あめつちの便り「土の音」🌺
【ほうき星は鈍足自慢】岡田和彦(※)記者コラム
七尾北湾に「ほうき星」というヨットが浮かんでいる。金沢で自然塾を主宰する上村彰さんの自作艇だ。7メートルほどの小さな白い船体は、波静かな入り江にとてもよく似合う。
上村さんは1980年から81年にかけ、この船で単独、赤道を越え、南太平洋のトンガ王国と日本を往復している。ほうき星は最初から南太平洋行きを考えて建造してある。上村さんは造船所に住み込みながら、こつこつと「夢」を組み立てたという。
ほとんどのヨットがアルミ製のマストを使うなか、木材を積層して、何があっても折れそうにない「帆柱」を持つ。金具は相模湾の沈船から引き揚げたブロンズ製。パイプには溶接の跡、塗装にははけ目が残り、セイル(帆)は破れをつくろった跡が目立つ。
「沈まないこと」を最重視したため、とにかく頑丈。そのため「見事な」鈍足ヨットだ。ちょっとしたセイルのコントロールで艇速が微妙に変わるレース艇ばかり乗ってきた私にとっては戸惑いを感じるほどだ。
舵(かじ)をきってしばらくしてから「よっこらしょ」とへ先が回り始める。その代わり、舵から手を放してもそのまま真っすぐ走り続けてくれる。
「海に来た時ぐらいのんびりしろよ」と言われているような気がしてくる。
昨年の秋に上村さんと湾内をクルージングした時は、船尾から流した仕掛けにサバが続けて2匹かかった。「ちょうど人数分だ」と笑いながらコンロで塩焼きにしたが、さあ食べようとしたらしょう油がない。
悔しい思いをしたが、海の上ではしょうがない。「次はしょう油を持って行かなくては」と心に
決めている。 朝日新聞 金沢支局 岡田和彦
(ふれあい朝日1994.4.15)
(※)岡田記者が金沢赴任中は、筆者たちの環境グループ "海と星のネットワーク" が取組む「海洋汚染調査・清掃」作業にボランティア参加されたり、当店奥の囲炉裏(いろり)の部屋【一草庵】で時事問題を討論したりもした。
この頃のマスコミ関係者は、サラリーマン社員と言えない気骨と芯のある人が何人もいたように思う。