「元死刑囚」という異様な肩書を持つ女性が、自らの母親の記憶を持たぬ青年を抱きしめ、「お母さん生きてますよ」と語りかけた。このシーンを見て、感動を覚えた方も多いことだろう。
昨日、釜山において、拉致被害者の田口八重子さんの兄の飯塚繁雄さん、長男の飯塚耕一郎さんと、田口さんから日本語教育を受けた北朝鮮の元工作員で、大韓航空機爆破事件実行犯の金賢姫元死刑囚との面会が行われた。3人の記者会見は
http://sankei.jp.msn.com/world/korea/090311/kor0903111439010-n1.htm
田口さんや金氏のことについては、以前述べた。
http://pub.ne.jp/niosmo0418/?entry_id=1957713
今回の面会の意義のひとつは、拉致問題に対する日韓連携への動きの象徴であることだ。田口さんのご家族は、今までも金氏との面会を希望していたにもかかわらず、実現することはなかった。これは金氏が、韓国政府によって行動を制限されていたことに起因する。今回の面会の実現は、やはり昨年の韓国での政権交代の影響が大きい。金氏自身「盧武鉉政権で皆さんがご存じの通りのことがあった」と会見で述べている。
面会では、金氏から何らかの重要証言がなされることも期待されていた。今回はさほど大きな証言はなかったようだが、金氏が今まで政府に行動を制限されていた身であり、なおかつさほど長くないはじめての面会であったということを鑑みれば、やむをえまい。ただし、今回の証言でも、北朝鮮側の説明とは大きく食い違う部分もあった。継続的な面会や、訪日を実現させることが、今後の課題であると感じる。
大韓航空機爆破事件については、近年韓国内では、韓国政府陰謀説という信じがたい説が出ていることは以前も述べた。
http://pub.ne.jp/niosmo0418/?entry_id=1095249金氏はこのことについて、改めて「テロであり、私がニセ者ではない」とし、遺族との面会については「遺族が、北朝鮮のテロであるということを認めるなら会いたい」と述べた。115名が亡くなった残虐なテロ行為について、北朝鮮は未だに関与を否定し、ましてや謝罪や賠償を行う気配はない。にもかかわらず、米国政府がテロ支援国家指定を易々と解除したことは、改めて理解に苦しむ。
今回の面会は、各マスコミで大きく報じられた。このことが、拉致問題や大韓航空機爆破事件に対する日韓両国での世論の関心を少しでも高めたのであれば、喜ばしいことだ。北朝鮮はもうじきミサイル発射を行う可能性が高いが、何があっても冷静にならねばならない。両国民は北朝鮮をめぐる諸問題を絶対に忘れず、これからも両政府に対して、解決のための努力を訴える必要がある。
金氏が貴重な証言者なのはいうまでもない。今回の面会をきっかけに、金氏が「いま、女として」果たすべき役割を認識し、これから実際にその役割を担ってくれることを望む。
(追記)
韓国のメディアの反応を少しチェックするため、朝鮮日報の社説
http://www.chosunonline.com/news/20090312000018、東亜日報の社説
http://japan.donga.com/srv/service.php3?biid=2009031293498、そして中央日報の社説
http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=112514&servcode=100§code=110を見てみた。
前二者の反応は日本でのそれとおおむね同様であろうし、韓国人拉致問題の解決も強く訴えている。特に東亜は、「北朝鮮政権を刺激することを心配し、面会を拒否してきた前政府は、非人道的な行為を恥ずべき」とし、田口さんご家族と金氏の面会を拒否した盧武鉉前政権を批判する。
また三紙とも大韓航空機爆破事件に触れ、前政権下で巻き起こった「陰謀論」について批判している。
これら三紙はすべて保守系の新聞だが、部数でみれば韓国における三大紙であり、韓国世論への影響を期待したい。