◯研究所の最上階のテラスに、ぼくらは一列に並んで、双眼鏡で目の前の国道を見ている。と、右からひとりのジョガーが走ってくる。ぼくらの双眼鏡が一斉にそのジョガーへと向けられる。と同時に、空いているほうの手に握った鉛筆で手元の報告書に状況を書き留めはじめる。ぼくは、双眼鏡をジョガーから横に並ぶ皆に向ける。かれらは皆、ぼくだった。非常階段を降りて、2階のドアを開けると、そこは自動車教習所の食堂の厨房だ。ち . . . 本文を読む
ぼくは結局、筑波山の山頂から目視でフォン・ド・ヴォーに最も適した玉ねぎを発見することができなかった。陽が暮れかかり、ぼくは山を下りるため、ケーブルカーに乗る。通路を挟んで隣の席の市議会議員が云う。「うちの菩提寺の住職がね、得意の念動力でオーストラリアからフォン・ド・ヴォーを取り寄せることに成功したんだよ」と。「なのでね、これから住職と住宅総合メーカーと手を組んで、このへん一帯の山林 . . . 本文を読む
◯早朝。小貝川の土手の上の道を、ぼくは4人の男に担がれ運ばれている。男たちは、スポーツ選手ではないかと、ぼくは担がれながら、最前からそう疑っている。おそらく、ひとりは野球、ひとりはサッカー、ひとりは水泳、ひとりはバスケットボールの選手に違いない。やがて、男たちはぼくを担いだまま河川敷へ下りると、そこでぼくをゆっくりと丁寧に地面に下ろす。そして、スポーツ選手たちは、ぼくには一言も声をかけずに、なにや . . . 本文を読む
皆さま、本当にお久しぶりです。去年の12月以来の投稿になってしまいました。もしこのブログを楽しみにしてくだったているという神様のような方がいらっしゃったとしたら、こんなに長く間が空いてしまい、すみませんでした。特になにがあったというわけではないのですが、グズグズしているうちに、今日になってしまいました(なんというか、いろいろと思うことがあったりはしたのですが)。そして、グズグズしているうちに、この . . . 本文を読む
一週間後、ぼくは国道沿いのラーメン屋の窓際の席でカレーライスを食べながら、これからのことについて考えている。陽が暮れはじめ、今日は昼の時間が短いような気がしながら、ぼくは店を出る。駐車場でカバンのなかを見ると、なにも入っていない。けれども、上着やズボンのポケットにはいろんなものがいっぱい入っているのが、確認しなくても感触でわかる。ぼくの横で、若住職は云う。「たまにはゆっくり布団で寝たいよ」大洗港か . . . 本文を読む
2023年7月22日(土)今日になった瞬間からいままでのあいだ、ぼくはずっと山頂の有料望遠鏡で、県境にある古民家風カフェを見ている。……5年後の同じ日。ぼくは県境にある古民家風カフェの厨房で、モーツァルトのレクイエムを聴いている。ふと窓の外に目をやると、下を流れる川を、小さな舟がひとつ、下って行くのが見える。舟に乗っているのは、正月旅行中のクロヒョウで、なにかぶつぶつとつぶやいている。ぼくは得意の . . . 本文を読む