『包囲』
新潮文庫、番号8、『ボッコちゃん』収録。
星新一氏は、アイディア潰しの異名を持つ作家だ。
人によっては何百ページ分、何冊分に及ぶだろう作品の「核」だけを、膨大な数のショートショートにまとめ、消化している。
この作品もそういったタイプの一つと言える。
常に何者かに命を狙われる主人公は、毎回その襲撃を華麗に回避しつつ、真なる黒幕の正体をつかむべく、調査の旅を続ける。その苦闘は、しかし永遠に終わらない──。
やろうと思えばこれ、アクション物のシリーズ作品としていくらでも引き延ばせそうな序盤。
その序盤だけで、ショートショートは潔く終わってしまう。
果たして黒幕は何者か、その答えは是非とも本作そのものに目を通してほしい。
それにしても、この主人公って密かに強すぎである。
判断力、観察力、推理力、洞察力、行動力、どれを取ってもハイレベル。
しかも敵への反撃手段が妙に生々しい。
万年筆を指の間に挟ませて、それを握りしめるって……そりゃ痛いわと子供心にもよくよく伝わったっけ。
グロ書かなくても残酷描写は出来るという好例かもしれない。
それでは。また次回。