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裁量労働制ヒアリング議事概要(厚生労働省の裁量労働制に関する検討会)
厚生労働省の裁量労働制に関する検討会(正式名称「これからの労働時間制に関する検討会」)において非公開で行われたヒアリング全4回(企業2回、労働組合1回、労働者1回)の議事概要(議事録ではなく議事概要)が今週の火曜日(2021年12月21日)に公開された。
検討会における裁量労働制ヒアリングは労働側ヒアリングは労働組合(2組合)と労働者個人(4名)から実施し、使用側ヒアリングは企業(4社)から実施している。企業が4社となっているのは労働側と使用側のバランスを考えて増やしたのだろうとも推測できるが、議事概要には特に説明はない。
労働者個人からヒアリングするなど、あまり例のないことだが、議事概要を読むと、いずれも4名の労働者も裁量労働制に満足しているようだ。どのような経過で4名の労働者個人が選ばれたのか、議事概要には特に記載されていないが、今後、説明が必要だと思う。
裁量労働制ヒアリングの結論としては、企業4社と労働者4名は現状の裁量労働制にほぼ満足し、裁量労働制拡大についても否定的ではない。だが、労働組合2組合は「曖昧さによる誤認や拡大解釈が生じないよう、対象業務の精査や明確化を図るべきである」、「適用労働者は長時間労働の傾向にあること」「長時間労働等の結果として裁量がある働き方が出来ていない場合もある」と裁量労働制の課題を指摘し、「これらが改善されない状況では、安易に適用者を拡大すべきではない」とも述べている。
なお、個人的な推測だが、裁量労働制ヒアリングは第3回検討会での企業ヒアリングとと第4回検討会での労働組合ヒアリングだけ予定していたが、裁量労働制拡大について賛否がわかれたため、当初は予定していなかった第5回検討会での企業ヒアリングと第6回検討会での労働者ヒアリングを追加して、ヒアリングでは現状の裁量労働制にも満足し、今後の裁量労働制拡大にも賛成が多数という結論に持って行ったのではなかろうか?
そう思える根拠は、第2回「これからの労働時間制に関する検討会」議事録には厚生労働省・労働条件政策課課長補佐の発言として「資料3『今後のヒアリングの進め方について(案)』を御覧ください。今後のヒアリングの進め方といたしましては、対象者は1にありますとおり、企業の人事担当者及び労働組合の担当者を、また、2、主なヒアリング事項といたしましては、企業・団体の概要及び労働組合の運用状況・企業における工夫・労働組合における対応等を予定しております」と記載されていること。
つまり、裁量労働制ヒアリングは当初「企業の人事担当者及び労働組合の担当者」だけを予定しており、「労働者」個人のヒアリングなど予定していなかった。
資料3 今後のヒアリングの進め方について(案)(PDF)
企業からの裁量労働制ヒアリング(1)
企業からのヒアリング(2021年9月7日)抜粋
1 A社(電気機械器具製造業/従業員数 10,000名以上/裁量労働制適用者の割合:全体の約30%強(専門業務型:約9割、企画業務型:約1割))
・企業としては、裁量労働制は本人が生産性を高めるための仕組みとしてより柔軟で使いやすいものとなれば更なる活用に繋がると考えるが、反対に、対象者が制度をよく理解していない状況がある場合、もしくは制度としては理解されているものの、対象部署の人たちの業務が忙し過ぎて結果として裁量労働制にそぐわない状況となることが見込まれているのであれば、無理強いはしないことが必要と認識。
・裁量労働制の課題としては3点認識。
1点目は、企画業務型の対象業務の範囲について、いわゆる課題解決型の提案営業は、業務遂行の手段や時間配分等の裁量を委ねることで、さらなる生産性の向上や多様な働き方の実現につなげることができるのではないか。
2点目は、現行法では企画業務型と専門業務型に少し手続面で差があり、運用の煩雑さがある。
3点目は、一般的に、在宅勤務・テレワーク環境下においては出社時と比べて厳密な労働時間管理が難しく、それが長時間労働を招くことも懸念されているため、その中で、労働状況の把握や健康管理措置等について、労使でしっかりと議論し、適確・厳格に運用することが重要と考えている。
2 B社(その他金融業/従業員数 約3000名/裁量労働制適用者の割合:全体の約1%(専門業務型:2割、企画業務型:8割))
・適切に本人の裁量の有無を確認する観点から、制度適用の入口は厳しく運用している。まず、人事部から対象部署の部長に適用候補者リストを送り、適用候補者本人と部長で話をした上で、本人が裁量労働制の適用を希望する場合は、本人の業務内容や上司の指示の有無・程度について、本人と上司の認識が合っていれば、部長から人事部に適用の申請をする。人事部でも問題無しとの確認ができれば、適用を承認し、適用者を確定するというステップにしている。また、適用開始以降も、問題があれば適用を解除する可能性があることを明らかにしている。
