「さて、みなさん資料はご覧いただけたでしょうか?」
次元空間に浮かぶ要塞、
時空管理局にある小さな会合でこれまた背の低い男が静かな声で言った。
太陽の日がなく、人工的な光ばかりを浴びているせいか黄色人種系にも関わらずその肌は白い。
「先に皇国」
立体映像を起動させレーザーポインターで写された地図に当てる。
「我々が言う所の第××管理外世界から第××管理外世界の一帯は完全に彼らの手の内にあります。
輸送や生産にかかるコストもまったく問題なく、彼らが必要とする希少金属資源の自給を達成しております。」
続けて地図に出ている二つの回廊の一つを指す。
両方とも地図で中立を現す緑色でマークされている。
「唯二つだけ皇国との航路を結ぶ回廊の片方のこちらに存在する
第97管理外世界は長らく航路上の問題。未だ統一国家となっていない点に管理局と皇国の双方が
非武装中立化で同意しましたがここ数年統一への動きが盛んで、その背後に存在するのがかの皇国の影響だと見られます。」
「待て」
会議卓に座っている人の中で特に年老いた老人が口をはさんだ。
「それはもしや『第2次闇の書事件』の影響かね?」
「その通りです
グレアム提督。」
グレアム提督、と呼ばれた老人は顔をしかめっ面を浮かべる。
かつて自分とその孫のような人物が大きく関わった事件がきっかけなだけにそうなのだろう。
「そして最近彼らは第97管理外世界の周辺で盛んに訓練を行っております。
付け加えると基地建築に必要な専門の部隊を大量に連れてきており、
十中八九は統一後に何らかの形でその世界の周辺に駐屯するという同意に至った可能性があります。」
「馬鹿な、非武装地帯化の取り決めを破るつもりか!」
まだ若い提督の一人が叫び立ち上がる。
「・・・たしかに非武装中立地帯ですが
『PT事件』『第2次闇の書事件』で大きく関わった我々に反論する権利はありません。
おまけに緊急事態とはいえアルカンシェルを彼らの大気圏外で派手に撃ったのは私たちの第一印象を大きく損ないました。」
彼の言葉には嫌味抜きで苦しいものだった。
ようは自分からまいた種が原因だと言っているのだ。
「見知らぬ他人が庭先で銃を撃ったのと同じだからか。」
「その通り
闇の書の爆発は核が大気圏で爆発したのと同等の威力を放ち、電波に頼る通信網を完全に破壊したので
彼らが抱く印象は『技術格差をいいことに安易に暴力をふるまう軍事政権』になっているでしょう。」
事実だった。
高高度核爆発は大規模な電磁パルスを発生させ、アルカンシェルでそれと同じことが再現された結果。
東アジアを中心に史上最悪の通信のブラックアウトが発生、衛星のいくつかと国際宇宙ステーションが墜落した。
これで好印象など起こるわけがなく、寄ってきた皇国を信用したほうがましである。
「その他の次元世界の新興国についても似たような案件があります。
例えば軍艦の表敬訪問、例えば我々抜きの経済協定を結ぶなど・・・皆さまも各部門で覚えがあるのでは?」
「君、その。
君の話を聞くとまるで次元世界が我々を見捨てつつあるような言い方ではないか?」
今度は中年の提督が尋ねる。
「時間という概念を
10年、20年先で考えると未だ次元世界の大半は我ら時空管理局によって管理されております。」
先ほどまでずっと話して喉が渇いたせいか机に置いてある水を一口飲む。
「が、これを50年、70年の単位で見ますと皇国の物となるでしょう。
我々が広げすぎた管理世界の対処に疲弊する一方で、彼らは新暦以前から辺境だった地域を開拓し確実に力を蓄えています。
すでに地域大国としては成熟した規模を持ち、次元世界の警官となる日はそう遠くないかと。」
「総体的な国力差では3:1の開きがあるのでは?」
中年の提督が指摘する。
「それはあくまでも現在の管理世界が管理局側にいるから出された数値です。
そしてそれを維持すべき資源が足りなくなる日が来てから果たしてその管理世界は味方でいるでしょうか?
