山王アニマルクリニック

日々の診療、いろんな本や音楽などについて思い巡らしながら、潤いと温もりのバランスを取ってゆこうと思います。

マチネの終わりに

2020-02-07 20:15:43 | 音を楽しむ

 

終わり良ければすべて良し……誰でも耳にしたことのある言葉だと思いますが、これはAll is well that ends wellというシェイクスピア作品からきているんですね。

でも世界中で加速化する、不正やウソがあってもデジタルでマジョれば?…という風潮に人類は飲み込まれ……よくよく振り返れば、時を経る度、過程の大切さも浮き彫りに……。

この小説は、そんな世の儚い移り変わりについて、タイミングの悪さはあれど、自らの行いによっても思い至る以上のものが――良くも悪くも――変わりゆくことについて、まず想像を拡げてくれると思います。

作者の平野啓一郎さんは、最近一番好きな作家で、私なんかより全然優秀な方なのですが、好きな音楽がけっこう共通しているのです。

方向転換しにくい年齢に達した男女のラブ・ストーリーが軸となっているのですが、物語の視野は広く、7000億ドル(約70兆円!)もの公的資金が投入されたリーマン・ショック関係(誰か責任取ったと言えるのか?アメリカは厳しいんじゃなかったの?)のことや、世界で最も複雑と言われるユーゴスラビアの民族紛争などが、続きが読みたくなるリズムに沿って絡められています。

いろんな読み方ができる小説だと思いますが、私が強く印象に残ったのは、バッハに関する記述です。

バッハ一族のルーツや三十年戦争(カトリックとプロテスタントの対立を契機とする最後で最大の宗教戦争と言われる)など、いろいろと調べたくなりますね。

トランス・レイシャルなドイツ詩人――リルケの詩の引用(平野さんが翻訳)も、バッハとのつながりを感じます。

このジャズ作品も、バッハによって頂点が築かれた対位法という作曲技法のもとに作られているそうです(『のだめカンタービレ』や手塚治虫の未完作『ルードウィヒ・B』にも対位法について出てきます)。

ネット上には――私欲か匿名の無責任さの中ではやけに勇ましい――分断を煽る言葉が世界中にあふれていますが、そんな中、Harmony Of Differenceというタイトルだけでも、胸に迫るものがあるではありませんか!

宇多田ヒカルさんは「最近行ったコンサートで誰が印象に残っていますか?」という質問にカマシ・ワシントンをあげています(→http://www.utadahikaru.jp/paisen2/)。

宇多田さんが観たライブでカマシが語った「いろんな人種、信仰、考え方(少し省略)…そういう違いは、互いにtolerate(耐える、寛大に受け入れる)対象ではなく、celebrate(祝う、讃える)べきものだ」という言葉が、まさにこの作品でも表現されているのでしょう。

『マチネの終わりに』に出てくる曲を、クラシック・ギタリストの福田進一さん他が演奏したCDも2種類出ているのですが…福山雅治さんと『逃げ恥』の百合ちゃん役を好演した石田ゆり子さん主演で映画化されたのには驚きました!(→https://matinee-movie.jp/

「バッハ無伴奏チェロ組曲」、このCDのために作曲された「幸福の硬貨」などいいですね~!

こっちはまだ買ってないですけど、ギター版ブラームス聴いてみたいですね(購入してみましたが、有名なドビュッシー作『月の光』なども入っていてオススメです)!

それと、秋のTBSドラマ『G線上のあなたと私』に出ていた女優さんが映画版マチネにも出ていたのでびっくり!――考えてみればこれもバッハつながりですね。

基本的には原作を先に読んだ方がいいのでしょうが、映画版マチネは、どちらが先でも楽しめる配慮をして作られているように感じました。

先ほどのCDでもギター・バージョンがあるようにバッハと言えば「無伴奏チェロ組曲」も有名ですね。

私、クラシックは少ししか聴かないし、テクニカルなことはわかりませんが、以前、銀座の山野楽器(クラシック充実!→https://www.yamano-music.co.jp/online/soft/)のCDコーナーで試聴できる「無伴奏チェロ組曲」をいろいろ聴いてみて、気に入ったのがこの作品です。

1、3、5番だけの廉価版なので、初心者向きなのでしょう。

 

バッハの音楽は、時代を超え、音楽のジャンルを超えて、小説や漫画にも影響を与え続けているんですね。

楽観は全くできませんが、これからも分断するための両論併記ではないもの(つながり合うための陰陽併記というか陰陽五行!?)は、無力なアートの中に脈々と受け継がれてゆくのでしょう。

ネット上でも、分断を煽る言葉には加担せず、切り離され、裏切られ、憎しみを駆り立てられても――混乱した時は『マチネの終わりに』を読んだり、バッハから連なる音楽を聴いたりして――最終的には、ゆるやかに響き合う言葉を、匿名の時こそ発信できたらいいですね!

匿名だからバレないと勘違いして悪口を書いたり、裏工作したりしている方々…カフェなどで友達と会って納得いかないことを悪口を含め語り合うのと違って、機械は残酷なまでに証を残します――今バズっているこのツイートをご覧ください→みちかげ on Twitter


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