刀称の親父さんが亡くなった記事をアップしたあとすぐに森下(8期生・環境学研究者)から連絡。
「明日はどんな予定?」
「はええな・・・こっちを午後4時くらいに出て奈良でセンセをピックアップして福井に向かう」
「じゃあ、第二阪神を直進して京都市街に入ってくれたらいいけど・・・」
「なんやなんや、福井まで乗せてけ言うなら京都駅まで出てくる気配りあってしかるべきやろ」
受話器の向こうではくぐもった笑いの森下。
里恵(7期生・国語講師)から電話があったがエスティマを走らせていてブッチする。
塾に戻ってしばらくすると里恵登場。
かばんから買ったばかりの香典袋と筆ペンを取り出す。
「うち、字ヘタやからなあ」と里恵。
「いやあ、準備のいいこって」
「これからこんな時のために、薄文字の筆ペン、塾に置いておいたら」
「そりゃすまんこって」
「コンビニで買い物してさ、万札くずしたんやけど千円札が新札でさ。頼んで変えてもらった」
「どういうこと?」
「お葬式の場合は結婚式と違って新札はアカンの。結婚式の場合は前々から準備していたって意味で新札やけど、お葬式は突然やろ、新札はアカン」
「へえ知らんかった・・・よく知ってるな」
「こんな知識は男の人より女緒やろ。それに先生がそんな知識を知ってそうに思えんわ」
「いやあ感動した、・・・いつのまにかそんな知識で太りなりはって」
「なになに? なにが太ったって? こらこらこら、笑ってごまかしたな!」
刀称が会った最初のウチの生徒は臼井(4期生・臼井自動車)だ。
俺たちが大阪で会うスナック『IVY』で臼井はバイトしていた。
というか、かつてバイトしていた俺のように『IVY』のママに頼み込んで臼井をバイトさせたのだ。
さらに征希(4期生・カイロプラクティク自営)や越知(4期生・旭洋)へと塾生の輪は広がった。
刀称が奈良に住む鈴木のセンセとウチの塾に遊びに来るようになると、塾生の輪は広がった。
崇(6期生・国士舘大学講師)と古西(12期生・JT)なんぞ、旅行のついでに福井で世話になったりしている。
しかし塾生にすれば、塾先たる俺の友人という微妙な関係。
ただ、刀称が息子をウチの塾に密航させたり、鈴木のセンセとつるんで塾に遊びに来るなどして、ウチの塾生と飲む機会やマージャンを打つ機会が増えていった。
たぶん俺は・・・俺が手塩にかけて育てた生徒をダチに見せびらかしたかったのだ。
それこそが俺が塾を連綿と続けてきたアイデンティティ。
かといってセンセから連絡がっても、塾生に明日のお通夜に関して特別なことをしてもらうつもりはなかった。
里恵のあとに谷(6期生・ユニバーサル造船)が臨月の奥さんを伴って登場。
さらに甚ちゃん・・・。
その一人一人から香典をいただいた。
こと冠婚葬祭に関しては無関心・無感動・無頓着だったの俺の生徒がねえ・・・。
しっかりしたトップより、いいかげんなトップ・・・教育は反面教師、人材育成はこれやで。
谷の奥さん、そろそろ生まれてもおかしくないとか・・・。
あの谷の子どもか・・・ここでも妙に感慨深くなりそうで、居心地の悪い俺がいる。
真ん中の部屋で近況を語り合う。
谷にしろ甚ちゃんにしろ妻帯したことで、塾に来れば誰かいる・・・そんなノリは影を潜めた。
いつしか戸主が集まって話している風情・・・これが時間の魔術というものだろう。
「まだ父親になる自覚ないなあ」と谷。
「実際に見てへんしね」と奥さんと里恵が頷きあう。
「見たら、・・・抱いたら、実感沸くんかな」と谷。
「そりゃ人によるわ」と里恵。
皆の視線が俺に注がれる。
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