
ジェイムズ・ヒルトン
『チップス先生、さようなら』
(新潮文庫)
※著名な作品で多数発行されていますが、今回は白石朗訳に限ります。
霧深い夕暮れ、煖炉の前に座って回想にふけるチップス先生の胸に、ブルックフィールド中学での六十余年の楽しい思い出が去来する――。腕白だが礼儀正しい学生たちとの愉快な毎日、美しく聡明だった亡き妻、大戦当時の緊迫した明け暮れ……。厳格な反面、ユーモアに満ちた英国人気質の愛すべき老教師を、英国の代表的なパブリック・スクールの生活を描いて絶賛された不朽の名作。(Amazon内容紹介より)
例会レポート
学校の先生を主人公にした日本最初の小説って何だろうね。すぐに思ったのが、夏目漱石の『坊っちゃん』かな。他にも読んだことはないけれど、島崎藤村の『破戒』も被差別出身教師の話だったようだし、『田舎教師』なんていかにもそれっぽい題名の小説もあるみたい。戦後では、石坂洋次郎の『若い人』。読んだことはないけれど、桜田淳子が女学生で、小野寺昭が先生を演じていた映画は観ました。
――というわけで、今回の課題本は、イギリスの教師小説『チップス先生、さようなら』。出席者は、男子5名、女子10名と、最近ではきわめて盛況。作品の評価も高く、同じ推薦者が挙げた3月の課題本『白磁海岸』が嘘のよう。
「大きな事件は何も起こらないけれど、小さなエピソードを積み重ねることで、ラストの教師生活の集大成が生きてくる」
「生徒との付き合いなど、教師としての面が良い」
「長いスパンの物語を短い分量で描いているため、あらすじを追っているような感じがした。昔の価値観で生きるチップス先生と、時代の流れで変化する学校との対比」
「古き良きイギリスの教師。チップス先生は自分らしく生きた教師」
そして、皆さんがこぞって絶賛したのが、妻のキャサリン。
でも、若くして亡くなってしまうキャサリンが登場するのはほんの僅かなんです。
「キャサリンとの恋愛のディテールが描かれないのは、チップス先生の私生活ではなく教師生活がテーマだからか」
「淡々と描かれたチップス先生の教師生活の中で、キャサリンのことを誰も覚えていないことは寂しかった」
もう一つ、忘れてはならないのが、教師生活に暗い影を落とした第一次世界大戦。戦争の傷跡とその悲しみ。
「ドイツ人教師とのエピソードなどで、チップス先生の人柄がわかってくる」
「チップス先生は余裕の老後を迎えたのに、妻子や多くの生徒が戦争で若くして死んでいる」
作者ヒルトンについても、疑問や感想が聞こえてきました。
「若いうちにイギリスを去ってアメリカに移住し、若くして死んだ作家が、なぜこうした魅力的な老人を描けたのだろう」
「冒険小説の『失われた地平線』が面白かった」
講師からは、前者の疑問に対しては、
「40代であっても、50代であっても、老人をうまく描くことができる作家は良い作家だ」
後者については、
「物語を描いた大衆作家だったヒルトンにとって、『チップス先生、さようなら』は変わり種の一作。現実的な学校運営を語る校長を登場させて文明批評をしたり、さりげなく第一次世界大戦下の暗い影を描きこんだかと思えば、ジョークを連発させることでチップス先生の人物造形をふくらませている。人間の普遍的な一面を確実に描いている」
話は戻って、教師を主人公に据えた最近の小説やテレビドラマに目を向ければ、教師は、医者と弁護士・検察官と警察官とかわりばんこで活躍しています。大いなるマンネリですが、やはり教師という職業はドラマにしやすいんでしょう。ところで、皆さんにとっての、理想の教師ってどの作品の誰なんでしょうね。 講師コメント
先生ものというと石坂洋次郎の専売特許だけど、類似作家類似作品もあったね。ちなみに白川渥、鳴山草平、若杉慧がそうだし、秋元書房の思春期ものはほとんどが先生もの、というより学園物というべきかもしれない。
先日亡くなった津本陽に『敗れざる教師』というのがあった。
先生もの、学園ものは読書のストロング炭酸水です。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます