松下啓一 自治・政策・まちづくり

【連絡先】seisakumatsu@gmail.com 又は seisaku_matsu@hotmail.com

☆空き家地区を歩く・横須賀①

2016-09-01 | 空き家問題

 空き家の本を書いている。第4章では、具体例の紹介である。まずは横須賀市の①。神奈川県立福祉大学生の空き家シェアハウスを取り上げる。ただし、ブログへのアップは、ゆっくり書くので、おそらく断続的になる。

 京浜急行電車が三浦半島に入ると、駅のすぐ裏手は山が迫っている。特急の通過を待つ間、逸見駅から裏手の山を見ると、山のあちこちに空き家が見える。ここは横須賀市の特徴である谷戸地区のひとつで、谷が入り組む地域に路地が張り巡らされ、住宅が軒を連ねて立ち並んでいる。その谷戸から山に向かって、人がすれ違うのがやっとの細くて長い階段が続き、そこにも住宅が張り付いている。横須賀市の典型的な風景のひとつである。

 平成25年、横須賀市は、1年間における転出超過数が全国ワーストワンという都市になった。対前年比で1,772人の減少である。横須賀市の総人口をみると、1992年の437170人がピークで、2016年8月には404366人になっている。40万人を切るのは時間の問題だろう。神奈川県内の横浜市、川崎市、相模原市の政令指定都市は別格としても、横須賀市は、後塵の藤沢市にも抜かれることになった。

  しかし、横須賀市の地形を見ると、この結果は無理もないことがよく分かる。三浦半島に位置する横須賀市は、市域の多くを山地、丘陵が占め、平坦地が少ないという地形的特徴を有している。ここに40万人以上の人が住むということが、もともと無理だったと思う。

 では、そんな狭い土地に、なぜこれだけ多くの人が住んでいるのか。それは横須賀が軍港として発展した歴史と切り離すことができない。

 横須賀は、三浦氏の本拠であり、鎌倉時代には、歴史の大舞台に登場する。しかし、その後、しばらくは歴史舞台から遠ざかり、幕末になって忽然と登場する。「上喜撰たった4杯で夜も眠れず」とうたわれた4隻の蒸気船が、横須賀市の東南部に位置する浦賀沖に現れた。ここから日本の近代化が始まったわけであるが、その司令官ペリーが上陸したのが浦賀のさらに先の久里浜である。

 ただ、今日の横須賀市の発展は、1865年(慶応元年)に、勘定奉行小栗上野介忠順のリーダーシップで、現在の横須賀市の中心部のひとつである汐入地区で製鉄所が建設されてからである。この建設を指導したのが、今日でも公園として名が残るフランス人のヴェルニーである。そして、この製鉄所は1872年(明治5年)に横須賀造船所と改称され、1903年(明治36年)には横須賀海軍工廠となる。また、1884年(明治17年)に横須賀鎮守府がおかれ、日本の国防の要となる軍港都市となった。 

 海軍工廠といえば、艦船や兵器の建造修理や開発実験などを行うところであるが、横須賀では、工廠内に造兵部、造船部、造機部がおかれていた。横須賀から、戦艦陸奥や山城などの多くの戦艦や航空母艦が建造されている。また、横須賀海軍工廠には、光学、機雷、航海、通信、電池、機関の実験部もあった。実験部とは、研究・開発・実験を行う組織である。

 つまり、もともとは三浦半島の一漁村であった横須賀に、日本海軍有数の司令部、研究部門、工場部門が集まったということである。当然、それに伴って人口も急増し、明治中期には1万人前後だった人口は、第二次世界大戦の前には30万人を超えるほどに膨れ上がった。軍人のほか軍人の家族、海軍工廠や関連の施設(海軍病院など)や関連工場に勤める人たちやその家族、さらにはこれらを顧客とする様々な業種の人々が、横須賀に移り住んだ。

 横須賀のほか、呉、佐世保、舞鶴の四つの鎮守府があったが、その選定条件は、大規模な艦隊が安定的に駐留できることである。必然的に、水深が深く、台風などにも強い穏やかで広い入江であることになるが、その条件を満たすものとして、いずれも急峻な山に囲まれている入江が選ばれた。

 鎮守府や海軍工廠の関係者が、その近隣に居住することになるが、軍港の適地を優先して選ばれた土地は、もともと平坦地が少ない。そこに大勢の人が居住するので無理な市街地開発が行われる。横須賀でも事情は同じで、横須賀軍港に近い汐入や逸見の谷戸が奥まで住宅地として開発され、さらには谷戸からつながる丘陵地が宅地として利用された。階段や坂道が特徴的な横須賀市の街並みの多くは、このようにして作られていった。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ☆陳情・要望と政策提案の違い... | トップ | ☆空き家地区を歩く・横須賀② »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

空き家問題」カテゴリの最新記事