唐と云う言葉が付く単語は、日本語には沢山あります。国語大辞典等を引くと、唐の付く単語には、唐傘、唐紙、唐墨、唐芋、唐歌、唐織、唐絵、唐木等色々あるようです。云うまでも無く唐とは中国を意味するので、唐の単語が付くものは、何れも中国から日本へ伝わった物を指す様です。
私は、唐と云う語が付く単語に「唐臼」(注:踏み臼とも云うとの事)と云う言葉もある事を極最近になって知りました。岩波国語辞典では、唐臼とは「臼を地面に埋め、足で杵を踏んで穀類をつく仕掛けのもの。ふみうす」明鏡国語辞典には、「うすを地面に固定して、支柱にのせた杵の柄を足で踏んで穀物をつく仕掛けのもの、踏みうす」との説明があります。国語大辞典には、「臼を地面に埋め、梃子を応用して足で杵の柄を踏みながら、杵を上下し、米などの穀類をつくもの。ふみうす。」とありますが、実は以前私が貴州省のトン族の住む村や苗族の住む村へ通っていた際に、良く見た物こそが、その唐臼だった様です。
辞書には、臼を地面に埋めとありますが、これをどう云う様に想像するかはなかなか難しい様に思います。臼にもいろいろな形があるからです。また、臼は石で作られている場合が多い様で、日本の様に木で作られた臼は意外に中国では少ない様です。大昔は知りませんが、この様な形の臼は、日本では余り見かけない様に思います。以下の写真の数々は、私が貴州省のトン族の村や苗族の村で見かけた唐臼(踏み臼)です。
これが「唐臼」と呼ばれる物、貴州省台江県のトン族の住む村で見かけた唐臼。杵を足で踏んで上下に動かし、米等を搗く。
よく見ると、臼の部分は大抵石で出来ていますが、杵の部分が、木の場合と石の物がある様です。こちらの唐臼は杵の先端が木製です。脱穀しているところ。
足で杵の柄の部分を踏む事で、杵を上下に動かす。正しく梃子の原理を応用しています。
こちらの唐臼は杵の部分も石で出来ています。この様な光景は貴州省でもかなり奥深い少数民族の住む村に行かないと見る事は出来ません。機械による脱穀や籾摺りがかなり普及しており、間もなく唐臼も姿を消すと思われます。この様に昔ながらの民族衣装を身に着けている若い人も、次第に少なりなりつつあります。トン族の村で。
こちらは杵の部分は木製です。トン族の住む村で。
こちらは唐臼を使い唐辛子を粉にしているところ。杵の部分も石で出来ています。以前は、トン族の住む村小黄村等ではモチも、この唐臼で搗いたそうです。また、貴州省の紙漉きをする村では、この唐臼を利用して楮等から採った樹皮を、これで搗いて柔らかくするとの事です。黄岡村で。
ブリタニカ国際大事典に拠れば、この唐臼と云う単語は、「日本では平安時代の文献に既に現れているが、一般に普及したのは江戸時代になってからで。初め米屋などで米の精白に用いられていたものがのちに農家にも広まり、籾ずりなどにも用いられた」との説明があります。しかし、貴州省のトン族の村などで実際に唐臼が使われているのを見ると、この説明にはやや疑問があります。最初は脱穀や籾摺りに用いられたと云うのが正解の様に思います。その後更に精米にも用いられる様になったと解釈するのが正しい様に思います。
以前トン族の住む村で良く見かけたこれが、実は「唐臼」と云うとは全く知りませんで極最近になり、これが唐臼と云うものだと知った次第です。一般には、脱穀、籾摺り、精米等に使われるようですが、地域により餅つきにも使われる様です。また、昔ながらの紙漉きをして紙を作る際には、楮、桑等の樹皮を搗いて柔らかくする際にも、この唐臼が用いられる様です。
水力を利用した水車による脱穀、籾摺り、精米等をする地域も多い様ですが、それほど水の便利が良いとは云えない地域では、この様な踏み臼が使われている地域も昔は多かった様です。
当然のことですが、今ではかなりの奥地に行かないとこのような光景は見る事は出来ません。脱穀は無論ですが、今では、籾摺り、精米も機械化され、間もなく唐臼も消えてなくなると思われます。多くの村では既に使われなくなった唐臼も沢山見ました。