謹賀新年
平成24年、皇紀2672年、西暦2012年になりました。
昨年を思い返せば、やはり一番に思い出させるのは東日本大震災です。あの恐ろしい地震と津波によって命を奪われた方々のことを思えば、今も哀惜の念に堪えません。また、地震と津波に伴う福島第一原子力発電所の事故は、国内では最悪の原発事故であり、故郷を離れて暮らすことを余儀なくされた方々も多数いらっしゃいます。また、原発事故による福島県に対する過剰な風評被害があったのは日本人として恥ずかしいことです。
東日本大震災の被災者の方々に、改めて心よりお見舞い申し上げます。
それに加え、昨年には国内外において様々な災害がありました。国内では平成になり最悪の被害となった、台風12号による紀伊半島の被害をはじめとする台風や豪雨の被害や新燃岳噴火、海外ではニュージーランドやトルコ等での地震やタイの洪水被害がありました。これらの被災者の方々に対しても、改めてお見舞い申し上げます。
ところで、昨年はブータンのワンチュク国王ご夫妻のご結婚およびご来日があり、ブータンという国が注目されました。確かに歴史のある国であり、また国王ご夫妻も大変魅力的な方々なので、関心が高くなっても不思議ではありません。また、ご夫妻のご結婚については、同年の英国のウィリアム王子ご夫妻やモナコのアルベール大公ご夫妻のご結婚とひとしく、心からお祝いすべきものであり、また国賓としてのご来日についても、他の国賓とひとしく心から歓迎するものであるのはいうまでもありまん。
一方、あまりにもブータンという国そのものを絶賛するような報道が多かったことには疑問を感じます。同国に居住していたネパール系住民がかつて事実上追放され、難民化している事実(いわゆるブータン難民)など、影の部分にも触れなければ公正な報道とはいえません。他にもブータンの抱える問題は少なくありません。
ブータンが「国民総幸福量(GNH)」を重視する「幸福の国」であるとか、日本もブータンを見習えといった言動もありました。確かに、経済の目的として各人の幸福を最大化するというのは重要なことですが、だからといって「経済成長」と「国民の幸福」をトレードオフの視点で語るのは誤りです。日本のような成熟国家が高度成長するのは無理であっても、現在の生活レベルを保つためには、一定の経済成長は続けなければなりません。
日本は経済財政ともに深刻な状況です。それを打開するには、政治が勇気を持って、本当の「格差」を是正し、既得権者と闘う決意が必要です。以下、例をあげます。
1つは、「世代間格差」の問題です。
リーマン・ショック後の世界的大不況に加え、東日本大震災の復興という大きな課題が加わりました。政府や日銀のできることにも限りがあります。公的債務は膨れ上がり、金利はゼロ金利。こんな状態では、財政政策も金融政策も有効に行えません。にもかかわらず、税金を1円でもあげようとしたり社会保障を1円でもカットしようとすれば、大ブーイングが起こるという現状は正常なのでしょうか。政府の「社会保障と税の一体改革」については、その精神については十分理解できますが、結局は「入」の方の「税」を増やすことに主眼がおかれ、「出」の「社会保障」の改革の議論はあまり進んでいません。現在の社会保障制度は、明らかに現在の高齢者と将来高齢者となるべき若い世代との間の「世代間格差」が顕著です。にもかかわらず、マスコミも野党もこの問題を長らく追及してきませんでした。年金の特例水準によって物価安を考慮せず支給していた問題が事業仕分けで明らかになりましたが、約7兆円もの無駄遣いが堂々と行われていたのに、ほとんど追及されなかったことは一例でしょう。人口が多く投票率も高い高齢者という「既得権者」の存在の大きさを認識させられました。
2つ目は、自由貿易を巡る「生産者と消費者の格差」です。
昨年のTPP(環太平洋経済連携協定)を巡る議論について、反対派からは経済学の入門レベルすら無視して、自由貿易のメリットそのものも否定するような主張がしばしばなされていたのは驚くべきことです。自由貿易により、例えば関税が撤廃されれば、消費者余剰(消費者の利益)が大きくなり、生産者余剰(生産者の利益)は小さくなるものの、社会的総余剰(社会全体の利益)は必ず大きくなるというのは、経済学では常識です。とはいえ、政治学的な観点でいえば、消費者1人あたりの利得よりも生産者1人あたりの損失の方がはるかに大きくなるため、どうしても生産者の声の方が大きくなり、政治家もそちらの顔色を見ざるを得なくなるというのがよくある話です。しかしそれは、全体的には圧倒的多数の消費者の利益が大きく失われるということであり、消費者と生産者の間の格差が生まれることとなります。TPPそのものの是非については、交渉を通じて判断すべきものですが、JAや医師会といった既得権者の声を代弁するような主張が関係者以外からもなされるというのは、自分で自分の首を絞めているということに気づく必要があります。
3つ目に、よくいわれる「正社員と非正社員の格差」の問題も簡単に述べます。
