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クロスとかオリ主とかなしの正統派SSを紹介します。
お題は士凜物のほのぼの恋愛SSです。
ある日衛宮士郎と喧嘩をした遠坂凜はある魔術を使用する。
それは過去の自分の意識を表に出す魔術であった――――。
ほのぼのしたい片はぜひどうぞ。
「どう、わかった?」
読み終える頃合を計ったように訊ねられ、士郎は頷いた。
「何となくはな——」
ようは【記憶の再生と保管】の実験…ということらしい。
手紙にはその説明と、“遠坂の魔術師への宿題”に関することや父親から伝えられたことを記すようにと命じていた。
猶予はほぼ一日、それをした後は外に出ない限りは自由にしてよい…と締めくくられていた。
「今の遠…えっと君は——意識だけを過去から召喚した感じなのか?」
「召喚…? それより転写(コピー)じゃないかしら。
まあ、似たようなものだし理解しやすい方で納得してくれていいわ」
士郎の言葉に小首を傾げた“凛”は、他人事のような口調で答えた。
手紙を信じるなら目の前にいるのは彼の知る凛ではない。
確かにさっきから違和感を感じまくりだった。それは多分彼女の服装の所為で——
「他に質問とかある?」
問いかけられてしげしげと眺めていた全身から視線を引き剥がし、
「えっと、一番の疑問は何だってそんなことをしたかってことだけど——言われても君も困るか…」
当事者ではないのだから、理由を問うてもわからないだろう…と士郎は自己完結した。だが、
「ただの再認識でしょ」
彼女はすぐに解説してくれた。
「古い記憶は忘却されるんじゃなくて、深層に蓄積されるわ。
頻繁に思い出していくことで覚えておけるけど、劣化や改竄は否めない。
鮮明な当時の記憶を再生しなおして当時は理解が及ばなかったことを新しい知識の元で認識しなおす…って感じかしら?」
さすがに同一人物、自分の行動原理がわかるのだろう。
「へえ、そういうもんか…。自己催眠って感じだけど、これも魔術なのか?」
「一応はそうね。催眠治療とかだと夢で思い出すって感じだけど、
これは深層から過去の自分の意識を固定させてる状態だから、それなりに魔力はいるわよ」
精神的なタイムトラベルみたいもの…というのが士郎の理解したところだが…。
「それじゃあ、君が未来のことを知るのって不味くないか?」
「大丈夫よ。わたしは“現在の私”の深層意識からの一部を取り出しただけのコピー、
独立した存在だから“今”の知識を過去のわたしにフィードバック出来るわけじゃないの。
当然だけど“今眠っている私”にもわたしの記憶は反映されないわ」
「え? ああ、だから覚えてることを書き出しておくように…ってことか」
「ええ。だから起きてから取り敢えず言われたことはしておいたわ。そうしたら誰かが侵入してくるし、驚いたわよ」
「う…すまん——」
「いいわよ。貴方のこと書いてなかった“私”が悪いんだし。
何処か抜けてるっていうか…そうよ、わざわざ呼び出したのがわたしって時点で甘ちゃんよ。
何考えたのかはわかるけど、そんなの心の贅肉じゃない。効率かつ冷静な判断が出来ないなんて、がっかりするわね“今の私”には…」