亜遊は答えた。
「そうね。これを選ぶか〜!って思ったわ。この生地ね、ちょっと見はわからないけど金糸がかなり使ってあるの。」
「これを選んだのは亜遊なのよ。本当に高天原の女官なの?」
「それは『お花の香りをお茶菓子に』という意味です。手に取られて香りを楽しまれると良いかと。エラ様はお疲れでありましょうから。」
エリはニッコリすると言った。「亜遊、今日の私の服を選んでおくれ。」
「私は西洋のお洋服のことは殆ど分かりません。それでエリ様がよろしいのであれば。。。」
「かまわぬ。決めるのは我だ。気に入らなければ違うのをと言う。女官長とも2人で選んでいた。」
亜遊はエリのクロゼットを見て、エリの趣味を予想した。髪を結うのは大嫌いだと聞いている。エリ様の髪の色は変わった色をしている。ならば。。。
「私はエリ様がお花がお好きだと知っています。これではどうでしょう。」と言って1着のドレスを薦めた。エリが着てみると襟元が寂しい感じがした。「アクセサリーが必要ですね。」と亜遊が言うとエリは「こう言う時に着けるアクセサリーは決まっている。」と言って赤い石のチョーカーを出してきた。
「これはハネムーン中に下界でセキが我にした初めてのプレゼント。ルビーという宝石だ。この大きさに人間は驚く。だが、人間は器用だ。偽物を本物のように作るのはお手のものだ。我は一度も「本物?」と尋ねたことはない。“私が本物だと感じれば、それはもう本物“だからな。」
チョーカーのエンドパーツを亜遊にしてもらいながらエリは呟くように言った。
「恋も同じ。」
ベルナが付き添ってエリが執務室に言ってしまうと女官達は緊張が解けた。
「オイル、ソルト、お茶とローブ、ひょっとしたら服も亜遊に任せるわ。」と亜遊に言って女官達はホッとした顔になった。抄花は官服に着替えていた。抄花の頭の中は、少しだけ見えたエリの持ち物でいっぱいだった。
セキはエリをみると「今日は変わった格好だねぇ」と言った。
「そうね。これを選ぶか〜!って思ったわ。この生地ね、ちょっと見はわからないけど金糸がかなり使ってあるの。」
「これを選んだのは亜遊なのよ。本当に高天原の女官なの?」
「亜遊は王族の姫だ。ワタリの生国の元王妃でワタリの兄王の正妃だった。あの国でまともな王族はワタリと亜遊、その他は10人居るかいないか。。。亜遊は7歳で王に嫁ぎ、ずっと黙って座っていたらしい。綺麗で重たい着物を着て。でも、国が滅ぶ時に移民を成し遂げたのは亜遊だった。」
「何故、高天原に行かせたの?」
「亜遊は自由を求めていたから。7歳に戻して亡国の王妃の身分も捨てて普通の宮仕になった。青い髪の桃花の親友で女官。桃花が2度目の生を受け成長できるようになってからは桃花のお守り役から側仕えだ。桃花の気持ちが一番分かるのは亜遊だ。
今回、亜遊が此処に来たのは桃花の命令だろう。危険な高天原から親友の亜遊を安全なところへと桃花は考えたのだろう。」
「そのような高貴な女を私が女官にして良いものでしょうか?」とエリはセキに言った。
「赤国は実力主義。出自など関係ない。それで、高天原の女官2人をエリはどう見る?」
「亜遊は気働きができ、初日なのにも関わらず、他の女官達が必要としている役目を果たしております。抄花は話になりません。でも抄花は気が利かない所さえ可愛らしい。美人慣れしていない赤男が何を仕出かすか。。。危険です。王妃の間で働いてもらいます。」
セキは笑いながら言った。
「さすがは元姫君。一番高価で地味な服を選ぶとは。。。」
王夫妻のブランチは、王妃から赤国の宮仕達のゴシップや流行り、噂話をセキが聞く場であった。
王妃の間の女官は2年交代。別々の職場から選ぶ。
本当のプライベートな時間は夜だけ。本当は偉そうな口利きで話すのもエリは苦手だった。
20に続く。。。