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パラダイス・アンド・ランチ |
ライ・クーダー | |
Warner Music Japan =music= |
今回のオススメは春~秋にかけて合いそうなこのアルバムです――学生時代に教えてもらったのですが、今でも時々聴きたくなります!
ライ・クーダーはギタリストとして有名であり、歌唱力の方はビミョーと言えます。でも、そののんびりした歌声は、歌が上手い人にはない人当たりの良さを感じます。
このアルバムでは、そんなある意味で軽い歌声とボビー・キングら黒人たち(かなりのベテランもいるようです→Harmony Lane: Mumford/当時は糖尿病を患っていたようです)による重層的なコーラスが、なんとも絶妙なハーモニーを響かせているのです!
1曲目のTamp 'em up solidは伝統的に歌い継がれていた曲らしいのですが、日本版CDの訳を読んでもなんだか意味不明? 調べてみたら、日本版の原文自体に誤りが多いようですね(MoneyがMondayになったりしている)。
そして、こちらのブログを発見!→ブルブル ブルース(Blues)
この曲は、ほんわかしたムードで歌われていますが、実は原野を切り開き鉄道を作っていった人々…過酷な肉体労働をするしかなかった黒人たちが、その耐え難さをまぎらわすために歌い継いでいったワーク・ソングだったようです。
長年聴いていても気づかなかったのですが、ちょっと調べてみると、想像以上に重い意味が込められているようにも感じました(http://voices.pitt.edu/come-all-ye/ti/2006/Song%20Activities/0405PekarWhittakerWorkSongs.html)。
仕事で大変な時は、この曲を脳内再生しましょう!
2曲目のTattlerは、ゴスペルの父みたいな存在であるワシントン・フィリップスの曲とのこと。原曲(You Can't Stop A Tattler)はパート1と2があり、パート2の前半の歌詞とパート1の後半の歌詞にサビの歌詞をオリジナルで付け加えたようです。
この曲もすごくいい曲なのですが、ストリング・アレンジはイタリア系のニック・デカロだったんですね(ライ・クーダーのお母さんもイタリア系のようです)!
Tattlerは「おしゃべり屋」とか「告げ口屋」という意味のようですが、サビの歌詞のおかげで原曲とは違った奥行を持つ「おしゃべり屋」になっているように思います。
それにしても…あれ?このスペルはどこかで見たぞ!
……と思っていたら、谷津干潟でもらった野鳥のパンフレットにキアシシギ(Grey Tailed Tattler)と書いてありました! 辞書にもTattlerの所に――〔鳥〕キアシシギ――とありました。
キアシシギはけっこうよく見かけるのですが、写真を探したら、こんなのしかありませんでした。
一番奥にいるのが、キアシシギだと思います。左手にいるのは、オバシギかな?
右側にいるウミネコの顔がちょっとコワイですね――これは三番瀬で撮った写真です。
確かにキアシシギっておしゃべりだったように思います。でも、風を感じながら、晴天の干潟に響くその声を聴いていると、とても心地良かった記憶がありますね。
これは谷津干潟で撮った写真を拡大したものです――黄色い脚が見えますね。
話を『Paradise & Lunch』に戻しますが、このアルバムの曲全部いいんですよね!
ボビー・ウーマックのIt's All Over Nowもバート・バカラックのMexican Divorceも大好きです!
こういうネガティブなタイトルの曲なのに、やけに明るいレゲエ調だったり、悲しみの中にも滑稽さを感じさせてくれたり、なんだか不思議なアルバムです。
(ケルアックの『オン・ザ・ロード』でも言及され、チャップリンやマリリン・モンローなど著名人が行なったというMexican Divorceの本当の意味もおもしろいですね→Mexican_divorce)
最後の曲Ditty Wah Dittyは、ジャズ・ピアノの父と呼ばれるアール・ハインズとの共演……当時70歳くらいだったハインズの粋なピアノと27歳くらいだったライ・クーダーのギターで時をつなぎ合う名演となっています。
私はハインズについてよく知らないのですが、このアルバムだけはありました(中古しかないのかな?この前、山野楽器で新品が1000円で売ってたのですが…)。
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ヒア・カムズ |
アール・ハインズ,リチャード・デイヴィス,エルヴィン・ジョーンズ | |
SMJ |
1966年に録音されたこのアルバム(ハインズは当時62歳)は、ドラムはエルヴィン・ジョーンズ、ベースはリチャード・デイヴィスと角も取れつつ、キレがある30代後半のミュージシャンとの共演なので、レトロなムードの中にも新鮮さを感じさせてくれます。
エルヴィン・ジョーンズは好きなジャズ・ドラマーなのですが、私はPerfumeの曲で有名となった「ポリリズム」という言葉を、この人から知りました。
コルトレーン・カルテットのドラマーとして有名ですが、「グル(聖者)になりたい」と語っていたコルトレーンと方向性が合わず、この録音の数日後に脱退したそうです。
そんなわけで『Paradise & Lunch』は、ジャズにもつながる拡がりを持ったアルバムなんですね。
ブルースやゴスペルなど黒人音楽のルーツとなるような曲などがカバーされているアルバムなのですが、元祖たる黒人バージョンだと、それが本物であるがゆえに心情もサウンドもへヴィーで、消化不良を起こしてしまう人もいるように思います(胃腸が強い人には、その濃さがたまらない魅力!)。
その点このアルバムは、黒人音楽を下地にしながらも、白人と黒人が協力することで、重過ぎず軽過ぎない絶妙なバランスを取ることができたのでしょう(胃腸が強くなるきっかけとなってくれるアルバムとも言えそう)。
いつの時代も、どの業界も最先端や最新系ばかり絶賛する人が多いですが、そういう一面的思考はバカの一つ覚えとなって…古臭さ以上に胡散臭さを放つ不思議な構造のマンネリ化へ?!
(技術は進歩しているという割に、最先端デジタル系よりもLPレコードの方が音がいいと言う人がいるのは…最先端PC業界でさえ、最新なはずのWindows10は使えないとかバグが多いとか言っている人がいるのは…なぜ?)
時を経るほどにネタも減る中、本当に画期的なものなんて、実はめったに生まれてませんからね!だから、このようなアルバムを作るアーティストが出てくるのだろうし、その生身を使ったアプローチが我々の心に――最新のものとは違う意味で――新鮮に響くのだと思います。
Marrid Man's A FoolやFool For Cigarette/Feelin'Goodなどのブルースは、スライド・ギターのボーダレスな響きがカッコイイんです! これらの曲は、時代を超えて漂う憂鬱を笑い飛ばし続けてくれるでしょう!!