セキとエリのブランチは1時間半。その間に王妃の女官達は掃除をする。
亜遊はタオルやローブを片付けると洗面所に行ってバスリリーやブラシを洗い始めた。
亜遊は抄花が洗ったバスタブを見て抄花を呼んだ。
「抄花さん。これは掃除になっておりません。もう一度やり直しです。最後の仕上げに水滴を拭き取らなかったでしょう?手を抜くとこの白いバスタブは汚くなってしまいます。もう一度洗い直してください。そして隈なく水滴を取るように拭いて磨き上げるのです。わかりましたか?くれぐれも傷などつけないように。カーテンも取り外して洗って外に干してください。先輩達が場所を知ってるはずです。」
王妃であった亜遊は自由に自分の部屋の外を歩き回る事さえ禁止されていた。生国の兄に頼んでバスタブを送ってもらった。手入れは、ただ1人の女官、アザミがしてくれて亜遊はずっとそれを見ていた。届いたその日から、あの国が消滅するまで亜遊の楽しみはバスタブでお湯に浸かる事とバスオイルの匂いを嗅ぐこと。ケチンボの兄が妹を想って贈ってくれた沢山のオイルとソルトが、いつも部屋にあった。アザミは1人で湯を沸かし入浴の支度をしてくれた。
思い出すと涙が出そうになる。
亜遊はタオルやローブを片付けると洗面所に行ってバスリリーやブラシを洗い始めた。
そこに女官の1人が来て「亜遊さんは、高天原でどんなお役目だったの?」と尋ねてきた。
「女王様の側仕えです。」と亜遊が答えると女官は「私たちはメイドが本業じゃないの。ここは2年の交代制。女官長が居れば楽な仕事なんだけど、今はいない。亜遊さんが来てくれてラッキーだったかも。」と言って3人は安堵して笑った。
抄花も亜遊のお役目を初めて知った。アマテラス様の側仕え。。。道理で見かけたことのないオバサンだった。抄花は保育士だった。小さな子供が好きで早くお相手を見つけて自分の子供を持つのが夢だった。
子供の世話は苦にならない。
午後は比較的に暇だった。エリは諸国からの書簡を読んで返事を書いていたり、読書をしていた。女官達は交代でエリにお茶を入れ、本を取りに図書室へ行ったり、クロゼットの整理をした。花を生けるのは亜遊に任された。
3時になると給仕がワゴンにお菓子を乗せてやって来た。
「お茶の時間であるぞ。皆、ティーテーブルへ。」とエリが言うとベルナは5分前に事務室から出てきていた。
エリが主人となって女官達とお喋りする1時間。
3人の女官が「亜遊さんにご入浴の指揮を取ってもらいたいのです。」と言い出した。「私どもにはオイルやソルトの選定は無理です。亜遊さんは高天原の女王様の側仕えでいらっしゃるので出来ます。」エリは亜遊に「其方はどう思う?我は我儘者であるから、気に食わないと物言いがキツくなるぞ。」と尋ねると「誰だって、それは同じでございます。王妃様がお優しい方のは皆わかっております。そうですね。適材適所、合理的に考えるならば私が選定のお役目を賜るのが妥当でございましょう。」
「そうか。なら頼むぞ。」
先輩女官達は大きなストレスから解放されてホッとした。
ティータイムの最後の方でエリは「今日は亜遊と抄花の初出勤。他の女官達も気を遣ったことだろう。我から、趣味の合わない父からのお土産だが、いつものように好きなものを下賜する。」と言って赤い塗りの大きな箱を取り出した。「母子の家に行った2人にも昨日渡した。遠慮は無用じゃ。」
エリが箱の蓋を開けるとアクセサリーがたくさん入っていた。
亜遊には、この下賜と2年交代、毎日のティータイムの関係性が読めた。合理的性の塊のような赤王宮の合理的な無駄だと。働く者達の本音を探るために末端の情報を拾い上げるためにエリは動いていると。
21に続く。。。