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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
<ドン作雑文集より>
奇妙な声。鳥の声かと思ったが、数分おきに聞こえてくる。どうも人の声のような気がしたので、その声の出場所を突き止めようと歩いて行った。ダボハゼ精神がメラメラと湧き起こる。メットを被り、サヤカのエンジンをかけ低速にしておく。すぐに逃げられるよう最善の準備をしておいた。こんな山中で人災に遭うのはかなわないと思ったからであるしかしながら、早起きする悪人は居ないだろうという常識が安堵感を与えてくれる。
ざいみちである旧道を数分登ってゆくと、声の出場所がわかった。ヨレヨレの薄汚れた着物を着たジィさんが、道から少し上がった木々の間に見えた。私は、咄嗟に木の陰に隠れ、恐る恐る覗いてみた。あの役の行者だった。身体は拡大コピーされていて、普通の人並みの大きさに膨れあがっている。
ジィさんは、木を杖で叩いたり、足で蹴ったりしていた。あの奇妙な声は、足を使った時に発していたのだ。叩いたり、蹴ったりするたびに木から白い花粉が舞っている。その瞬間を捕らえて、ジィさんは、素早く口をパクパクと動かしている。ああ、霞を食っているというのはこの事だったのかと一人納得する。
ジィさんの朝食はこれだったのだ!
私は、すぐさま彼にエンジーと名付けてやった。その場をこっそりと離れてサヤカの所へと引き返した。すぐにエンジンを切り、ニュートラルにして、元来た道を下った。エンジーの隠しごとを覗いたようなので、彼に悪いような気がしたのだ。坂道を下りきった所でエンジンをかけた。
エンジーのあの足を振り上げる様子、飢えたようにぱくつく口の動き。仙人の域に達しているというのに、中々人間味があって、好感を持てた。しかし、あれで花粉症によくかからないものだ。いつもは澄まし切って山道を見守るエンジー。彼にも、あんな秘密があった。ああ、おもろいモン見た。早起きも、時にはしてみるもんだなあ。
きぇぇーっと 掛け声渡る 朝木立
役の行者の 朝餉にござる
ち ふ
おわり