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絵じゃないかおじさんぐるーぷ
<ドン作雑文集より>
* 雪の洞川路(056)
私は、サウス大和に住んでいる、平凡な会社員である。
この地方には、冬場の3ヵ月、雪の降る日は7日もあるのだろうか。ともかく雪は奇しい存在である。大阪のベッドタウンの一つである、この地に住み始めてから日も浅いので、古い降雪の記録は知らない者である。また、サウス大和とは私が勝手に呼んでいる呼び名である。
土曜日、私は一日漂泊者に変身する。
自称、サタディ・ストローラ。
この変身は、私のストレス解消法ともなっている。黒いグラブ、黒いヘルメット、黒い革ジャン、黒い革スラックスに黒いロングブーツで身をかため、短い脚で、これまた黒いバイクにまたがり、風に流されるまま、気のむくままに、日帰りのうろつきを楽しんでいるのである。そんな姿が拡大・黒ごきぶりそっくりに見えるのだろうか。
妻の流あゆかからは、ゴキおっさんとからかわれ、子供たちは少し侮蔑の眼差しを送ってくれるのだが、私は一向にそんなことなど気にしない。バイクの繰り広げてくれる世界は、バイクに乗るものだけしか分からない異次元のスペースなのだ。けれども、子供を蹴飛ばし、あゆかをどついて、家を飛び出すような勇気など持ち合わせていない。
あゆかの主催するスペースは、結構快適で、私は流極楽スペースと名づけているくらい、ありがたいスペースなのである。しかし、極楽といえども、私のストレスを解消してくれるような便利なものは備えていないのだ。いや、こんなことは、あけっぴろげに言えないのだが、極楽スペースそのものが私のストレスを増大させる原因になっているのかもしれない。
千葉から大阪に単身赴任してきて、煩わしい掃除・洗濯・炊事、味気ない一人暮らしに悩まされている友人が目にすれば、青筋立てて怒るような贅沢な悩みかもしれない。人間とは度しがたいもので、今の時代、何にでもストレスを感じるものなのだろう。
その日は、粉雪がちらついていた。私は、貼りつけ型のカイロを背中と両太股に貼り、サヤカにまたがった。サヤカとは、私がバイクに与えてやった愛称である。
私は、大峰山の雪景色が見たくなった。数日前のテレビに映っていたのが印象的だったからである。
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