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雨季合宿課題本 吉川英治『鳴門秘帖』

2017-05-06 18:33:27 | ・例会レポ

吉川英治『鳴門秘帖』全3巻
(講談社 吉川英治歴史時代文庫 1989年 一巻二巻三巻 ) 

他国者は容易に近づけない、密国阿波に潜入した幕府隠密・甲賀の宗家、世阿弥が消息を絶って10年。家名の断絶を目前にして、悲嘆にくれる娘のお千絵を見かねて、二人の男が阿波渡海をはかった。だが夜魔昼魔、お十夜孫兵衛、見返りお綱が二人の邪魔に入る。(一巻 Amazon 内容紹介より) 

=例会レポ=

 実家には吉川英治全集がありました。
しかしどの巻もとうとう読む機会なく今日に至ってしまったので、以前から読むきっかけがほしかったのです。
 また、合宿はおもしろ本棚にとってのお祭りです。
深刻に議論を戦わせるような作品よりは
非日常かつ胸躍るような長編を読みたくて
伝奇小説として名高いこの作品を推薦しました。
 以前トーマス・マンの『魔の山』を課題本に推薦しましたが、
『魔の山』が〈読んだという記録に残るもの〉だとするならば、
『鳴門秘帖』は〈面白かったなあ、またはつまんなかったなあという記憶に残る〉作品だと思います。
小難しい理屈は抜きでとりあえずその宇宙に遊べば良いのじゃないかと。
 
 鳴門、と名がついているのに大阪から始まるし、
唐草銀五郎という粋な名前があるから主要人物と思っていたらあっさり死んじゃうし、
鳴門って言ってるのに江戸に逆戻りするし。
文庫第一巻の終わりごろで、これからいよいよ面白くなるとあるのを目にして、
「じゃあ今までの話は要らないのでは?」と突っ込みたくなりました。
そもそも大阪の目明しなのに江戸言葉だし、
みんな人の言葉は疑わずそっくり受け入れるし、
と思えば立ち聞きはするわ偶然が重なるわ、
火事になっても荒波にもまれても刀で切られても不死身。これでうまくいく、という時に必ずピンチになる、もうダメだとなった途端援けが入る。
現代のテレビ番組でもまだあるこんな手法は新聞小説として連載されたからかと思います。
 
 お十夜孫兵衛は辻斬りで敵側と見せかけて
実は・・・という展開を予想したのですが
善玉側は徹底的に善、悪玉は最後まで悔い改めずに悪。
お千絵さまは人の言葉に乗せられてさっさとついてゆく、
万吉は大した義理でもないのにお綱との約束を守って死にかけるし、
大勘は昔の義理のためにもう仕事を続けることはできないし、
みんなひどい目にあっているのに寝返りもなし、裏切りもなし。
登場人物は多いのにその人間関係は実に単純です。
やはりこれも新聞小説のためかと思われますが、
当時の読者はどんなに毎日が楽しみだったことでしょう。

 こういう場合は善玉よりも悪玉、主人公よりも脇役のほうが魅力的なもので、
私はお十夜孫兵衛と万吉から目が離せない。
しかし、お十夜の頭巾の種明かしにはちょっとがっかりしました。
せっかくキリシタンを出すのなら阿波の反幕の企みの仲間に入れてやりたかったなあ。
 そしてお十夜頭巾です。
眼だけ出ている、寝る時も風呂に入る時も外さない、ってどういうものでしょう?
特にお風呂に入ったら湯気でぺろんぺろんになってしまうのでは?
吉川英治記念館の学芸員さんのブログにも
「お十夜頭巾」が本当はどういうものかわからないとあったので
それが『鳴門秘帖』一番の謎です。

 長編小説、特に伝奇小説では広げた風呂敷をたたむのが難しくて、
『鳴門秘帖』も例外ではなく、法月弦之丞のマイホームなハッピーエンドは不満です。
 最後の一文から、真の主人公とはお綱であったのか、と合点しました。
お千絵さまもお綱もお米も恋してやまない弦之丞さまよりも、
お綱の心持や奮闘がより生き生きと感じられたのはそのせいだったか。

 ドラマだったら配役は、とよく考えますが『鳴門秘帖』はむしろ歌舞伎で見たい。
歌舞伎の舞台を想像しながら読みました。
お十夜は海老蔵(頭巾で眼だけ出しているから目力がほしい)、万吉は勘九郎か松緑、お綱は七之助、旅川周馬は獅童そして弦之丞さまは菊之助で。
と合宿では言いましたが、
さらに万吉は猿之助、竹屋三位が松也、阿波守が芝翫、世阿弥を幸四郎、鴻山は吉右衛門
お綱とお千絵さまは七之助二役で と妄想しています。

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