・裁量労働制の在り方としては、固定的なルールで縛るよりは、基本的な考え方を示した上で、各現場で判断できる仕組みにしていただけるとありがたい。国から、制度の運営に対する基本的な考え方(導入企業が基本的に守るべき方針・ポリシー)のほか、実際の労災事案や、企業活動・働き方の変化を踏まえた留意点について、定期的に情報発信をしていただけると、労使お互いに業務状況や環境の変化にマッチした働き方を追求できるのではないかと考える。
労働組合から裁量労働制ヒアリング
労働組合からのヒアリング(2021年10月15日)抜粋
1 A組合(製造業等の組合が加盟する産別労働組合/組合員数20万名以上)
・裁量労働制に対する意見について、まず、企業への要望としては、導入目的や対象業務、対象者の条件等を労使が納得する形で制度を導入したうえで、導入後も制度趣旨に沿って適切に運用されることが重要だと考える。
制度への要望としては、制度趣旨に沿った運用の徹底のため、監督指導の強化や労使委員会が機能するための措置のほか、勤務間インターバルや深夜労働時間の回数制限等の選択的措置の義務付けが挙げられる。なお、労使委員会に関しては、労働組合が無い場合や、あっても中堅・中小労組など知識や交渉力も無い場合に、本当に労使委員会が機能するかは課題だと考える。
○裁量労働制の課題としては、適用労働者は長時間労働の傾向にあること、長時間労働等の結果として裁量がある働き方が出来ていない場合もあること、この2点をしっかり改善していくことが重要。裁量労働制は否定しないが、これらが改善されない状況では、安易に適用者を拡大すべきではない。
2 B組合(情報通信業の労働組合/所属企業の従業員10,000名以上(裁量労働制適用者の割合:全体の約2%(専門業務型:約7割、企画業務型:約3割))
○裁量労働制に対する意見として、まず、企業に対する要望としては、業務量の適正化、組織改編時に適用業務を適切に見極めるための相応の時間を準備すること、管理職を含め全ての労働者の制度理解等を継続的に行うこと、また、前述のとおり、みなし労働にせざるを得ない背景・理由を明確にすること等である。現在、労使間でコアなしフレックス制度の導入を協議中だが、この制度下で自己裁量を発揮し自律的に働けるようになった際には、みなし労働をやめることも考えられ得る。
制度に対する要望としては、曖昧さによる誤認や拡大解釈が生じないよう、対象業務の精査や明確化を図るべきである。
○テレワークについての問題点・改善点としては、特に3点ある。1点目は、自宅勤務を想定した住環境を準備していない労働者がおり、公私の境界が曖昧になっていること。
2点目は、自宅ネットワーク環境により、PC上の画面に顔を出さない場合、表情や反応が読み取れない結果、コミュニケーション不足となり、こうした積み重ねが心身の不調にもつながっていること。3点目は、在宅勤務が続いて運動不足などにより生活習慣病への懸念が高まっていること。こうした点に労使間で注力する必要があると考えている。
企業から裁量労働制ヒアリング(2)
企業からのヒアリング(2021年11月11日)抜粋
1 C社(電気機械器具製造業/従業員数 約3,000名/裁量労働制適用者の割合:全体の約50%(専門業務型:約3割、企画業務型:約7割))
・労働時間制度への意見としては、現状、時間という概念が根強く残る現行の労基法に縛られて働かざるを得ず、グローバルで事業展開している中でも、36協定の対象の時間管理されている労働者は、夜中の海外とのビジネスに携わりづらいことから、時間管理をもう少し柔軟にし、成果という形で考えるようにしてほしい。激化する海外企業との競争において、日本の労働者のみ労働時間に関する様々な制約が課せられることで、国内企業の競争力が低下することを大変危惧している。
・高度プロフェッショナル制度も導入しているが、この対象者は、非常に専門性が高く、より柔軟で研究者的な働き方が適し、高額な報酬を会社としても提供したいという特別な社員に限定し、役割等級制度とは異なる別個の人事制度を作った上で、約1年前から運用している。但し、裁量労働制と比較して、高度プロフェッショナル制度が、本当に有効なのかどうかについては引き続き検証していく。
2 D社(電気機械器具製造業/従業員数 約30,000名/裁量労働制適用者の割合:全体の約17%)
労働者から裁量労働制ヒアリング
労働者からのヒアリング(2021年11月29日)
