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スクリャービン/ネムティン:神秘劇序幕より「宇宙」、他

2017-01-09 23:27:00 | CD


アレキサンドル・スクリャービン、アレキサンドル・ネムティン:
・神秘劇序幕 第1部「宇宙」
 ピアノ:アレクセイ・リュビモフ
 オルガン:イリーナ・オルロヴァ
 ユルロフ・ロシア合唱団
 モスクワ・フィルハーモニー管弦楽団
 指揮:キリル・コンドラシン

・交響的詩曲 ニ短調
 ソビエト国立放送交響楽団
 指揮:ボリス・デムチェンコ

・ピアノと管弦楽のための幻想曲
 モスクワ放送室内管弦楽団
 指揮:ミハイル・ユロフスキー

Russian Disc: RD CD 11 004



 スクリャービン先生はモスクワ音楽院ピアノ科を出ており、作品の多くはピアノ曲ですが、交響曲もそれぞれ趣向を凝らした5曲があることを知っているのはなかなかディープなマニアでしょう。

 ある日、私は石丸電気でまだ聴かぬイカした曲はないかと店内をうろついておりました。そこでスクリャービン先生のコーナーを見ていたら「スクリャービン:交響曲第6番『宇宙』」という手書きのラベルが入ったCDがありまして、それを見た瞬間に「ウソつけコノヤロウ!」と憤慨しながらCDを持ってレジに走って購入したのでした。

 秋葉原の今はなき石丸電気、その輸入版クラシックCDには手書きの日本語タイトルが記入されたラベルが表示されていました。そしてそこにはこのように天然ともネタともつかない奇妙なタイトルが付けられていた場合が往々にしてあったのです。

 それにしてもありえない第6番のナンバーと、「宇宙」というデカいスケール。いったい何をどう間違ったらこんなタイトルになるのかと家に帰ってCDを検分してみると、どうもこの曲はもともとスクリャービン先生が「神秘」という曲として構想してたもののようです。音と色彩の共感覚の持ち主であったとされるスクリャービン先生は交響曲第5番「プロメテウス」にて音楽と色彩の融合を意図したわけですが、それをさらに推し進めて、光、香り、舞踏などを伴ったマルチメディア芸術として構想されていたのが「神秘」だったそうです。この作品はインドの寺院で数日にわたって上演されるというイメージがあったようで、もともと奇人変人だったスクリャービン先生でしたが、このころは誇大妄想が暴走してかなりイっちゃってたようです。そんな先生は唇の虫刺されが原因で43歳の若さで亡くなってしまいました。なんという損失!

 そんないきさつから永遠にお蔵入りするかに思われた「神秘」ですが、ネムティンなるロシアの作曲家が26年の歳月をかけて補筆完成させたのが「神秘劇序幕」であり、その第1部が本CDの「宇宙」なのだそうです。「神秘」のエピソードは知っていましたが、さすがに「宇宙」までは知らなんだ。ちなみに第2部は「人間」、第3部は「変容」だそうです。なんとなく交響曲第3番の構成に似てる?

 さてそんな「宇宙」を聴いて感じました。これは『プロメテウス』の拡大コピーじゃないかあ!

 従来のスクリャービン先生の管弦楽法と同様に、妖艶なソロ・ヴァイオリン、独自の自我を持ったかようなソロ・トランペット、神界へと飛翔するトリルを奏でる木管楽器が全編にみなぎります。その上でピアノ、オルガン、歌詞のない合唱が炸裂し、全体を極めて無調な「神秘和音」が支配するのがまったく『プロメテウス』そのまんま。しかも演奏時間が40分と拡大されております。けれどもネムティン氏はあえてこのようにスクリャービン的マンネリズムを拡大したのでしょう。

 とにかく細部のモチーフも全体の構成も何が何だか判別することもできないのですが、とにかくやたらとスケールが大きいのはよくわかります。「宇宙」のタイトルは伊達ではありません。映画『2001年宇宙の旅』で流れていてもおかしくないような音楽です。



 こちらの動画は最初と最後の部分をダイジェストとしてまとめたもののようで、これだけでも精神が宇宙(というかあっちの世界)に行ってしまいそうです。

 いずれ第3部までの通しの演奏を聴かねばならんでしょう。3時間かかるらしいですが。

 カップリングの『交響的詩曲 ニ短調』は24〜5歳のころの作品のようで、まだワーグナーの影響もありながら、若きスクリャービン先生特有の過度にドラマティックな旋律が前面に出ている作品。作品番号もなく、先生としては習作なのかもしれません。交響的詩曲、と書きましたが、「Symphonic Poem」ですから「交響詩」と書いても正しいです。けれども「詩曲」というジャンルを開拓した先生に敬意を表して「交響的詩曲」と呼びたいところ。

 もう一曲の『ピアノと管弦楽のための幻想曲』はさらにさかのぼり15〜6歳ころの作品です。こちらはショパンのような華麗なピアニズムにいまひとつ冴えない管弦楽がからむという、良く言えば若々しい一曲。幻想曲とはいえ、とにかくクソ真面目に作られているなという印象。ところがどの作品リストにも載っておらず、このディスクで存在を初めて知りました。本当にスクリャービン先生の作品なのか?と疑問を持ちましたが、聴いてみると明らかにスクリャービン節でありました。

 というわけでいろんな意味でインパクトのある『宇宙』と、マイナーな初期2曲のディスクであります。スクリャービン先生はひょっとしたら音大のピアノ科のお嬢様方御用達のちょっと濃厚な作曲家ていどに認識されているかもしれませんが、生真面目なだけに狂気にも際限がないという両面が垣間見える一枚でありました。


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