重要なたたかいが始まりました」。と話しました。
同日開いた大阪市役所労働組合の決起集会で、竹村博子委員長はこう訴えました。
「人権が保障されない社会がまかり通れば住民の権利も守られません。憲法が生きる社会、自治体をつくるためにも裁判に勝たなくてはなりません」
(しんぶん赤旗(HP毎日更新)2012・10・10)
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