舌尖上的中国の第1集の7話では、貴州省黔東南苗族トン族自治州从江県に住む壮族やトン族が取り上げられています。この番組に拠れば、それらの少数民族は元々モチ米を常食としていたとの事です。しかし、よく知られている様に糯米は元々収穫量が少ない事もあり、政府の政策により60年代頃から糯米から粳米への政策転換された結果、今では、この周辺に住むトン族、壮族等の少数民族は次第に粳米(うるちまい)を常食とするようになったとの事です。
このドキュメンタリー番組「舌尖上的中国」に拠れば、その昔呉国や越国に住む人々は、糯米を常食としていた様です。糯米は中国では「江米」とも呼ばれていますが、この江とは長江を指すとの事です。長江流域に住む呉や越の人々は、秦・漢の時代に、北方民族の南下に伴い、湖南、貴州等へ移住を余儀なくされたとの事 。
以前このブログでも触れた事があるのですが、貴州省には、今でも糯米を常食とするトン族の村があります。黎平県の黄岡村に住むトン族は、今でも糯米を常食としている数少ないトン族の住む村として中国では良く知られています。私もこの村で直接聞いた事があるのですが、この村の人は、「粳米は我々人間は食べない、あれは豚が食べるもの」とまで云い切る人も居るほどです。
日本では、糯米を食べられる理由として、日本人は「モチモチ感が好きだ」とか「日本人には、納豆やオクラ、長芋、里芋等粘り気のある食品が好まれる」「ねばねばが好きだ」等云う風に説明される事も多い様ですが、この様な解釈が、果たして適当なのか、私としては以前からやや疑問に感じていました。
中国では、糯米が食べられる理由としては、
1、腹持ちが良い事。
2、糯米は、オカズが要らない。オカズが無くても糯米だけで十分食べられる。
3、日持ちが良い。また、お強等は冷めても美味しく食べられる。
4、持ち運びに便利。
5、糯米を食べると力が出る等がその理由として挙げられてます。また、糯米は寒冷地に適しているとの指摘もあります。以前凱里学院に籍を置いて時には、民俗学を研究している先生からも、もち米が食べられる続けられる理由として同じ様な説明を受けた事があります。
腹持ちが良い事と云う点は説明が必要か知れませんが、貴州省に住む多くの少数民族は、以前は、一日二食だった事とも関係があるかも知れません。つまり腹持ちが良いので、一日三食食べなくても二食で十分だったと云う事も理由の一つに挙げられる様に思います。
糯米は、オカズは要らないとの指摘は、日本でも赤飯等は胡麻塩だけで十分食べられるのを見れば納得がいくと思います。もち米は、簡単なオカズがあれば十分に食べる事が出来ます。
黄岡村で農作業の際のお弁当ですが、おこわ以外は魚の焼いたものですがお強だけでも十分美味しいです。お強は、この様にポリ袋に入れても持ち運びが出来ます。
以前は、この様な容器に入れて持ち運びされた様ですが、次第に姿を消しつつあり、上の様な金属製に姿を変えつつあります。また、もち米を食べる時には、箸は使いませんで、手掴みで食べますが、その様な食べ方が出来るのも、もち米ならではないでしょうか
糯米は日持ちが良いとの指摘は、貴州省黔東南地区は、湖南省や広西省に近い事もあり、意外に高温多湿でもあり、意外に腐敗しやすいです。が糯米は一度に何食分炊いてもそれなりに持ちます。トン族の村では、一度に沢山炊くのをよく見ました。そう云う点からも糯米は食べ続けられた様です。
また、糯米は冷めても美味しく食べられます。日本でも、炊きたてのお強と云うのは余り食べない様に思います。そういう点でも炊き立てが、一番美味しいと云われる粳米ともち米では違うように思います。
炊き上げられたお強。下に見えるのは前日に炊いたもの。この時は祭りだったので特にたくさん炊きげられましたが、もち米は冷めても美味しく食べられます。
