ナイト キャット | |
リサ・ラーソン他 | |
実業之日本社 |
世の中には裏と表があり、ネコ的な人もいれば、イヌ的な人もいます(その間にいろんなバランスの人も)。今回紹介するのは、そんな傾向をなんとなく表現しているこの2作です。
子どもに楽しく読み聞かせながらも、大人はちょっと我に返る…そんな絶妙なスパイスが効いているので、子どもにも大人にもオススメです。
英語の原文も一緒に載っているのがまたいいですね。
作者代表のリサ・ラーソンは、スウェーデンを代表する陶芸家……シンプルで好き嫌いの分かれそうな絵ですが、陶芸作品はなかなか魅力的で、日本でもけっこう人気があるみたいです。
昨年、展覧会だかの広告も見たし、雑誌LEEの付録だという『ナイト キャット』の表紙のネコがプリントされたエコバックがウチにありました。
背景のデザインは、おそらく娘さんのヨハンナ・ラーソン担当なのかな?そして文章は、その夫ジェームス・ブレイク(ミュージシャンで同じスペルの人がいますね)担当……と作品からは、ラーソン・ファミリーで楽しみながら作った感じが伝わってきます。
有名作家の角田光代さんが翻訳していることからも、この2作品がユーモアで包み込む奥行きがうかがわれます。
アマゾンのレビュー数からすると、『ナイト キャット』の方が人気なのかもしれませんが、この2作は両方読んでこそ意味があるように思います。
★動物病院として気を付けてほしいことは、『ナイト キャット』の中に記述されている「お皿はいつもごはんで満杯」という所です。
多頭飼育だとなかなか大変ですが、以前も書いたように常にフードが食べられる状態にしておくと、命も身体も太く短く方向へ行きがちなのです。
常にフード満杯だと、普段一日にどれくらい食べているか?が把握しにくいでしょう? つまり病気で食欲が落ちていても、気付くのが遅れ……気付いた時には手遅れに!?
ビジードッグ | |
リサ・ラーソン他 | |
実業之日本社 |
『ビジー ドッグ』は、いつも大忙しのイヌのお話……マグロ大量死で有名となってしまった水族館で聞いた話ですが、マグロって動いていないと、泳いでいないと死んでしまうのだそうです。
人間でも信じられないくらいアクティブで、あちこち飛び回っているような人っていますよね。
時に、他人から見るともうちょっと向き合った方が良いのでは?…と思える問題(夫婦、子ども、その他血肉に関わることなど)から目をそらすために忙しく動き回っているような人も?
多かれ少なかれ人間って、そんなものかもしれませんが、ビジードッグ的なモードの時って本人は一生懸命なので、遠回しに言っても全く気付かないし、ストレートに言ったら傷付けてしまうし……そんなモードの時は、お互い気を付けましょうね!
『ビジー ドッグ』には本屋さんで出会ったのですが、これを読んだ時、私はある映画を思い出しました……
グッド・シェパード [Blu-ray] | |
(監)ロバート・デ・ニーロ(主)マット・デイモン | |
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン |
グット・シェパードとは「良き羊飼い」という意味らしいです。でも日本の動物病院的には、シェパードと言えば、警察犬として有名なジャーマン・シェパードが思い浮かびます。
2006年に公開されたこの映画は、アメリカが誇る世界最大の諜報機関CIAの誕生秘話を描いており、監督はロバート・デ・ニーロ、主演マット・デイモン、アンジェリーナ・ジョリーもその奥さん役で出演しています。
確か?映画化しようとしたら資金が足りないだかで?困っていた所、デ・ニーロに脚本を見せたら、とても気に入り、自ら監督することにした?…みたいなエピソードを公開当時に聞いた覚えが……?(Wikiには紆余曲折としか書いてません)
私、映画はほとんど見ないのですが、上述のようなエピソードをテレビか何かで聞いたので、めずらしく公開時に映画館へ足を運んだのです。
上映時間2時間47分と見応えがあり、とても考えさせられるストーリーでした(長いので少しネタバレしちゃいます)。
アメリカを伝統的に支配してきたWASP(白人、アングロサクソン系、プロテスタント教徒の3条件を満たすエリート層)が主導する?CIAとアイリッシュ系カトリック教徒で初の大統領となったケネディーとの攻防、映画の中で何度か出てくるジョイスの小説『ユリシーズ』(ジョイスもアイリッシュでしたね)など歴史や人種の背景などを知るともっと理解が深まりそうです。
主人公のエドワード(マット・デイモン)は、スパイ活動で忙しく、家に帰る暇もない。そのため奥さんと息子は……息子の沈んだ疑り深そうな瞳がとても印象的。
しかし、エドワードも不幸な死を遂げた父と同じく、「選ばれし者」の高みからこぼれ落ちる惰性に翻弄されているだけで、何を、誰を信じてよいのかわからない……政治家や大企業などの二世や三世でも、こんな風に自分を生きているとは言いがたい人がいるように感じます(我々庶民の想像を超える孤独なのか?)。
この映画ほどハードではなくても、そういう方向に行き過ぎてしまう人もいるのでしょう。でも、エドワードがそうであるように、そうなってしまう人にも、それなりの理由があったりするから…なんとも難しい。
現実の社会では、よほど恵まれている人以外、ビジードッグ的な方向に足を取られざるを得ないのです。そして…そんな傾向が盲目的に強まるほど、周囲にどうしようもない思いを抱いている人がいたりするのかもしれません。
人間はみんな不完全です。ビジードッグ的な人の行動力は素晴らしく、そういう人でないとできないことがある──ナイトキャット的な人でないとできないことがあるように。
ビジードッグ的な人の近くには必ずナイトキャット的な人がいて、お互いに「あれでいいの?」なんて思いつつ刺激し合い、その気がありさえすれば学び合うことができる……そうやって気付きの種はばらまかれているのではないでしょうか。
『グッド・シェパード』の中では、心に残る言葉がいくつも語られるのですが、最後にその中の言葉を一つだけ……
Everything that seems clear is bent. And everything that seems bent is clear.
明白なものには裏があり、疑わしいものは明白だ(字幕)
これは1902年にスティックニーという人がに書いた詩の一節だそうです。「スティックニー」でググっても日本語ではヒットせず、その著作も日本語に訳されたものは見つけられませんでした。
いろんな国で暮らした経験があり、ハーバード大卒業後、ソルボンヌ大にて博士号を取る……とボーダレスな活動をする人だったようです。