松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆イギリスのEU離脱を考える(三浦半島)

2016-06-27 | 1.研究活動

 国民投票でEU離脱派が多数を占めたことに驚いた。EUについては、大阪国際大学の時、政治学の先生方と2年間、共同研究を行った。その時の関心は、EUの理念を東アジアでも実現できないかというものだった。『EUと東アジア共同体ー2つの地域統合』にまとめた(私は,EUの環境政策を担当した)。

 さて、離脱派の主な理由は、移民問題という。移民によって職が奪われ、賃金が下がっている。それが離脱派の原動力になった。

 しかし、この移民問題は、少し考えれば、EUそのものの問題ではないことがすぐにわかる。そもそもイギリスは、国境検査なしに入国を認めるシェンゲン協定には加盟していないからである。

 実際問題として、EU離脱で移民や難民の流入に、多少のブレーキがかかるかもしれないが、移民がいなくなるわけでもなく、入ってこないわけでもない。そもそも移民問題は、EUといったレベルの問題ではなく、国家主権主義の限界やグローバル化の進展、あるいは豊かさと貧しさの激しい落差、かつての植民地支配のツケなどといった、構造的で奥の深い諸問題の顛末に過ぎない。

 多くの報道があるように、もし本当に離脱したら、イギリスそのものにとっても、その政治的、経済的、社会的ダメージは計り知れない。すでに日本の企業でも、同じEUの域内という前提で、そのもっとも進出しやすい国として、イギリスを選んだので、EUを離脱し、関税がかかるとしたら、イギリスからの撤退は現実問題として起こってくるとコメントしているところもある。その結果、労働者の職がさらに奪われ、賃金は下がってしまうことは自明である。

 今後の見通しは難しいが、冷静になっていく中で、EUの意義(メリット)が明らかになっていく中で、やはりEUにとどまろうという意見が強くなっていくのか、あるいはEUとの厳しい協議の中で、嫌みなEU感が強まって、ますます国家主権主義の風潮が高まっていくかは予断が許されない。

 こうしたなかで、私の関心は、普通に損得勘定をすれば、何がいいのかは自明なのに、一転集中で個別論点で、ことの是非を判断し、あるいは長期的視点ではなく、目の前にある事柄で判断をするということが行われたのかという点である。

 これは、EU離脱という問題を二者択一の〇✖で決める国民投票という方式を採用した点に、そもそものボタンの掛け違いがあることは間違いないだろう。もう二度と戦争をしないという理念を具体化する仕組みとして始まったEUの意義、アメリカ型の大量生産・大量消費型経済に対するオルターナティブな経済共同体としてのEUの意義等を〇✖で決めるのはあまりに無茶である。

 無茶なことがわかっていて、それでも国民投票にかけるというのは、政治がポピュリズムになっているということでもあるが、根はもっと深いと思う。その政治を支える国民自身も、多様な論点を多面的に考えて、そのうえで苦渋の選択をするという道をとるだけの、余力というか、タメというか、許容性をなくしてしまったことが、政治家の判断をポピュリズムに走らせているのだろう。

 多様な論点を多面的に考える力を涵養するのが地方自治であるが、その地方自治でも、熟議を飛ばして、住民投票にかけるという風潮も目立ってきた。その結果、短期的な視点、一つのことだけで、政策の是非を判断してしまうという弊害も出てきた。こういう時代だからこそ、民主主義の学校である地方自治において、再度、原点に戻る必要があるが、あらためて、リーダーたちの決意と奮起を期待したいと思う。

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