鳩山首相は現在訪米中である。首相は国連気候変動首脳会合や国連総会、それにG20金融サミットに参加する。また、米中韓露豪の各国首脳や潘基文国連事務総長との会談も行う。
今回は、地球温暖化問題とアジア外交について述べたい。
まず、地球温暖化問題について検討したい。民主党のマニフェストは、温室効果ガス削減の2020年までの中期目標を、90年比25%(05年比30%)減としていた。これは鳩山首相就任後も不変である。一方、麻生内閣でのそれは90年比8%(05年比15%)であり、政府の方針が大きく変化したことが分かる。
しかしながら、この目標には不安や疑問がある。財界や労組からは麻生内閣の目標ですら反発が多かった。もちろん、環境分野に関する投資や技術開発が促進されるのは、経済上需給双方の面でプラスである。現在の日本経済の「底打ち」も、エコポイントや環境関連製品の減税・補助金という麻生内閣の経済対策の寄与が大きいと見られる。しかし、仮に目標を絶対に達成させるために生産制限などが行われたりすれば、不況がさらに加速されかねない。97年の京都議定書の際は、既に温室効果ガスを削減してきた日本が90年比6%減という厳しい目標を課され、「乾いたぞうきん」を絞るようだという批判も少なくなかった。国際社会に対して大風呂敷を広げ、賞賛を浴びることだけが目的化しては、全く無意味である。
ただし、鳩山内閣のいう「削減」には排出権取引や炭素クレジットの活用も含まれているという。「友愛」の理念が行き過ぎて日本だけが損をしたり、経済に大きな悪影響を与えたりすることがないよう祈りたい。
次に、アジア外交についてである。鳩山首相は「友愛外交」の理念の下、「東アジア共同体」の創設についても述べている。しかしながら、中国等は人権問題や政治体制の面で、日本等と価値観が大きく異なっている。また、アジア諸国は発展途上国を多く抱えていて、国家間の経済格差が大きい。それに加え、日中韓には歴史認識や領土を巡る問題も存在する。従って、欧州の状況とは政治的・経済的に全く異なるわけである。EUのような「共同体」の創設は、極めて長期的な話であり、現在議論のテーマとすべきなのかどうか疑問だ。
北朝鮮を巡る情勢は、本年大きく動いている。テポドン2号と見られる飛翔体発射や核実験を行うなど、強硬姿勢を当初は見せていた。ところが、その後はやや「融和」の姿勢を見せだした。クリントン元米大統領や韓国の現代グループの会長が訪朝し、それぞれの国の「人質」が解放されたり、北朝鮮から故金大中元大統領の弔問団が派遣されたりした。また金正日総書記は最近、六者協議再開を示唆したともとれる発言をしたという。
では拉致問題はどうなるか。昨年福田内閣の下で先方と合意した「再調査」の動きは、今のところ全く見られない。その一方で、鳩山内閣成立後、北は「柔軟」ともとれる姿勢も見せている。
鳩山内閣は「政治主導」を掲げる政権である。鳩山首相、岡田外相、それに中井拉致問題担当相を中心に、「解決」のための戦略を打ちたててほしい。先方が「融和」の姿勢を見せているからといって、単に制裁を弱めればいいわけではない。ましてや、拉致問題に関する日本の主張を弱めたりすることは絶対に許されない。鳩山内閣も、「拉致問題解決無くして国交正常化なし」の方針を踏襲しているので、その心配はないと信じたい。一方、単なる「見返り」ではなく、拉致問題解決後の大きな「ゴール」として何があるかは、先方にある程度明確にする必要があるだろう。
日中関係については、友好関係の促進は期待したい。ただし、日中間や中国国内にある様々な問題に対して、「主張する外交」を忘れてはならない。とりわけチベットや東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)等の人権問題を無視したりすれば、民主党は人権についてダブルスタンダードなのかと疑わざるを得なくなる。「人間の安全保障」を、中国に対して強く求めるべきなのだ。鳩山首相はチベット亡命政府のダライ・ラマ14世とも会談したことがある。よって、この問題は注視しておきたい。
日韓関係については、鳩山首相と李明博大統領の間で対立が起こる可能性は極めて低い。一方、懸念される問題が2つある。1つは、李大統領が日韓併合100周年にあたる明年に天皇陛下のご訪韓を要請したことだ。戦後天皇のご訪韓は一度もなされておらず、陛下が訪韓されること自体は決して反対ではない。しかしながら、明年のご訪韓となれば、政治的意味合いを持つ危険性が高い。天皇の政治利用を許さないのは、左右問わず「国民の総意」なのは確実だろう。もう1つは、在日外国人参政権について改めて先方から要請があったことだ。小沢幹事長は「目鼻をつける」と述べたそうだが、この問題は「目鼻がつく」状態からは程遠い。まだまだ慎重に議論すべき段階であって、韓国に要請されて決めるような問題であってはならない。これらの問題で、鳩山内閣が誤った判断をせぬことを希望する。