数年前の派遣村騒動はどこかに消えたとはいえ、未だに正社員と非正社員の給料や処遇の格差は大きなものです。ただ、「格差解消」を唱える立場から、派遣労働の禁止や正社員の解雇規制が主張されるのは腑に落ちません。そのようなことをすれば、失業率があがり、また正社員がますます保護されることに繋がり、格差は余計に拡大します。短期的には、非正規社員の雇用条件を改善することが必要でしょう。ただ、それだけでは本質的な解決にはなりません、本当に長期的に必要なことは、「終身雇用」や「年功序列」、「新卒一括採用」という時代にあわない日本的雇用慣行を終わらせ、「正社員」という既得権をなくし、「再チャレンジ」が容易な自由な労働市場を構築することです。それにはセーフティネットも必要なのは言うまでもありません。加えて、公的部門(公務員及び公的法人職員)と民間部門の格差是正も重要な論点です。
さて、経済学者のシュンペーターは、資本主義についてイノベーションによる景気循環の視点で論じたことで知られますが、彼は将来的にはイノベーションの衰退によって資本主義は崩壊し、社会主義の世になるという予測をしました。竹中平蔵『経済古典は役に立つ』(光文社新書)によれば、その「資本主義を崩壊させるメカニズム」の1つは、「知識人による資本主義への敵対化」だそうです。
ブータンを理想郷として「経済成長よりも心の豊かさ」などというメディアの論調をきけば、シュンペーターの予測が現実となる時代が来るかもしれません。旧ソ連が崩壊して本年で20年経ち、東欧の社会主義国も崩壊し、中国やベトナムも市場経済化し、また北朝鮮の金正日国防委員長が死去したというこの時代に、信じがたいかもしれません。しかし、日本国内の論調を聞いていると、結局は国家による経済への介入を是とし、先述した3つの「格差」と「既得権」を擁護するものが少なくなく、「右」も「左」も根底では社会主義を目指しているのではないかと思わされます。
我が国は本年、主権回復60年を迎えます。以上述べた懸念が杞憂となり、3つの格差を是正した自由な国を目指す方向に進んでほしいと願うほかありません。それこそが本当の意味での、「幸福の国」ではないでしょうか。
末筆となりましたが、本年が皆様にとって幸多き年となることを心からお祈りし、本年最初のブログの筆を擱きます。
追記
既にご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、KKDブログはTwitterもしています。つぶやき自体は多くはありませんが、ブログの更新のお知らせは必ずしています。また、興味深いつぶやきのリツイートを度々しています。
よろしければ、是非ともフォローしてください。http://twitter.com/niosmo
平成24年、皇紀2672年、西暦2012年になりました。
昨年を思い返せば、やはり一番に思い出させるのは東日本大震災です。あの恐ろしい地震と津波によって命を奪われた方々のことを思えば、今も哀惜の念に堪えません。また、地震と津波に伴う福島第一原子力発電所の事故は、国内では最悪の原発事故であり、故郷を離れて暮らすことを余儀なくされた方々も多数いらっしゃいます。また、原発事故による福島県に対する過剰な風評被害があったのは日本人として恥ずかしいことです。
東日本大震災の被災者の方々に、改めて心よりお見舞い申し上げます。
それに加え、昨年には国内外において様々な災害がありました。国内では平成になり最悪の被害となった、台風12号による紀伊半島の被害をはじめとする台風や豪雨の被害や新燃岳噴火、海外ではニュージーランドやトルコ等での地震やタイの洪水被害がありました。これらの被災者の方々に対しても、改めてお見舞い申し上げます。
ところで、昨年はブータンのワンチュク国王ご夫妻のご結婚およびご来日があり、ブータンという国が注目されました。確かに歴史のある国であり、また国王ご夫妻も大変魅力的な方々なので、関心が高くなっても不思議ではありません。また、ご夫妻のご結婚については、同年の英国のウィリアム王子ご夫妻やモナコのアルベール大公ご夫妻のご結婚とひとしく、心からお祝いすべきものであり、また国賓としてのご来日についても、他の国賓とひとしく心から歓迎するものであるのはいうまでもありまん。
一方、あまりにもブータンという国そのものを絶賛するような報道が多かったことには疑問を感じます。同国に居住していたネパール系住民がかつて事実上追放され、難民化している事実(いわゆるブータン難民)など、影の部分にも触れなければ公正な報道とはいえません。他にもブータンの抱える問題は少なくありません。
ブータンが「国民総幸福量(GNH)」を重視する「幸福の国」であるとか、日本もブータンを見習えといった言動もありました。確かに、経済の目的として各人の幸福を最大化するというのは重要なことですが、だからといって「経済成長」と「国民の幸福」をトレードオフの視点で語るのは誤りです。日本のような成熟国家が高度成長するのは無理であっても、現在の生活レベルを保つためには、一定の経済成長は続けなければなりません。
日本は経済財政ともに深刻な状況です。それを打開するには、政治が勇気を持って、本当の「格差」を是正し、既得権者と闘う決意が必要です。以下、例をあげます。
1つは、「世代間格差」の問題です。
