ぼくは結局、筑波山の山頂から目視でフォン・ド・ヴォーに最も適した玉ねぎを発見することができなかった。
陽が暮れかかり、ぼくは山を下りるため、ケーブルカーに乗る。
通路を挟んで隣の席の市議会議員が云う。
「うちの菩提寺の住職がね、得意の念動力でオーストラリアからフォン・ド・ヴォーを取り寄せることに成功したんだよ」と。
「なのでね、これから住職と住宅総合メーカーと手を組んで、このへん一帯の山林を切り開いて、人造の地中海レストランをつくって、そこでフォン・ド・ヴォーを存分に活用した料理を出したり、それからフォン・ド・ヴォーの直売所もやりたいと思っていてね……」
すっかり陽が暮れたころ、ぼくは、自分のアパート(2LDK、家賃43,000円)に帰り着く。
今日は朝から、夕飯はかた焼きそばと決めていた。
鍋の油が170〜180℃になったのを目視で確認すると、
ぼくは、ゆっくり、ほぐした中華麺をそこに入れてゆく。
◯
北半球一の石油コンビナートづくりの名人が、その勢力を南半球にまで広げようと、北極から南極目指して、船で向かう途中、日本のある港町に寄る。
港近くの食堂で、コンビナートづくりの名人は、油淋鶏定食を食べながら、旧国立競技場と東横線渋谷駅の旧駅舎に思いを馳せている。
……旧国立競技場……油淋鶏を一口……うまい!
……東横線渋谷駅の旧駅舎……油淋鶏を一口……やっぱりうまい!
コンビナートづくりの名人は、そこで思いつく。
「この油淋鶏、旧国立競技場や東横線渋谷駅の旧駅舎のことを考えながら食べるとこんなにうまいんだから、
実際に旧国立競技場や東横線渋谷駅の旧駅舎を見ながら食べたら、もっとうまいに違いない‼︎」
通路を挟んで隣の席の市議会議員が云う。
「うちの菩提寺の住職がね、得意の念動力でオーストラリアからフォン・ド・ヴォーを取り寄せることに成功したんだよ」と。
「なのでね、これから住職と住宅総合メーカーと手を組んで、このへん一帯のコンビナートを切り開いて、人造フォン・ド・ヴォー工場を建設し、人造フォン・ド・ヴォーを大量生産して、
フォン・ド・ヴォーの各家庭への安定供給を目指そうと思っていてね……」
すっかり陽が暮れたころ、コンビナートづくりの名人は、自分のアパート(2LDK、家賃43,000円)に帰り着く。
今日は朝から夕飯はかた焼きそばと決めていた。
麺はもうすでにカリカリに揚げてある。あとはあんかけをつくるだけ。
コンビナートづくりの名人は、野菜を刻み炒めはじめる。
◯
翌朝。
コンビナートづくりの名人は、筑波山の山頂に立って、目視で新巻鮭に最も適した鮭を探す。
その姿を筑波山の麓から見ながら、ぼくは思う。
「コンビナートづくりの名人は、自分のことをコンビナートづくりの名人だと思い込んでいるだけ」
と。
おしまい
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