村田沙耶香『コンビニ人間』
単行本:文藝春秋 2016年
雑誌:文藝春秋 2016年9月号(8月10日発売)
第155回芥川賞受賞作!
36歳未婚女性、古倉恵子。大学卒業後も就職せず、コンビニのバイトは18年目。これまで彼氏なし。
オープン当初からスマイルマート日色駅前店で働き続け、変わりゆくメンバーを見送りながら、店長は8人目だ。
日々食べるのはコンビニ食、夢の中でもコンビニのレジを打ち、清潔なコンビニの風景と「いらっしゃいませ!」の掛け声が、毎日の安らかな眠りをもたらしてくれる。
仕事も家庭もある同窓生たちからどんなに不思議がられても、完璧なマニュアルの存在するコンビニこそが、私を世界の正常な「部品」にしてくれる――。
ある日、婚活目的の新入り男性、白羽がやってきて、そんなコンビニ的生き方は「恥ずかしくないのか」とつきつけられるが……。
現代の実存を問い、正常と異常の境目がゆらぐ衝撃のリアリズム小説。(Amazon 内容紹介より)
==例会レポ==
芥川賞を受賞した『コンビニ人間』はとても好評でした。
「コンビニ」と「人間」をドッキングさせたインパクトのある題名に惹かれ、推薦しました。
以前、コンビニエンスストアのお弁当の開発をしていた私は、「コンビニ」になんとなくなじみがあって、どんな話なのだろうと思ったのです。
出席者の意見としては
・芥川賞もおもしろいではないか!
・導入部が音の描写からというのがいい。題名がキャッチーだ。
・自分の中にもあるのではないかと思える「変さ」に共感できた。
・短編小説のお手本のような小説。
・共感できるところと、共感できないところのバランスがいい。
・他者からみたら、この主人公はとても変な人。だけど一人称で書かれているとすごく変だと感じさせないところが上手。
・人はだれでも、なにか型にはまって生きているところがあるのでは?会社に勤めるということはそんなところがある。
・白羽さんはひさびさに「こいつ殴りて~」と思った人物だった。仕事があると自分の居場所がつくれる。少しのずれは許されるのでは。
・『赤頭巾ちゃん気をつけて』以来のおもしろさ。仕事のリズムがいい。主人公にとってはにおいとか音とかこころよい世界なのだろう。ベッドシーンとかなくてがっくり。
・面白い。共感はあまりできなかった。主人公はレプリカントっぽい。
・白羽さんに言い返すところを読んで主人公は案外しっかりしているようで、ほっとした。
・村田紗耶香にハマっていた。この作品は彼女の作品の中でも「変な度合い」は低いかも。
・今までの作品とは違って、笑いがとれるところが新鮮。
・一気に読めて面白かった。白羽さんを切ったのはすっきりしたけど、コンビニに戻ってしまってよかったのか?
など、好評でした。もやもや、イライラも感じたという意見もありましたが、こんなに好評だとは。もう少し「嫌い」という意見があったほうが盛り上がったのかなと思ったりしました。
講師からは
大江健三郎の『死者の奢り』以来の物の見方が今までと全く違うような物語をつくっている。
出だしがすごい。音の表現でコンビニを現した描写力。
小説の作り方はうまく、破綻なくまとまっている。
白羽は哲学的で、主人公は曖昧さの極致。白羽が「序破急」の「破」としてうまく働いている。
『コンビニ人間』はあたかも新しい種族のよう。
コンビニを取り上げている意味は現代社会の合わせ鏡としているのでは?
コンビニの適正在庫を保つために欠品がないよう補充する必要があるがそこに必要なのは人ではなく作業する部品。社会の活動も同じようなことになってきてしまっている。
自分がかかえている普通じゃないところをみんなも抱えているということを感じてほっとできるのかも。
作者はセックスや結婚、出産、死などについて独特の感性をもっているよう。
『しろいろの街の、その骨の体温の』も独特。(文庫本は西加奈子の解説がいい!ベッドシーンはちっともエロティックではないが)
『消滅世界』もよい。
自分が普通なのか、そうじゃないのか?世の中の普通って何?というようなことは私も考えるので、この主人公の気持ちも少しは解るような気がしました。
人間誰もが同じということはありえないのだから、「変」というのは誰が判断するのか?
確かにこの主人公は人から見たら、相当「変」な人なのでしょうが、ちょっとでも人と違ったら、許さないというような風潮は非常に怖いと私は思っているので(戦争に突入した時代も人と違っていたら許さないみたいなことがあったと思うので)このような小説が認められる世の中はまだまだ大丈夫かなと、少しほっとしたりします。
これからも村田紗耶香さんには期待!!
「コンビニ人間・古倉恵子」という小説を書きました。よろしかったら、ご覧ください。