持ち運びに便利とは、少し説明が必要かと思いますが、私が足を運んだ少数民族の住む村では、耕作地は自宅からかなり離れた場所にあり、山道を1,2時間歩いて耕作地に着くのはザラで、日本で考えるより遥かに遠い所に田畑、耕作地があります。少ない平地に家や鼓楼、倉庫が建てられている場合が多いです。作業の合間に、昼時には、家に帰って食事をすると云う様な環境にはありません。農作業に出掛ける時には、必ずの様に弁当持参で農作業に出掛ける様です。その様な場合、冷めても美味しく、日持ちもして、たいしてオカズも要らない、腹持ちのする糯米はうってつけだったのではないでしょうか 一旦家を出ると夜暗くなるまで帰って来ません。多くの村では農作業の忙しい時期は、夜8時9時迄仕事をするのを良く見かけました。
農作業に出かけるトン族の人。金属製の弁当が見えますが、その中にモチ米が入っています。必ずの様に弁当持参で、農作業に出かけます。昼時に家に帰り、昼飯を食べると云う事は少ない。
今では、うるち米を常食とする様になったある村で、村人から、田植えや稲刈り等きつい農作業をする時には、今でも糯米を食べないと力が出ないとも聞いた事もあります。厳しい自然環境の中で、暮らし、きつい農作業をするトン族等の少数民族にとっては、そう云う意味でも、もち米はうるち米に比べより適していたのではないでしょうか
この様な急峻な地形が多く、平地に家、鼓楼、倉庫がある場合が多い。
また、糯米は一般に寒冷地に適しているとの指摘もあります。日本のある本に「上浮穴郡は古くは糯米の栽培面積が多かった。これは灌漑水が冷たいため、水口部分に 冷水に強い糯米を植えたことによる。このような糯米を水口糯と呼んだ」と云う様な指摘もある様に、もち米は元々寒冷地に適しているとの指摘もあります。糯米と粳米が一緒に植えられる場合、糯米は一般に田圃の取水口付近に植えられたとの指摘もあり、それは、何故かと云えば糯米は寒さに強いからとの事。今にして思えば、私の田舎でも糯米は取水口付近に植えていました。
日本でもち米の生産地は北海道が多い様ですが、これももち米は寒冷地に適しているからの様です。貴州省に住むトン族や壮族の村は、一般に海抜も高く、かなり辺鄙な所にあり、緯度が低い割には気温は低いです。少数民族が住む地域は自然条件が厳しい。
この様に最近まで糯米が常食とされて来た理由には、これらの地方が糯米の栽培に適していた事も理由に挙げられる様に思います。これらの地域の自然環境に適応した品種の糯米が生き残り、何百年も間に亘り栽培され、食べ続けられて来たのも理由の一つに上げられる様に思います。
トン族の住む村黎平県、从江県、榕江県等では、以前と比べもち米を食べる機会は減っているようですが、今でも糯米が実に良く食べられています。あるトン族の村の人からは、田植え、稲刈り等きつい力仕事をする時には、糯米を食べないと力が出ないとの話も聞いた事もあります。今では、その村も普段は糯米を食べる機会は、以前より減ったとの事ですが、きつい農作業をする際には、矢張り今でも糯米を食べるとの事でした。
多くのトン族の村では、以前に比べモチ米を食べる機会は減ったものの、、祭りの際には必ずの様にお強が出されますし、餅も搗かれます。そう意味では糯米は、今でも特別の食べ物の様です。また、貴州省トン族の村のモチ米は、大変に美味しいです。
日本では、糯米が食べられる理由として、「モチモチ感が好きだ」とか「日本人には、納豆やオクラ、長芋、里芋等粘り気のある食品が好まれる」「ねばねばが好きだ」等と云う風に説明される事も多い様ですが、中国で「何故、もち米が食べられるか?」の説明の方がはるかに説得力がある様に、私は思います。 そもそも日本では、誰がこのような説を流布したのか興味あるところです。
貴陽市内の屋台や貴陽駅前の屋台でもお強を売っているのですが、実を云えば、照りを出すため油を塗ってます。
黎平県、从江県、榕江県で食べるお強は脂分も多く、本当に美味しく、オカズは何も要りません。私は、かなり多くの村で、もち米を食べた積りですが、特に、黄岡村のもち米は絶品です。一番美味しいと思います。