特に新暦以後に我々と関係を築いた、管理世界となったのは向こう側につく方を選ぶ方が高い。」
会合は一気に重苦しいものへと変化した。
第三の道、皇国との関係改善も質量兵器を大量に抱えたままでするなど管理局の主義を撤回するようなもの。
管理世界の市民の大半、ベルカ戦争後の質量兵器へのアレルギーを未だ抱く市民は絶対にこれを許さないだろう。
「海の方はどうお考えで?」
中年が若い提督に話を振る。
「少数のリベラル派は反対しているが、」
チラリ、とグレアム提督を見る。
「大多数の提督クラスの人間がが今より強硬な態度に臨むべきだと考えている。」
「私自身はリベラル派だが補足すると何も質量兵器があるからだというわけではない。
単にテロリストの鎮圧とはわけが違うことぐらい理解している―――ようは戦力比が優位な今しかないと考えているのだ。」
グレアム提督が話をつなげた。
「たしか向こうは新たな建造計画を実行中でしたね。」
「そうだ、その計画が完成する前こそが最後の機会だと思っている。
皇国は『魔力のみ』という制限がなく、AIMを初めてする技術など優位な点があるが国力ゆえに艦隊数は少ない。
が、もしこの計画が完成され正面戦力比が逆転するとも管理世界を抱える我々が短期間に追い抜くのは不可能だ。」
「と、なると皆さまも同じ意見をお持ちのようですね。」
背の低い男は力のない微笑を浮かべ会合に集まった人々を見渡す。
彼の内心はこの手で再び戦乱を繰り広げるのには反対だ。
しかし、上司に命令には従わざるを得ないし職場の空気はすでに決まっている。
否定的見解を述べればたちまち窓際に追いやられるだろう。
「交渉は初めから論外、もとより誰も妥当性を覚えない。ならばやることは一つのみ。」
まぁ精々負けないように努力しますか。
そんな風に彼は考えた。
次元空間に浮かぶ要塞、
時空管理局にある小さな会合でこれまた背の低い男が静かな声で言った。
太陽の日がなく、人工的な光ばかりを浴びているせいか黄色人種系にも関わらずその肌は白い。
「先に皇国」
立体映像を起動させレーザーポインターで写された地図に当てる。
「我々が言う所の第××管理外世界から第××管理外世界の一帯は完全に彼らの手の内にあります。
輸送や生産にかかるコストもまったく問題なく、彼らが必要とする希少金属資源の自給を達成しております。」
続けて地図に出ている二つの回廊の一つを指す。
両方とも地図で中立を現す緑色でマークされている。
「唯二つだけ皇国との航路を結ぶ回廊の片方のこちらに存在する
第97管理外世界は長らく航路上の問題。未だ統一国家となっていない点に管理局と皇国の双方が
非武装中立化で同意しましたがここ数年統一への動きが盛んで、その背後に存在するのがかの皇国の影響だと見られます。」
「待て」
会議卓に座っている人の中で特に年老いた老人が口をはさんだ。
「それはもしや『第2次闇の書事件』の影響かね?」
「その通りです
グレアム提督。」
グレアム提督、と呼ばれた老人は顔をしかめっ面を浮かべる。
かつて自分とその孫のような人物が大きく関わった事件がきっかけなだけにそうなのだろう。
「そして最近彼らは第97管理外世界の周辺で盛んに訓練を行っております。
付け加えると基地建築に必要な専門の部隊を大量に連れてきており、
十中八九は統一後に何らかの形でその世界の周辺に駐屯するという同意に至った可能性があります。」
「馬鹿な、非武装地帯化の取り決めを破るつもりか!」
まだ若い提督の一人が叫び立ち上がる。
「・・・たしかに非武装中立地帯ですが
『PT事件』『第2次闇の書事件』で大きく関わった我々に反論する権利はありません。
おまけに緊急事態とはいえアルカンシェルを彼らの大気圏外で派手に撃ったのは私たちの第一印象を大きく損ないました。」
