松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆住民投票を考える(2)ーじっくり考えて投票する(三浦半島)

2015-05-30 | 地方自治法と地方自治のはざまで

 住民投票にかけるくらいのテーマなので、まちの将来にかかわる大事な課題である。じっくりと考えることが前提になる。直接民主主義では、市民一人ひとりが、きちんと自ら考えて判断したかどうか、直接、一人ひとりが問われることになる。

 たとえば、だれだって、海外旅行へ行こうと考えたとき、どこへいくか、いくらで行くかで、パンフレットやインターネットでたくさんの情報を集め、さまざま検討するだろう。行きたいということだけではなくて、お金の都合、仕事や授業の日程、今後の旅行計画などを勘案して決定する。

 地方自治でも同じである。ただ、地方自治の場合は、海外旅行を何倍も緻密にした作業が必要になる。膨大なデータを集め、ニーズや費用や効果を分析し、さらには未来まで考えて、ようやく決定することになる。

 地方自治は、市民の暮らしぶりであるから、個々の市民が判断できないほど難しいものはない(国の憲法の場合は、とりわけ国際問題が絡むような条項は判断がさらに難しい)。地方自治における住民投票は、優秀な選良しか行えないというものではなく、分かりやすい判断資料と十分な時間的余裕があれば、だれでも適正な判断を下せるものである。

 そこで問題となるのはその資料と時間的余裕である。多くの市民は、仕事の都合、家庭の事情等で忙しく、じっくりと考える時間的余裕がない。そのため、どっちをとるかを求められた市民は、多くの場合、ついつい目立つ論点だけ、しかも感覚的な判断で、答え(○×)を出してしまうことになってしまう。

 公平で公正で、全体を網羅したきとんとした資料があって、それで判断する必要になるが、住民運動的な住民投票は、間接民主制の仕組みの中で、説得に敗れ、多数派を構成できない人たちが、その他の市民を巻き込んで、結論を変えさせようとする試み(運動)なので、自分の利点を針小棒大的に示し、相手の欠点を大げさに宣伝する争いになる。その結果、宣伝合戦、非難合戦が、どんどんとエスカレートする。

 新城市の住民投票で言えば、この新庁舎の基本コンセプトは、「市民(ひと) まち 未来が見える新城型庁舎」となっていて、単に職員が働く場所ではないという位置づけからスタートしているが、こう言った基本的な確認がおざなりにされて、耳目に入りやすフレーズが飛び交うことになる(何年もかけて、何度も確認しながら、創り上げてきた基本理念が、すっかり置き忘れられてしまうのは本当にもったいないことだと思う)。

 その最たるものは、50億円か30億円かといった選択である。この金額は希望価格のようなもので、積み上げられた裏付けのあるものではないが、インパクトがあるので、採用されたのだろう。私も、3万円でハワイに行けたら、当然、3万円を選択する。しかし、行ってみたら、ハワイ日帰り旅行だったら、行かない方がいい。

 50億か30億かといった選択を聞けば、あたかも、両案の間には、20億円もの差があるように感じるが、合併特例債などを使えるので、市の実質負担額の差は、ぐんと少なくなる(ある試算では6億円とのことである)。住民運動のリーダーの人たちは、私もよく知っている人で、物事を冷静に論理的に考える人たちなので、このことも分かっているが、それでも、勝つという目的のためには、あえて、大げさな数字を使わせるのであろう。住民投票の魔力である。

 先発の住民投票を見ると、合併するときに「名前が気に食わない」といった理由で判断したといったケースも多い。今後、すぐにやってくるのは、憲法改正の国民投票であるが、これをスーパーのチラシのようなPRで投票したら、未来を誤ることになる。国民一人ひとりが、きちんと判断し、一人ひとりが覚悟したうえで、決定することが求められる。

 地方自治は、「民主主義の学校」と言われる。学校なので学ぶことができる。住民投票をやった自治体は、終わった後に、一度冷静になって、町をあげて、きちんとした総括をする必要があるだろう。学ぶ機会をつくり、次の機会に活かせるようにすれば、何千万円もかける住民投票も無駄ではないと思う(逆に、怨嗟の連鎖をとどめたら、無駄どころではく、大損である)。

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1 コメント

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Unknown (新田博之)
2015-08-20 14:11:43
新庁舎の基本コンセプトは新庁舎がどんなカタチになっても実現されるべく努力されなければならないもので、住民投票ではその基本コンセプトは問うてはいない。
ハワイ日帰り3万円なら私も願い下げだが、30億円の建設予算でも人口5万人を割り込む新城市には十分な機能を備えた庁舎が建設できることを、同じ愛知県の同規模人口を持つ他の市が現実化している。
30億が可能かどうか、市としてまともに取り上げて検討したことはない。議会も取り上げたことはない。
市民の希望を一度はまともに取り上げ検討しさえすれば、住民投票など必要なかったのだ。
熟慮を遠ざけてきたのは、むしろ行政や議会なのだ。
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