縦横無尽に暴れまわっていた。
突風が、ケヤキの並木をいた
ぶるように吹き抜け、そのた
びに、枝は前後左右に大きく
揺れながら、無数の枯れ葉を
舞い散らせ、
同時に、
路上の落ち葉を舞い上がらせ
ていた。
嘘だって言って欲しかった。
今こそ、上手に嘘をついて
欲しかった。
感じのいい和食の店で、その人と
彼女は、お酒を飲んでいた。つきだ
しに出てきた白和えが、とてもおい
しかった。「白和えかあ、懐かしいな
あ。昔おふくろが、よく作ってくれ
たっけ」「あ、好きなんだ。じゃあ、
いつか私が作ってあげる」「ホント?
そんなこと言うと、マジで期待しち
ゃうよ」「ほんと、ほんと。約束する」
その後、結構いろんなものを彼の
ために作ったのだが、なぜか白和え
は、登場のチャンスがなかった。
理由はたぶん、彼女の得意とするメ
インディッシュが、ほとんど洋モノ
だからだろう。
白和えとビーフシチュウー、という
わけにもいかない。それに、会話の
要点(?)は、「いつか私が作って
あげる」ということであって、彼も
ことさら、白和えに期待をしている
わけではない。
ところが、その恋愛が終わってし
まった日(話の展開が早くてスミマ
セン)、彼女は唐突に、白和えのこと
を思い出した。あの約束はどうなる
のだろう・・・・。別れちゃったん
だから、そんなのもう反故(ほご)
だよね。でも、約束は約束だし。
彼だって、どこかでまた白和えを
食べたりしたりしたら、思い出すかも。
—他にいくらでも考えなくてはな
らないことがあるのに、人間とは
おかしなものだ。
なんでこんなときに白和えにこだ
わっているのだろう・・・・
彼と自分をつなぐほとんど唯一の
ものとなり、また、おそらく永遠
に果たされないものでもあるだろ
う。それゆえ彼女は、とらわれて
いたのだ。その気になれば今日に
でも実行できそうなささやかな約
束。けれどそれが、永遠にありえ
ない二人の距離。
でもだからこそ、永遠に有効な
約束。果たされてしまったら約束
は消えてしまうものなのだから。
返し忘れたCDや本なども、
似ているかもしれない。
歌の「約束」は、もう少し重たい
雰囲気だが、それぞれの事情を込
めて受け取ることも許される。
そして結句の「いつくしみをり」
これ以上近づくことはない悲し
みを、これ以上離れることはない
喜びとして、せつなく「距離」
を見つめている。