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雨季合宿課題本  井上ひさし『吉里吉里人』

2018-07-02 11:38:35 | ・例会レポ

井上ひさし『吉里吉里人』
(新潮文庫 上巻中巻下巻

ある六月上旬の早朝、上野発青森行急行「十和田3号」を一ノ関近くの赤壁で緊急停車させた男たちがいた。「あんだ旅券ば持って居だが」。実にこの日午前六時、東北の一寒村吉里吉里国は突如日本からの分離独立を宣言したのだった。政治に、経済に、農業に医学に言語に……大国日本のかかえる問題を鮮やかに撃つおかしくも感動的な新国家。日本SF大賞、読売文学賞受賞作。(上巻 Amazon 内容紹介より)

例会レポート

最初「終末から」に連載されたものの未完に終わったそうで、その時のさし絵は佐々木マキだったとか。
81年に単行本で出て日本SF大賞、読売文学賞と星雲賞も獲っていたんですね。


東北の小さな村・吉里吉里村が吉里吉里国として、日本からの分離独立を宣言。
そこからいろいろな事件が起こるわけですが。
作者はこのストーリーを書きたかったというよりも、書きたいことを書くために、東北の小さな村の独立というストーリーを考え出したのだと思います。
読んだ人のほとんども、とにかく作者は、書きたいことは全部書いている、と感じたようです。
その情熱と権力への立ち向かい方はすごい。
書かれているのは日本の農業問題、コメの話、経済、政治、貿易、医療、そして言葉などなど。
特に作者は言葉に関しては、すごいこだわりがあるようです。
虐げられてきた東北の意識、もあります。


30年以上前に書かれた様々な問題が、今、現実になりつつあったりするのがすごい。
1985年に文庫化されていますが、2年ほど前にあらたに改版が出たのは、やはりそういうことと、東北の大震災後というタイミングでしょうか。
ただ何人かの方が感じたように、「書きすぎ!」というのも確かで、経済論が講義のように感じられたり、吉里吉里語文法、ここまで細かく書かなくてもいいのに、下ネタ多すぎ!などの意見がありました。
でも多分作者は、書きたかったんでしょうね。
書きたいことは、とにかく全部書いている。
言葉遊びも、吉里吉里語文法も、作者自身が楽しみながら書いてるのでしょう。

講師からの指摘で、おお〜!そうか!と思ったのが、物語が北へ向かう列車の中で始まること。
なぜ電車か? これは銀河鉄道である。
列車の中から始まって、異次元(ユートピア)に行く。なるほど!
井上ひさしは同じ東北出身と言うこともあるのでしょうか、「賢治を好きなことでは誰にも負けない」とまで言っているそうです。
そもそも、東北にユートピアを、というのが賢治的ですね。

井上ひさし作の賢治の評伝劇「イーハトーボの劇列車」は、井上戯曲の中でも名作だと思います。
読書会の後で、戯曲を読み直しました。
東北の村に、そして世界のあちこちにユートピアを作って連携し合えるようにしたい、
すべての村が世界の中心になって、都会を向かないようになればいい、といった台詞があり、「吉里吉里人」に通じるものがありました。
「イーハトーボの劇列車」の初演がまさに、「吉里吉里人」の出る前年。
つながっているのでした。

「吉里吉里人」の設定は6月、初夏の、農村の緑が一番美しいとき。
村の風景が、まさにユートピアのように描かれていました。
確かに、饒舌すぎる部分があり、もうちょっと整理してくれてもよかったのに、というところはありますが、でもこれが井上ひさしだ、という気がします。
作者は2010年、大震災の前年に75歳で亡くなっています。
もうちょっと生きていたら、東北の震災・津波、そして原発や東電に関して、どんな発言をしていただろう、と思っています。
もちろん、今の政治に関しても。

他、おお〜と思ったご意見・感想は、ケイコ木下は壇蜜でいかが?というご意見。
それと、会員Tさんの、この本に限らず、読書会で、みんなと一緒に読むからいいんです、という深いご意見でした。


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