めざめていても夢はみる

ぼくはいつまでもさまよいつづける、
夜が明けても醒めない夢のなかを…

コンビナート

2017-04-07 20:59:01 | ちょっとしたおはなし
県内唯一の石油コンビナート、そのなかで、いちばん南にある円筒形のタンクの前に、スーツ姿の男たちがぞろぞろと集まってくる。
みな、それぞれ別々の方向から、それぞれ違った歩幅で。

彼らは、市役所の各課の課長たちだ。

20人ほど集まったところで、彼らはタンクの屋上にのぼる。
屋上のちょうど中心点に蓋があり、彼らはその周りに丸く並んで、タンクのなかを覗く。

タンクはからで、なかは薄暗い。
底にピアノが一台。鍵盤の前に誰が座っていた。

納税課の課長が気づいて云う。
「あれはコンビナートの精だ!」と。
健康保険課の課長が云う。
「あれが……聞いたことはあるが、はじめて見た」

ふぅっ、と息を吐くのが聞こえ、コンビナートの精がピアノを弾きはじめる。

ドビュッシー『夢』


3日後。
ある公園の片隅にある銅像を、初老の男が見上げている。

彼は彫刻家で、この銅像は彼が20年前に作ったものだ。
シーフードをテーマに市役所から依頼されたが、彼が作ったのは、紛れもなくコンビナートの精だった。
しかし、そのことに気付いた者は、誰もいなかった。



彫刻家は家に帰り、チャーハンを作る。
ためしにマーガリンを入れてみたら、不味かった。




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