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5月の課題本『弁護側の証人 』

2009-05-30 22:41:37 | ・例会レポ

小泉喜美子(著)  刊行日:2009年4月17日
・集英社文庫 定価:580円

各氏絶賛!
伝説の「どんでん返し」大傑作ミステリーがいまよみがえる──

ヌードダンサーのミミイ・ローイこと漣子は八島財閥の御曹司・杉彦と恋に落ち、玉の輿に乗った。しかし幸福な新婚生活は長くは続かなかった。義父である当主・龍之助が何者かに殺害されたのだ。真犯人は誰なのか? 弁護側が召喚した証人をめぐって、生死を賭けた法廷での闘いが始まる。「弁護側の証人」とは果たして何者なのか? 日本ミステリー史に燦然と輝く、伝説の名作がいま甦る。
                                             集英社BOOKNAVI

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今回は、久しぶりに和室での開催。先月の見学を経ての早速の入会表明者、和室が大の苦手の会員、そして見学者など、男性6名に女性12名(うち見学者2名)が、豪雨の中、会場に集まりました。

今月の課題本に関する会員諸氏の感想を一言で言い表すならば、

「だまされる快感」

に尽きるのではないでしょうか。例えば映画「スティング」のラストのどんでん返し、奇術師の鮮やかな手さばきで操られるカード・マジックの妙など、私たちが時として体験する「気持ちよくだまされる快感」を、本作から感じた人が多かったようでした。

すなわち、

「作者の術中にはまり、どんでん返しにひっかかった」
「うまくだまされたけれど楽しかった。読んでよかった」
「序章から妻と夫の関係にだまされてしまった」
「だまされることが楽しい小説なので、ミステリ通の人など、はじめから著者のひっかけがわかってしま人はちょっとかわいそうな気がする」

など、だまされたことを素直に喜ぶ立場の感想がほとんどでした。また、昭和三十年代という本作が書かれた時代と現代を比較する立場からは、

「当時としては新しい斬新なものだったのだろう。今読むと違和感を感じるところもあるが、三十年代に書かれたことを前提に読めばよいのでは」
「現代のミステリの基準からすれば「穴」だらけかもしれないが、面白ければそれはそれでいいのでは」
「文章力がある人の作品は、たとえ古いものであっても楽しめて読むことができた」
「男は男言葉、女は女言葉と、それぞれが話す言葉に時代を感じた」
「言葉は変わるかもしれないが、いいものは変わらないと思う」

などの意見、感想が多く聞かれました。特に作者の文章表現力については、

「うまい作家だと思う」
「花や風景などの自然描写、屋敷内の調度など、ディテイルに凝っている」
「キャラクター一人一人への思い入れがないように感じる。その分、小説としてはものたりないが、それは翻訳家出身という作者の履歴からすれば仕方のないことか」

と感じたようです。

他には、

「杉彦の性格が悪すぎる。誠実さにかける」
「なぜ、大金持ちの資産家一族には性格のゆがんだ悪いやつばかり生まれてくるのだろう」
「司法専門家の立場から言うと、裁判中に証人が直接、証拠品を持ち出すことはありえない」
「自分が読んだ某出版社の本は、カバーの解説が内容をまったく曲解したもので、それを読んでから本編を読み始めたため、最後までつじつまが合わなかった」

というものもありました。

講師の菊地先生は、大学時代に目黒さんが本作を絶賛した思い出から話しを始め、

「ミステリ、推理小説は作者と読者のいたちごっこ。読者には読めば読むほど悪知恵がついていき、作者はそれに対抗するためにトリックや構成に凝り、現代の新本格派のように「狭い世界」に陥ってしまっている。そうした意味からもこの作品は、古いものではあるが、書き方、文章のうまさなどから推理小説のテキストとしては最適のものだと思う」

とまとめてくれました。

急逝したため、作者にはそれほど多くの作品はありませんが、残念なことにそれらの作品はほとんどが絶版状態で読むことがかないません。この集英社文庫版は、一ヶ月と経たないうちに重版が決まったと聞いています。文庫化する作品が払底気味の現在、これを機に作者の埋もれた遺作がこれからも続々と復刊されることを祈っています
                                    天馬トビオ

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