*労働者からのヒアリングについては<関連記事>として紹介しているnote(ノート)の記事に記載しているので、ここでは省略。
<関連記事>
厚生労働省の裁量労働制に関する検討会(正式名称「これからの労働時間制に関する検討会」)において非公開で行われたヒアリング全4回(企業2回、労働組合1回、労働者1回)の議事概要(議事録ではなく議事概要)が今週の火曜日(2021年12月21日)に公開された。
検討会における裁量労働制ヒアリングは労働側ヒアリングは労働組合(2組合)と労働者個人(4名)から実施し、使用側ヒアリングは企業(4社)から実施している。企業が4社となっているのは労働側と使用側のバランスを考えて増やしたのだろうとも推測できるが、議事概要には特に説明はない。
労働者個人からヒアリングするなど、あまり例のないことだが、議事概要を読むと、いずれも4名の労働者も裁量労働制に満足しているようだ。どのような経過で4名の労働者個人が選ばれたのか、議事概要には特に記載されていないが、今後、説明が必要だと思う。
裁量労働制ヒアリングの結論としては、企業4社と労働者4名は現状の裁量労働制にほぼ満足し、裁量労働制拡大についても否定的ではない。だが、労働組合2組合は「曖昧さによる誤認や拡大解釈が生じないよう、対象業務の精査や明確化を図るべきである」、「適用労働者は長時間労働の傾向にあること」「長時間労働等の結果として裁量がある働き方が出来ていない場合もある」と裁量労働制の課題を指摘し、「これらが改善されない状況では、安易に適用者を拡大すべきではない」とも述べている。
なお、個人的な推測だが、裁量労働制ヒアリングは第3回検討会での企業ヒアリングとと第4回検討会での労働組合ヒアリングだけ予定していたが、裁量労働制拡大について賛否がわかれたため、当初は予定していなかった第5回検討会での企業ヒアリングと第6回検討会での労働者ヒアリングを追加して、ヒアリングでは現状の裁量労働制にも満足し、今後の裁量労働制拡大にも賛成が多数という結論に持って行ったのではなかろうか?
そう思える根拠は、第2回「これからの労働時間制に関する検討会」議事録には厚生労働省・労働条件政策課課長補佐の発言として「資料3『今後のヒアリングの進め方について(案)』を御覧ください。今後のヒアリングの進め方といたしましては、対象者は1にありますとおり、企業の人事担当者及び労働組合の担当者を、また、2、主なヒアリング事項といたしましては、企業・団体の概要及び労働組合の運用状況・企業における工夫・労働組合における対応等を予定しております」と記載されていること。
つまり、裁量労働制ヒアリングは当初「企業の人事担当者及び労働組合の担当者」だけを予定しており、「労働者」個人のヒアリングなど予定していなかった。
資料3 今後のヒアリングの進め方について(案)(PDF)
企業からの裁量労働制ヒアリング(1)
企業からのヒアリング(2021年9月7日)抜粋
1 A社(電気機械器具製造業/従業員数 10,000名以上/裁量労働制適用者の割合:全体の約30%強(専門業務型:約9割、企画業務型:約1割))
・企業としては、裁量労働制は本人が生産性を高めるための仕組みとしてより柔軟で使いやすいものとなれば更なる活用に繋がると考えるが、反対に、対象者が制度をよく理解していない状況がある場合、もしくは制度としては理解されているものの、対象部署の人たちの業務が忙し過ぎて結果として裁量労働制にそぐわない状況となることが見込まれているのであれば、無理強いはしないことが必要と認識。
・裁量労働制の課題としては3点認識。
1点目は、企画業務型の対象業務の範囲について、いわゆる課題解決型の提案営業は、業務遂行の手段や時間配分等の裁量を委ねることで、さらなる生産性の向上や多様な働き方の実現につなげることができるのではないか。
2点目は、現行法では企画業務型と専門業務型に少し手続面で差があり、運用の煩雑さがある。
3点目は、一般的に、在宅勤務・テレワーク環境下においては出社時と比べて厳密な労働時間管理が難しく、それが長時間労働を招くことも懸念されているため、その中で、労働状況の把握や健康管理措置等について、労使でしっかりと議論し、適確・厳格に運用することが重要と考えている。
2 B社(その他金融業/従業員数 約3000名/裁量労働制適用者の割合:全体の約1%(専門業務型:2割、企画業務型:8割))
・適切に本人の裁量の有無を確認する観点から、制度適用の入口は厳しく運用している。まず、人事部から対象部署の部長に適用候補者リストを送り、適用候補者本人と部長で話をした上で、本人が裁量労働制の適用を希望する場合は、本人の業務内容や上司の指示の有無・程度について、本人と上司の認識が合っていれば、部長から人事部に適用の申請をする。人事部でも問題無しとの確認ができれば、適用を承認し、適用者を確定するというステップにしている。また、適用開始以降も、問題があれば適用を解除する可能性があることを明らかにしている。