彼の言葉には嫌味抜きで苦しいものだった。
ようは自分からまいた種が原因だと言っているのだ。
「見知らぬ他人が庭先で銃を撃ったのと同じだからか。」
「その通り
闇の書の爆発は核が大気圏で爆発したのと同等の威力を放ち、電波に頼る通信網を完全に破壊したので
彼らが抱く印象は『技術格差をいいことに安易に暴力をふるまう軍事政権』になっているでしょう。」
事実だった。
高高度核爆発は大規模な電磁パルスを発生させ、アルカンシェルでそれと同じことが再現された結果。
東アジアを中心に史上最悪の通信のブラックアウトが発生、衛星のいくつかと国際宇宙ステーションが墜落した。
これで好印象など起こるわけがなく、寄ってきた皇国を信用したほうがましである。
「その他の次元世界の新興国についても似たような案件があります。
例えば軍艦の表敬訪問、例えば我々抜きの経済協定を結ぶなど・・・皆さまも各部門で覚えがあるのでは?」
「君、その。
君の話を聞くとまるで次元世界が我々を見捨てつつあるような言い方ではないか?」
今度は中年の提督が尋ねる。
「時間という概念を
10年、20年先で考えると未だ次元世界の大半は我ら時空管理局によって管理されております。」
先ほどまでずっと話して喉が渇いたせいか机に置いてある水を一口飲む。
「が、これを50年、70年の単位で見ますと皇国の物となるでしょう。
我々が広げすぎた管理世界の対処に疲弊する一方で、彼らは新暦以前から辺境だった地域を開拓し確実に力を蓄えています。
すでに地域大国としては成熟した規模を持ち、次元世界の警官となる日はそう遠くないかと。」
「総体的な国力差では3:1の開きがあるのでは?」
中年の提督が指摘する。
「それはあくまでも現在の管理世界が管理局側にいるから出された数値です。
そしてそれを維持すべき資源が足りなくなる日が来てから果たしてその管理世界は味方でいるでしょうか?
特に新暦以後に我々と関係を築いた、管理世界となったのは向こう側につく方を選ぶ方が高い。」
会合は一気に重苦しいものへと変化した。
第三の道、皇国との関係改善も質量兵器を大量に抱えたままでするなど管理局の主義を撤回するようなもの。
管理世界の市民の大半、ベルカ戦争後の質量兵器へのアレルギーを未だ抱く市民は絶対にこれを許さないだろう。
「海の方はどうお考えで?」
中年が若い提督に話を振る。
「少数のリベラル派は反対しているが、」
チラリ、とグレアム提督を見る。
「大多数の提督クラスの人間がが今より強硬な態度に臨むべきだと考えている。」
「私自身はリベラル派だが補足すると何も質量兵器があるからだというわけではない。
単にテロリストの鎮圧とはわけが違うことぐらい理解している―――ようは戦力比が優位な今しかないと考えているのだ。」
グレアム提督が話をつなげた。
「たしか向こうは新たな建造計画を実行中でしたね。」
「そうだ、その計画が完成する前こそが最後の機会だと思っている。
皇国は『魔力のみ』という制限がなく、AIMを初めてする技術など優位な点があるが国力ゆえに艦隊数は少ない。
が、もしこの計画が完成され正面戦力比が逆転するとも管理世界を抱える我々が短期間に追い抜くのは不可能だ。」
「と、なると皆さまも同じ意見をお持ちのようですね。」
背の低い男は力のない微笑を浮かべ会合に集まった人々を見渡す。
彼の内心はこの手で再び戦乱を繰り広げるのには反対だ。
しかし、上司に命令には従わざるを得ないし職場の空気はすでに決まっている。
否定的見解を述べればたちまち窓際に追いやられるだろう。
「交渉は初めから論外、もとより誰も妥当性を覚えない。ならばやることは一つのみ。」
まぁ精々負けないように努力しますか。
そんな風に彼は考えた。