松下啓一 自治・政策・まちづくり

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☆地方自治法に指定地域共同活動団体が規定された意味と展開可能性

2024-04-09 | 指定地域共同活動団体

 今回の法改正で、指定地域共同活動団体が、特に自治体との関係で地方自治法に規定されたことの意味はとても大きい。

 第260条の49第1項で、「市町村は、基礎的な地方公共団体として、その事務を処理するに当たり、地域の多様な主体の自主性を尊重しつつ、これらの主体と協力して、住民の福祉の増進を効率的かつ効果的に図るようにしなければならない」とされる。市町村の役割として、地域において、公共活動している民間組織との協働が規定された。

 その第3項で、市町村は、指定地域共同活動団体に対し、当該指定地域共同活動団体が行う特定地域共同活動に関し必要な支援を行うものとする。とし、第4項以下で、行政財産の貸与や随意契約等のさまざまな支援を行うことになった。

(1)地方自治法に新しい公共の考え方が取り入れられた
 地方自治法では、公共の主体は、行政と議会・議員という考え方でつくられている。そこに、「地域の多様な主体」も公共の担い手であるという規定が導入された。私は、これまで役所や議員はもちろん公共主体であるが、同時に市民(地域活動団体やNPO)も公共主体であると言ってきた(そのまとめは、『励ます令和時代の地方自治』)。地域から見れば当たり前のことであるが、地方自治法にも、いよいよ、その考え方が導入されたということである。

(2)地方自治法の協働の考え方が取り入れられた
 地方自治法では、信託論に基づく、民主的統制の考え方で貫かれている。地方自治法には、市民が主語の条文は6条あるが、役所にサ−ビスを求める規定もあるが、多くは役所や議員をチェックする規定である。市民は主権者で、市政決定や実行の権限を市役所や議員に信託している。したがって、それが市民の願い通りに動いているかをチェックできるための規定である。

 そこに、行政や議会と対等に市民(多様な主体)も公共を担っているという協働の考え方が導入されたということになる。ここに協働とは、一緒にやることではなく、ともに公共の担い手であるということである。これも『市民協働の成功法則』などに書いた。

(3)多様な主体との協働が市役所の仕事になったことの波及効は大きい・地方交付税の対象?
 地方交付税は、日本のどこに住んでも同じようなサービスが受けられるための仕組みで、地方交付税の対象は自治体の平均的な仕事を意味する。これまで地方交付税の対象は、消防や衛生などであって、地域協働的な仕事は、地方交付税の対象外だった。ところが、多様な主体との協働が市町村の仕事となったということは、この経費は、地方交付税の対象になるということである。

 この規定を受けて、この制度の財政的な裏付けがどのようになるのか、気になるところである。

(4)地方自治が住民自治に踏み出す後押しになる
 これまで市民参加や協働の仕事は、自治体のおまけの仕事だった。なぜならば、参加や協働は、地方交付税の対象外であって、一生懸命やればやるほど、自治体の持ち出しになった。それが自治体の仕事になれば、本来の仕事になる。言葉だけだった住民自治が、実を伴うことになっていく未来が開けた。

(5)役人のあり方を変える
 第5項では、「指定地域共同活動団体は、特定地域共同活動を他の地域的な共同活動を行う団体と連携して効率的かつ効果的に行うため、当該特定地域共同活動と他の地域的な共同活動を行う団体が行う当該特定地域共同活動と関連性が高い活動との間の調整を行うよう市町村長に求めることができるものとすること。この場合において、市町村長は、必要があると認めるときは、当該調整を図るために必要な措置を講じなければならないものとする」としている。

 民間同士の調整役を役所がやるということである。これまでもやってきたが、真正面から、それが自治体の仕事になった。地方公務員法における役人は、がんじがらめで、守りに入る職員像であるが、もうひとつの「新地方公務員法」が求められるということである。

 地方公務員法は職員を規律するという観点からつくられている。むろん、それも必要であるが、今は、職員の行動指針という点で、職員の姿勢や実践のあり方を別に定めている。その条例化として、職員行動条例が視野に入ってくる。

(6)励ます地方自治が一歩進んだような
 そんな気になる。橋頭保が築かれたような感じがする。『励ます令和時代の地方自治』(木鐸社)については、穂積さんが的確な書評を書いてくれている。

とてもいいので再掲しよう

 昭和を「役所と議員が税金で地方自治をしていた時代」とすれば、その転換を模索した平成を経て、令和の時代は「チェックや監視の地方自治から、市民が存分に力を発揮する励ましの地方自治へ」踏み出す時だと本書は訴える。

 この主張は、伝来の地方自治理論から異論を呼ぶかもしれない。たしかに地方自治法体系では、住民、議会、執行機関が相互牽制を通して、自治体の民主的・効率的運営を担うことが求められていて、そこに「励まし」の入る余地はないように思われる。
 
 しかし本書の論述は周到である。地方自治も統治システムの一環である以上、その土俵では民主的統制の原理が働くべきである。けれども地方自治体は排他的統治権を行使する主権団体ではないし、自らの行う業務の過半は地域社会の共同事務に根ざしていて、その規範原理をも推力にすることで運営されている。その原理は、相互牽制よりも相互扶助を、代表委任よりも全成員の意思確認を、支柱にしている。

 では民主的統制と協働協治とを結びつけるものは何か。それは「すべて国民は個人として尊重される」との憲法規範を、自治の現場で実体化させる努力だ。
諸個人が、国籍、人種、信条、性別、身分、職業等の違いにかかわらず、互いの人格と価値観を尊重し、孤立と排除の連鎖を断ち切って、「誰一人取り残さない」社会をめざして支え合えるようにすること。―基礎的社会単位でのその成熟度こそが、明日の民主制度を決するだろう。
 
 住民が投票や連署結果のように数の力を介して自治主体となるだけでなく、一人一人が自立し、考え、熟議し、働きかけ、行動する主体として立ちのぼってくるような地方自治の姿。それが「励まし」の向こう側に広がっていそうなことを、本書が語りかけてくる。

 「2040年問題」を市民自治の側から問い、俎上にのせるべき政策と法の体系を探究する上で必携の一冊である。【愛知県新城市長 穂積亮次】

 

 

 

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