そう…
あのころのぼくは、〝失うこと〟を異常に怖がっていた。
なにかを失うことなんて、たいしたことじゃないと云うのに。だって、人は生まれてくるとき、なにも持っていやしなかったのだから。
失うんじゃない、元に戻るだけなんだ。
それに、そのときぼくがいちばん大切にしていたものは、ぼくが勝手に存在すると思い込んでいただけの、たんなる幻だった。
元からなにも持ってなんか . . . 本文を読む
結構すっきりした気分だった。
身体が少し重く感じられるようにはなったが、心はとても軽い。こうなると、心は空っぽになるらしい。
心が空っぽ……なんて素敵なことだろう。
もうなにも煩わしい思いをする必要もないし、なんの心配事もない。
けれど、失ったものは多く、そして、そのどれもがぼくにとって、命よりも大切なものだったと思う。
大袈裟でなく、本当にそうだった……うん、そうだった。
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