視点:ミーナ
東プロイセンの朝は遅い。
地理的にバルト海にめんして北極圏に近いためである。
季節は冬、ゆえにいつもよりさらに朝日は遅い。
仮設飛行場には白い靄がかかり視界は極めて悪かったが、そんな場所に10名ほどの少女たちが並んでいた。
「頑張ってねトゥ・・いえバルクホルン中尉。」
「ああ、まかせろ。」
ミーナはついプライベートでの呼び名を口にしてしまうが、すぐに直す。
「補給の請求書の書き方は?戦闘報告書の書き方もちゃんとメモしたわよね?」
「ヴィルケ少佐殿、そここまで言われるとまるでお母さんですね。」
「私はまだ10代ですッ!」
対する戦友ことトゥルーデは冗談を口にできるほどリラックスしているらしい。
これは良い傾向だ、こうして余裕を持てる精神状況は指揮官として相応しいあり方だ。
突然、飛行隊の指揮を任されて(本来2~3個中隊だが実態は1個中隊のみ)
なおいつもと変わらぬのは、この子やっぱり器が大きい人なのかしらとミーナは思った。
「失礼いたしました。
しかし、実際少佐殿は将来いい奥さんになると思いますよ。」
「・・・・・・ッ!!」
からかいが混ざった笑みをトゥルーデは浮かべる。
この場合相手の旦那はあの幼馴染を暗に指している。
感情の抑制は身に付けた交渉術として基本中の基本だがいかせん又動揺してしまった。
自分とあの人との関係が「おでこにキス」する程度の初な関係を知られているせいだ。
それもなぜか「初めから知っていた」ようで過去に眼の前の人物に何度からかわれたことやら。
「いい加減にしないと上官侮辱罪で軍法会議にかけますよ、中尉。」
「おお、怖い怖い」
でも、こうして冗談を言い、からかい合ったりできる関係はすばらしいと思う。
軍隊という組織はどうも冗談が通じない人間が特にわが軍、カールスラント軍には多すぎる。
それを考慮すると彼女は一般的なユーモア精神があって悪くない。
「ねーねー
その百合の花が咲きそうな会話劇はいいからさ~早く出発しようよ~。」
誰がどこぞの伯爵か!
と突っ込みを心の中でしつつミーナはその声に我にかえる。
「ごほん、ハルトマン少尉
そうでしたね、そろそろ離陸時刻でしたね、感謝します。」
「あ、そっか。
ミーナは整備士の『あの人』が好きだから健全だっけ。」
「別にクルトが・・・あ。」
ユーモア精神があって悪くない、と言ったが前言撤回。
どうして周りの人物はこうも人様を弄ることに情熱をあげる人物が多いのか。
他の子たちはニヤニヤと生温かく見守っている。
離れの格納庫でも今までの会話が聞こえたのか整備士たちが若い整備師をタネに盛り上がっている。
「ハルトマン少尉・・・。」
「ひっ!!?」
これ以上変なことを言い出さないよう横にいたエース様をいつもの微笑みを見せつけた。
ああ、もう今日は朝から厄日だ。