リーマン・ショック後の世界的大不況に加え、東日本大震災の復興という大きな課題が加わりました。政府や日銀のできることにも限りがあります。公的債務は膨れ上がり、金利はゼロ金利。こんな状態では、財政政策も金融政策も有効に行えません。にもかかわらず、税金を1円でもあげようとしたり社会保障を1円でもカットしようとすれば、大ブーイングが起こるという現状は正常なのでしょうか。政府の「社会保障と税の一体改革」については、その精神については十分理解できますが、結局は「入」の方の「税」を増やすことに主眼がおかれ、「出」の「社会保障」の改革の議論はあまり進んでいません。現在の社会保障制度は、明らかに現在の高齢者と将来高齢者となるべき若い世代との間の「世代間格差」が顕著です。にもかかわらず、マスコミも野党もこの問題を長らく追及してきませんでした。年金の特例水準によって物価安を考慮せず支給していた問題が事業仕分けで明らかになりましたが、約7兆円もの無駄遣いが堂々と行われていたのに、ほとんど追及されなかったことは一例でしょう。人口が多く投票率も高い高齢者という「既得権者」の存在の大きさを認識させられました。
2つ目は、自由貿易を巡る「生産者と消費者の格差」です。
昨年のTPP(環太平洋経済連携協定)を巡る議論について、反対派からは経済学の入門レベルすら無視して、自由貿易のメリットそのものも否定するような主張がしばしばなされていたのは驚くべきことです。自由貿易により、例えば関税が撤廃されれば、消費者余剰(消費者の利益)が大きくなり、生産者余剰(生産者の利益)は小さくなるものの、社会的総余剰(社会全体の利益)は必ず大きくなるというのは、経済学では常識です。とはいえ、政治学的な観点でいえば、消費者1人あたりの利得よりも生産者1人あたりの損失の方がはるかに大きくなるため、どうしても生産者の声の方が大きくなり、政治家もそちらの顔色を見ざるを得なくなるというのがよくある話です。しかしそれは、全体的には圧倒的多数の消費者の利益が大きく失われるということであり、消費者と生産者の間の格差が生まれることとなります。TPPそのものの是非については、交渉を通じて判断すべきものですが、JAや医師会といった既得権者の声を代弁するような主張が関係者以外からもなされるというのは、自分で自分の首を絞めているということに気づく必要があります。
3つ目に、よくいわれる「正社員と非正社員の格差」の問題も簡単に述べます。
数年前の派遣村騒動はどこかに消えたとはいえ、未だに正社員と非正社員の給料や処遇の格差は大きなものです。ただ、「格差解消」を唱える立場から、派遣労働の禁止や正社員の解雇規制が主張されるのは腑に落ちません。そのようなことをすれば、失業率があがり、また正社員がますます保護されることに繋がり、格差は余計に拡大します。短期的には、非正規社員の雇用条件を改善することが必要でしょう。ただ、それだけでは本質的な解決にはなりません、本当に長期的に必要なことは、「終身雇用」や「年功序列」、「新卒一括採用」という時代にあわない日本的雇用慣行を終わらせ、「正社員」という既得権をなくし、「再チャレンジ」が容易な自由な労働市場を構築することです。それにはセーフティネットも必要なのは言うまでもありません。加えて、公的部門(公務員及び公的法人職員)と民間部門の格差是正も重要な論点です。
さて、経済学者のシュンペーターは、資本主義についてイノベーションによる景気循環の視点で論じたことで知られますが、彼は将来的にはイノベーションの衰退によって資本主義は崩壊し、社会主義の世になるという予測をしました。竹中平蔵『経済古典は役に立つ』(光文社新書)によれば、その「資本主義を崩壊させるメカニズム」の1つは、「知識人による資本主義への敵対化」だそうです。
ブータンを理想郷として「経済成長よりも心の豊かさ」などというメディアの論調をきけば、シュンペーターの予測が現実となる時代が来るかもしれません。旧ソ連が崩壊して本年で20年経ち、東欧の社会主義国も崩壊し、中国やベトナムも市場経済化し、また北朝鮮の金正日国防委員長が死去したというこの時代に、信じがたいかもしれません。しかし、日本国内の論調を聞いていると、結局は国家による経済への介入を是とし、先述した3つの「格差」と「既得権」を擁護するものが少なくなく、「右」も「左」も根底では社会主義を目指しているのではないかと思わされます。
我が国は本年、主権回復60年を迎えます。以上述べた懸念が杞憂となり、3つの格差を是正した自由な国を目指す方向に進んでほしいと願うほかありません。それこそが本当の意味での、「幸福の国」ではないでしょうか。
末筆となりましたが、本年が皆様にとって幸多き年となることを心からお祈りし、本年最初のブログの筆を擱きます。
追記
既にご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、KKDブログはTwitterもしています。つぶやき自体は多くはありませんが、ブログの更新のお知らせは必ずしています。また、興味深いつぶやきのリツイートを度々しています。
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