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2月12日(水)のあさ空。
今日は雨。180度の空を探しても雲の切れ目はなさそうです。
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ずっと引きこもり生活をしているので、今日はそろそろ出かけようと思っていたのに、雨が強くなって、体調も悪くて起き上がれず。寝たり寝たりの一日。
春の海 終日のたり のたりかな 蕪村
春はまだ遠い天候ながら、私はのたりのたりの気分。こういう日は不安になりがちなので、自分をなだめながらやり過ごします。
古い映画を見るときに、当時の暮らしを見ることを楽しみにしています。それで思い出すのが名作として名高い小津安二郎監督の「東京物語」(1953年)。昭和28年の作品は戦後8年で日本がどれくらい復興しているのかということを感じることができる映画。夫婦で東京行きの荷物をそろえているときに、空気枕がないと言い合う場面も日常を淡々と描く小津監督の空気感が印象に残っていますが、特に私の目に留まったのが挨拶の場面。これは本編には関係なく、私が資料としておもしろいと感じたものですが。男の子の孫たちはやんちゃで帽子を脱いで軽く頭を下げる程度ですが、娘や嫁は座敷に座る両親に正座して手をついて頭を下げる(座礼)。このお辞儀が日本人の挨拶だったわけですが、今はほとんどが畳ではなく、客間はソファなので、当然、正座して手をついて頭を下げるお辞儀はしない場合がほとんど。立ったままのお辞儀自体は残っていますが、正座してのお辞儀は畳がない暮らしには残らないのではないのだろうかと思ったのです。茶道など、畳文化自体は残るはずですから、「消える」とは思いませんが、畳の消えた日常の挨拶としては、私自身がしなくなっているので、これから先はどうなのかなと思ったわけです。
最近、やたらとよく耳にするのは「土下座」。正座して手をついてお辞儀するという挨拶の方法のひとつですが、「土下座」となると、最上級の謝罪の意味合いが強くなり、「スライディング土下座」といったことばもよく聞くようになりました。急を要するおわびにさらに強い謝罪の意味が加わる「スライディング土下座」は、クレーマーの謝罪要求が強くなった昨今の社会背景ありきと思いつつ、何か人を見下しているような気がして嫌なことばに思えてしまいます。畳の上ではない「土下座」は、土足で歩く床などに正座するわけで、挨拶の正座とは全く意味合いが異なるわけですが、正座してのお辞儀が土下座として残るのは何か違う気がしてしまいます。
実は映画を見たときに、正座してのお辞儀が私にはとても懐かしい場面に見えたのが印象に残った理由です。このブログで何回か書いていますが、父は8人兄妹の長男で、実家での親族の集まりが多人数。母とふたりでおせちを70人分ほども用意するくらい。とにかく食事の準備だけで重労働。ふたりでは時間がなく、一日中、くるくると働く必要があったのに、その手を休ませないといけないのが、ご挨拶。親戚のひと家族、ひと家族が到着する度に、この正座して頭を下げるをひとりひとりに繰り返さないといけないのです。ひとりに一度のお辞儀ではすみません。頭を下げて、常日ごろの謝辞などを口にしながら、繰り返し、頭を下げる。軽い挨拶ではなく、最敬礼のお辞儀なので、本当に大変。忙しいのに、挨拶にやたらと時間を取られるのに辟易していたのを「東京物語」の挨拶の場面で思い出したのです。丁寧で日本的である挨拶方法自体は嫌いではなかったのですが、ちょっと特殊だと感じるくらいのお作法でした。
思い返してみると、田舎の行事には決まり事が多くて、何かと伝統の「やり方」を通さないといけなかったわけですが、時代が変わり、生活様式が変わり、今となっては、親戚の中では私くらいしか覚えている人間はいないような状態。正座して最敬礼のご挨拶も姪たちは経験したこともないわけで。
小津監督の「東京物語」は戦後の目覚ましい復興の中、新しい暮らしを求めることができるようになった活気の中で、家族の絆が希薄になって行く姿を描いていますが、私は挨拶の場面で、自分の暮らしの中で去って行ったものを思い起こしたのでした。一方で、映画から70年以上が過ぎていても、小津監督が描いた「家族の絆」についての悲哀は今も変わらない気がします。今は「子供たちの世話にはなりたくない」と、より一層、高齢化する社会の中で、子供との距離を取る人たちが多くなっていることを感じます。昨日のAさんとのおしゃべりの中でも、「ひとりで暮らせなくなったら、一日も早く施設に入りたい」と何度も口になさっていらっしゃいました。
ひる空。雨が激しい。
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「結婚してもしていなくても年を取ればみんなひとりよ」
ご夫婦の場合、先に亡くなれば、ひとりではないはずですが、「東京物語」で老夫婦が感じた「疎外感」が今もひとの心に占めていることを昨日のAさんとのおしゃべりで感じました。
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