鳩山内閣への期待は大きいが、外交については行きすぎた「友愛」に陥ることの懸念を抱かざるを得ない。国民は注意深く監視し続ける必要がある。
今回は、地球温暖化問題とアジア外交について述べたい。
まず、地球温暖化問題について検討したい。民主党のマニフェストは、温室効果ガス削減の2020年までの中期目標を、90年比25%(05年比30%)減としていた。これは鳩山首相就任後も不変である。一方、麻生内閣でのそれは90年比8%(05年比15%)であり、政府の方針が大きく変化したことが分かる。
しかしながら、この目標には不安や疑問がある。財界や労組からは麻生内閣の目標ですら反発が多かった。もちろん、環境分野に関する投資や技術開発が促進されるのは、経済上需給双方の面でプラスである。現在の日本経済の「底打ち」も、エコポイントや環境関連製品の減税・補助金という麻生内閣の経済対策の寄与が大きいと見られる。しかし、仮に目標を絶対に達成させるために生産制限などが行われたりすれば、不況がさらに加速されかねない。97年の京都議定書の際は、既に温室効果ガスを削減してきた日本が90年比6%減という厳しい目標を課され、「乾いたぞうきん」を絞るようだという批判も少なくなかった。国際社会に対して大風呂敷を広げ、賞賛を浴びることだけが目的化しては、全く無意味である。
ただし、鳩山内閣のいう「削減」には排出権取引や炭素クレジットの活用も含まれているという。「友愛」の理念が行き過ぎて日本だけが損をしたり、経済に大きな悪影響を与えたりすることがないよう祈りたい。
次に、アジア外交についてである。鳩山首相は「友愛外交」の理念の下、「東アジア共同体」の創設についても述べている。しかしながら、中国等は人権問題や政治体制の面で、日本等と価値観が大きく異なっている。また、アジア諸国は発展途上国を多く抱えていて、国家間の経済格差が大きい。それに加え、日中韓には歴史認識や領土を巡る問題も存在する。従って、欧州の状況とは政治的・経済的に全く異なるわけである。EUのような「共同体」の創設は、極めて長期的な話であり、現在議論のテーマとすべきなのかどうか疑問だ。
北朝鮮を巡る情勢は、本年大きく動いている。テポドン2号と見られる飛翔体発射や核実験を行うなど、強硬姿勢を当初は見せていた。ところが、その後はやや「融和」の姿勢を見せだした。クリントン元米大統領や韓国の現代グループの会長が訪朝し、それぞれの国の「人質」が解放されたり、北朝鮮から故金大中元大統領の弔問団が派遣されたりした。また金正日総書記は最近、六者協議再開を示唆したともとれる発言をしたという。
では拉致問題はどうなるか。昨年福田内閣の下で先方と合意した「再調査」の動きは、今のところ全く見られない。その一方で、鳩山内閣成立後、北は「柔軟」ともとれる姿勢も見せている。
鳩山内閣は「政治主導」を掲げる政権である。鳩山首相、岡田外相、それに中井拉致問題担当相を中心に、「解決」のための戦略を打ちたててほしい。先方が「融和」の姿勢を見せているからといって、単に制裁を弱めればいいわけではない。ましてや、拉致問題に関する日本の主張を弱めたりすることは絶対に許されない。鳩山内閣も、「拉致問題解決無くして国交正常化なし」の方針を踏襲しているので、その心配はないと信じたい。一方、単なる「見返り」ではなく、拉致問題解決後の大きな「ゴール」として何があるかは、先方にある程度明確にする必要があるだろう。
日中関係については、友好関係の促進は期待したい。ただし、日中間や中国国内にある様々な問題に対して、「主張する外交」を忘れてはならない。とりわけチベットや東トルキスタン(新疆ウイグル自治区)等の人権問題を無視したりすれば、民主党は人権についてダブルスタンダードなのかと疑わざるを得なくなる。「人間の安全保障」を、中国に対して強く求めるべきなのだ。鳩山首相はチベット亡命政府のダライ・ラマ14世とも会談したことがある。よって、この問題は注視しておきたい。
日韓関係については、鳩山首相と李明博大統領の間で対立が起こる可能性は極めて低い。一方、懸念される問題が2つある。1つは、李大統領が日韓併合100周年にあたる明年に天皇陛下のご訪韓を要請したことだ。戦後天皇のご訪韓は一度もなされておらず、陛下が訪韓されること自体は決して反対ではない。しかしながら、明年のご訪韓となれば、政治的意味合いを持つ危険性が高い。天皇の政治利用を許さないのは、左右問わず「国民の総意」なのは確実だろう。もう1つは、在日外国人参政権について改めて先方から要請があったことだ。小沢幹事長は「目鼻をつける」と述べたそうだが、この問題は「目鼻がつく」状態からは程遠い。まだまだ慎重に議論すべき段階であって、韓国に要請されて決めるような問題であってはならない。これらの問題で、鳩山内閣が誤った判断をせぬことを希望する。
鳩山内閣への期待は大きいが、外交については行きすぎた「友愛」に陥ることの懸念を抱かざるを得ない。国民は注意深く監視し続ける必要がある。