入所したら、みんな自殺したくなる? 経験者に聞いた、刑事施設のリアル自殺事情!
2015年5月4日、滋賀刑務所内で50代の女性被告人が自殺した。同刑務所の発表によれば、女性被告人は洗面台の蛇口にタオルを引っ掛けて首を吊ったらしい。刑事施設での自殺といえば、有名な「尼崎事件」の主犯とされる角田美代子も留置場内で自殺している。留置場をはじめとする刑事施設に勾留されてしまうと、誰でも自殺したくなるモノなのだろうか? 刑事施設に詳しく、入所経験もある人物Aに聞いた。
■裁判前でも刑務所に収容されることもある?ニッポンの刑事施設事情
そもそも、刑務所で自殺は簡単にできるものなのだろうか?
「今回の事件が起こったのは刑務所ですが、正確には刑務所内の拘置地区で『○○拘置支所』などと呼ばれる場所です。自殺したのは『被告人』ですから、刑務所に服役している人ではありません。日本では、東京拘置所や大阪拘置所みたいに、拘置所そのものが独立した施設というのは意外に少なくて、地方都市だと刑務所内に拘置地区を設けているパターンが多いですね。当然のことですが、同じ敷地内にあっても、ブロックは刑務所とは分かれています。ただ裁判所に出廷する時は、刑務所から行き来するわけですから、"気分はもう懲役囚"だとはいえるでしょう」
■ブチ込まれたら、みんな死にたくなる? 刑事施設の異常な空間!
自殺者がいるということは、刑務所内での生活は過酷ということなのだろうか?
「生活そのものはそれほど過酷ではありませんよ。食事も三度キッチリ出ますし、睡眠時間も夜9時から朝6時半まで取られていますから、シャバで自堕落な生活を送っているよりずっと健康的です。ただ、ほとんどの人は、ある日突然逮捕されて、あれよあれよという間にブチ込まれ、同じ境遇の犯罪者(暫定)に囲まれながら(なんでオレはこんな所にいるんだ?)と思って呆然としているわけです。そして、一番死にたくなるのは、"これからのこと"を考えたときですね」
確かにショックな出来事であるのは間違いない。
「さらに殺人や強盗、薬物関係の再犯のように"実刑でムショ行き確実"という立場では、自分が釈放されて自由になれるのが何年先かわからないわけです。最悪、死刑の可能性もあるわけですから、そりゃ死にたくなりますよ」
■自殺されたら国家の面目丸つぶれ!
被疑者や被告人に自殺されないための、自殺防止対策はどのようなものがあるのでしょうか?
「裁判で判決が下される前に自殺されたら、国の面目丸つぶれですから、留置場にしろ拘置所にしろ、自殺防止策は徹底しています。
主に『服毒自殺』と『首吊り自殺』に関して厳しく策がとられていますね。留置場では外部から食べ物や薬など、口に入れるモノの差し入れは一切禁止ですし、拘置所でも指定業者が用意したモノ以外の菓子や食べ物は差し入れできません」
「『首吊り自殺』を防ぐためにも、とにかく"紐になるモノ"は一切部屋に入れさせないようにしています。タオルは洗顔時や入浴時、部屋の外では使えますが、タオルを使う時には常に刑事施設の管理員(留置場担当の警察官・拘置施設の刑務官)が監視しており、タオルを首に掛けただけでも大声で注意されますね。部屋の中にはハンカチサイズのタオルしか持ち込めません。また、衣服は常に身に着けている状態でいることを強制され、服に限らず靴下を脱いで放置しておくだけでも、担当官が飛んできて身に着けるように注意します。
また、仮に紐を用意できても、首を吊るために紐を引っ掛ける場所がどこにもありません。ドラマや映画だと留置場の檻には鉄格子が入っているだけですが、リアル留置場では鉄格子に紐を引っ掛けられないように、ボールペン1本しか通らないくらいの金網がビッシリ張られています。また東京拘置所(東拘)で勾留された人の話によれば、東拘は金網ではなくアクリル板がはめ込まれているとか。どちらにしても鉄格子を使って首は吊れません。
また、留置場のトイレは一応、個室になっていますが壁にはアクリル窓が付けられていて、トイレにしゃがんだ状態で上半身は外から丸見えです。そのうえ、トイレのドアは上の部分が斜めになっていて、ドアに紐を引っ掛けられないようになっています」
■それでも自殺を目論む収容者は後を絶たない...
ではどうやって自殺するのか?
「それでも今回の事件みたいに、水道の蛇口にタオルを引っ掛けたり、『尼崎事件』の被疑者みたいに、トレーナーを自分の首に巻きつけて締め上げるとか"その気になれば"首を締める方法はあるわけです。単に窒息すればいいというのであれば、色んなモノを飲み込んで喉に詰まらせるという手段もあります。昔、服のボタンを飲み込んだ者がいたのが原因で留置場や拘置所に差し入れできる服は、ボタンや金属部品があるものは禁止になりましたよ。最近ではトイレ用のちり紙を大量に飲み込んで自殺を図ったケースがあります。お陰様で(?)今は1日にもらえるちり紙の量が制限されています」
■留置場や拘置所はそこまでして自殺したくなる場所なのか?
「刑務所と違って有罪か無罪か、まだ決まっていない状態ですから、未来が予測不能だということで、かえって死にたくなるということはあると思いますね。
先ほど話した東拘に行った人も、罪状そのものは最悪でも懲役数年程度だったのですが、やっぱり拘置所で(死んでやろうかな)と思ったそうです。刑事罰を受ける罪を犯した疑いのある人物を収容するのが、留置場・拘置所なんですから、快適に過ごさせろとはいいませんが、自殺したくなるような環境というのはいかがなものかと思います」
ちなみにA氏は留置場に勾留中、一度も「死にたい」とは思わなかったらしい。その理由はもともと刑事手続きの手順を知っていたからで、自分が何日勾留されて、また、起訴された場合最悪何年の懲役を食らうかも予想し、受け入れる覚悟をしていたからだそうだ。だから同部屋の連中からは、
「Aさん...アナタ逮捕されるの本当に初めてですか?」
と何度も聞かれたらしい。
(文=ごとう さとき)