視点:リーネ ネウロイ襲撃直後
訓練が終わった直後警報が響いた。
けたたましく鳴るサイレン、赤く光る警報ランプが格納庫を支配する。
バルクホルン大尉の怒鳴り声共に真っ先にユニットを履き、すぐに整備員が駆け寄り出撃準備に取り掛かる。
近くにいたシャーリー、ルッキーニ、エイラも真剣な表情でストライカーユニットに走り寄る。
人間の声、機械が作り出す音。
格納庫の色彩に変化を与え続けるランプの色。
それらは全てストライクウィッチーズが人類のために出撃しようとしている証しだ。
怖い、怖くてたまらない。
頭を押さえて縮こまりたくなる。
じっとその場で眼をつむり嵐が過ぎ去るのを待ち続けたい。
その光景を見てリネットはそう思った。
『了解した、これより
イェーガ、フランチェスカ、ユーティライネンの4名で当該戦区へ出撃、敵対勢力を撃破する。』
射出台で肩耳を押さえ勇ましく言葉を述べるバルクホルン大尉。
自分よりずっとずっと強く、勇ましく、揺るがない人。
妬ましくて羨ましい。
対して自分はと言えばこの体たらく。
泣きたくなる、怖くて怖くて。
泣きたくなる、自分の不甲斐なさと変わろうとしないのに。
「リーネさん!」
後ろから声をかけられる。
リネットは反射的に体を半分回して声の主の人物を眼に入れる。
宮藤芳佳だ。
「あのね、リーネさん。
わたしたちも何かできる事があるかもしれないから一緒にここにいようよ。」
初めて体験するスクランブルでやや戸惑いを感じられる。
しかしその中身は、心にには戸惑いが存在しない。
何故か?それは彼女は真っすぐ純粋な、迷いのない瞳をしていたからだ。
嫉妬
「どうせ、自分なんて足手まといだから何もできませんし・・・。」
「そんなことないよ!
わたしやリーネさんだってもしかしたら必要とされる時が来るって!」
毎度の決め台詞を言うが反論された。
「初めから、諦めたら何もかも終わりだよリーネさん!」
リーネは思う。
ああ、なんでこの子はそうなのだろうか。
昨日の夜も思ったががなんで諦めないで頑張れるのだろうか。
妬ましい
「さすが宮藤さんですね、訓練もなしにいきなり飛べた人は言う事が違うよね。」
自然と嫌味がリネットの口から出た。
もし言われた相手が普通の人なら相手を気遣い。適当にその場の話題を逸らし、分れただろう。
「そんなこと・・・。」
「ほんとっ!!宮藤さんは羨ましいよね!!!
わたしが何日も何カ月も訓練をしてやっと飛べたのに宮藤さんはそれを無視する。
おまけにネウロイと戦えたなんて宮藤さんはすごいよね、尊敬しちゃうし羨ましく妬ましいよッ!!!」
嫉妬嫉妬嫉妬嫉妬。
同じ新人にも関わらず自分の眼前でできないことをやってのけた。
他の隊員なら「ベテランだから仕方がない」と諦めがつくが宮藤は同じどころかむしろ自分よりも後輩。
唯でさえ、劣等感に悩まされていた時に、
彼女が来てから溜まりに溜まった鬱憤が一挙に爆発した。
その気迫は同年代の少女たちなら怯んでしまうだろう。
だがだ、相手である宮藤芳佳はその程度で怯まない。
彼女はとても頑固で真っすぐで、自分が信ずる道を往く子だから。
「・・・そうだよ、わたしは皆と違ってすぐに飛べた。」
一拍
「でも、ちゃんと飛べないし魔法はヘタッぴで叱られてばっかりで、銃だって碌に使えない。」
何を言う。
リーネは反感の感情を覚える。
噴きだした鬱憤のせいで今日は口が軽く、また言葉を綴ろうとしたが。
「ネウロイとは本当は戦いたくない。
赤城を守るために飛んだ時はすっごく怖かった。でも、わたしはウッィチーズにいたい。」
「・・・・・・。」
不思議と徐々に腹に溜まった黒い感情が抜けてゆく感触をリーネは感じる。
引きこまれてゆく、宮藤芳佳の言葉に引きこまれてゆく。
「わたしが持つ魔法で誰かを救えるのなら、
何か出来る事があるならやりたいの・・・。」
宮藤はリーネの手を握る。
さながら慈母あるいは聖女、優しく温かい体温が伝わる。
「みんなを守れたら、って。」
「まも、る・・・。」
守る、その単語にリーネは思い出す。
かつて何故ウィッチに志願したか?ブリタニア本土では訓練期間が長い、という理由で、
期間が短いファラウェイランド(カナダ)に単独渡航した経験を持つ行動力の塊な姉にそう聞いた。
『そりゃ、みんなを守りたいからさ。』
あっけらかんにのたまう姉。
怖くないのか?そしてどうして自ら戦場に身を置いたか問う。
『うん、怖いね。
でも後悔していないよ、だってあたしだけができることを出来るんだから。』
笑顔を浮かべる姉。
とても迷いがなく、眩しくて、美しいものだった。
『人は一人では生きてゆけない、ゆえに人は人を守る。
その範囲が例え身近な人だけにしろ、祖国にしろ尊さは変わらない。』
硝子細工でも触れる仕草でリーネの頭をなでる。
『そうでしょ、リーネ?』
ああ、そうか。
どうして忘れてしまったのか。
姉が羨ましく堪らなかったのはそれだったのだ。
空を飛ぶ姿だけでなく誇りに満ちた姉が眩しくて、自分はウィッチを目指したのだ。
「宮藤さん・・・。」
手を握り返す。
「私は・・・。」
緊張と震え、
喉から言葉を絞り出さんと欲し。
警報
「ネウロイ!」
宮藤の叫びと本日二度目の警報音が基地全体に木霊する。
整備員は脱兎のごとくユニットに取りつきウィッチのために準備を施す。
まもなく基地に残った隊員たちが駆けてくるだろう。
「あ・・・・・・。」
まただ、また怖くて何もできない。
今先ほど変わろうとしていたにも関わらずにもだ。
「大丈夫」
そんなリーネを察した宮藤が言葉を発する。
「お互いまだ半人前だけど、わたしたち2人なら一人前だよ。」
あの時、姉に問いただした時と同じく。
迷いがなく、眩しく、美しい笑顔を宮藤は浮かべている。
本当に、かなわない。
宮藤芳佳は本当に強い子なのだ。
しかし、だからっと言ってそれを理由にイジイジ落ち込むわけにはいかない。
彼女はこちらから手を差し伸べて来て断わらることはできない。期待に答えなければいけない。
「宮藤さん」
前を向く。
もう何も怖くないとまでは言えない、けど今度こそ初心を貫くのだ。
改めてリネット・ビショップの決意を胸に彼女に知らせるのだ。
「私も、飛びます!」
その後、呆気にとられる坂本少佐にあきれ果てるペリーヌ。
面白げに観察するエーリカと反応はそれぞれであったが、共に出撃する許可が下り、今に至る。