・裁量労働制の在り方としては、固定的なルールで縛るよりは、基本的な考え方を示した上で、各現場で判断できる仕組みにしていただけるとありがたい。国から、制度の運営に対する基本的な考え方(導入企業が基本的に守るべき方針・ポリシー)のほか、実際の労災事案や、企業活動・働き方の変化を踏まえた留意点について、定期的に情報発信をしていただけると、労使お互いに業務状況や環境の変化にマッチした働き方を追求できるのではないかと考える。
労働組合から裁量労働制ヒアリング
労働組合からのヒアリング(2021年10月15日)抜粋
1 A組合(製造業等の組合が加盟する産別労働組合/組合員数20万名以上)
・裁量労働制に対する意見について、まず、企業への要望としては、導入目的や対象業務、対象者の条件等を労使が納得する形で制度を導入したうえで、導入後も制度趣旨に沿って適切に運用されることが重要だと考える。
制度への要望としては、制度趣旨に沿った運用の徹底のため、監督指導の強化や労使委員会が機能するための措置のほか、勤務間インターバルや深夜労働時間の回数制限等の選択的措置の義務付けが挙げられる。なお、労使委員会に関しては、労働組合が無い場合や、あっても中堅・中小労組など知識や交渉力も無い場合に、本当に労使委員会が機能するかは課題だと考える。
○裁量労働制の課題としては、適用労働者は長時間労働の傾向にあること、長時間労働等の結果として裁量がある働き方が出来ていない場合もあること、この2点をしっかり改善していくことが重要。裁量労働制は否定しないが、これらが改善されない状況では、安易に適用者を拡大すべきではない。
2 B組合(情報通信業の労働組合/所属企業の従業員10,000名以上(裁量労働制適用者の割合:全体の約2%(専門業務型:約7割、企画業務型:約3割))
○裁量労働制に対する意見として、まず、企業に対する要望としては、業務量の適正化、組織改編時に適用業務を適切に見極めるための相応の時間を準備すること、管理職を含め全ての労働者の制度理解等を継続的に行うこと、また、前述のとおり、みなし労働にせざるを得ない背景・理由を明確にすること等である。現在、労使間でコアなしフレックス制度の導入を協議中だが、この制度下で自己裁量を発揮し自律的に働けるようになった際には、みなし労働をやめることも考えられ得る。
制度に対する要望としては、曖昧さによる誤認や拡大解釈が生じないよう、対象業務の精査や明確化を図るべきである。
○テレワークについての問題点・改善点としては、特に3点ある。1点目は、自宅勤務を想定した住環境を準備していない労働者がおり、公私の境界が曖昧になっていること。
2点目は、自宅ネットワーク環境により、PC上の画面に顔を出さない場合、表情や反応が読み取れない結果、コミュニケーション不足となり、こうした積み重ねが心身の不調にもつながっていること。3点目は、在宅勤務が続いて運動不足などにより生活習慣病への懸念が高まっていること。こうした点に労使間で注力する必要があると考えている。
企業から裁量労働制ヒアリング(2)
企業からのヒアリング(2021年11月11日)抜粋
1 C社(電気機械器具製造業/従業員数 約3,000名/裁量労働制適用者の割合:全体の約50%(専門業務型:約3割、企画業務型:約7割))
・労働時間制度への意見としては、現状、時間という概念が根強く残る現行の労基法に縛られて働かざるを得ず、グローバルで事業展開している中でも、36協定の対象の時間管理されている労働者は、夜中の海外とのビジネスに携わりづらいことから、時間管理をもう少し柔軟にし、成果という形で考えるようにしてほしい。激化する海外企業との競争において、日本の労働者のみ労働時間に関する様々な制約が課せられることで、国内企業の競争力が低下することを大変危惧している。
・高度プロフェッショナル制度も導入しているが、この対象者は、非常に専門性が高く、より柔軟で研究者的な働き方が適し、高額な報酬を会社としても提供したいという特別な社員に限定し、役割等級制度とは異なる別個の人事制度を作った上で、約1年前から運用している。但し、裁量労働制と比較して、高度プロフェッショナル制度が、本当に有効なのかどうかについては引き続き検証していく。
2 D社(電気機械器具製造業/従業員数 約30,000名/裁量労働制適用者の割合:全体の約17%)
労働者から裁量労働制ヒアリング
労働者からのヒアリング(2021年11月29日)
*労働者からのヒアリングについては<関連記事>として紹介しているnote(ノート)の記事に記載しているので、ここでは省略。
<関連記事>