序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

プレーバック劇団芝居屋第40回公演「立飲み横丁物語」NO8

2022-12-01 19:42:36 | 演出家
さて、昨日の続きでございます。
大親分に褒められいい気持ちになった新参の金吾。
先輩の新司がカチンとくる口を叩きます。

金吾 「でも、組に入れてもらってから的屋の仕事が全然なくて拍子抜けですよ」


新司 「・・・姐さん甘やかしちゃ駄目ですよ。おい、金吾。オメエ、組に入ってどのくらいだ」
金吾 「えっ、ああ、三か月ですかね。それが何か」
新司 「そんな右も左もわからねえ奴がすぐ仕事ができる程的屋の仕事は甘くねえんだぞ」


的屋になろうなんて若いのは、まあ、世間じゃ暴れん坊ですよ。
先輩の言葉だから素直に聞くなんて気持ちはさらさら持ち合わせはありません。

金吾 「・・それを言うんだったら、兄さんだって凛子の姐さんのところに入って一年とちょっとじゃないですか」
新司 「なんだと、コノヤロウ。こちとらコロナの最中の一年半に姐さんから的屋のイロハを叩き込まれてるんだ。何も知らねえで生意気な口利くんじゃねえ」
金吾 「俺がどんな口利いたってんだよ」
新司 「テメエ!」
金吾 「何だこの野郎」


こうなりゃ無事で済む訳がありません、二人には凛子と大輔からの説教が待ってます。

凛子 「あんたら、いい加減にしなよ。同じ組内の者が詰まらないことでいがみ合ってどうすんだよ」
新司 「けど、この野郎が・・」
凛子 「新司。こうしてる事があたしに恥をかかしてるとは思わないのかい」
新司 「エッ・・・そうなんですか」
凛子 「新司、あたし達的屋は暴力団じゃないんだ。こんな下らないことで一々いきり立ってたら、的屋の役目は果たせないんだ。いいかい祭りを無事に収めるのが的屋の役目なんだよ。お客さんに楽しんでもらうために我慢が必要なんだよ。覚えておくんだね。今度の祭りの庭場の親分は三代目瀬村組村山健三親分なんだ。あたし達はどんなことがあっても親分の顔に泥を塗るまねだけは絶対にしちゃいけないんだよ。分かったかい」
新司 「すいませんでした」
凛子 「金吾、的屋の世界はね、組に入ったらみんな親分の子だ。兄弟なんだよ。兄弟げんかならいくらでもおやり。でも敵同士になっちゃダメだ。分かるね」
金吾 「ハイ」


自分の立場を懇々と諭された二人はこれで本当の的屋仲間になったと言えるでしょう。
そんな所へ日日江南新聞の記者の瑠香が緊張の面持ちで現れます。

凛子「ここに座って」
瑠香 「(緊張)ハイ」
凛子 「そんなに緊張しなくていいよ」
瑠香 「ええ。・・・でも無理ですよ」
凛子 「そりゃそうだね」


緊張するなという方が無理な話でね、なにしろ一般人からしたら的屋は怖い世界とのつながりを連想させる
世界ですからね。

健三 「(低い声で)お待たせしました。初めまして港北露天商組合長の三代目瀬村組組長村山健三です」
瑠香 「(名刺を出し)ワタクシ、日日江南新聞文化部の小杉瑠香と申します。本日はよろしくお願いします」
健三 「こちらこそよろしく」
由紀 「わたし、健三の家内の由紀ともうします。本日はよろしく」
瑠香 「こちらこそよろしくお願いいたします」


緊張の挨拶が終わった瑠香、いよいよコロナ禍での的屋の生活を取材です、がその前にしなければならない事を思い出します。

瑠香 「あのう、すいません・・」
健三 「何だい?」
瑠香 「偶然、瀬村組の皆さんがお揃いなのでお願いがあるんですが・・・」
健三 「言ってみなさい」
瑠香 「ハイ。みなさん、お揃いの写真を一枚お願いできればと思うんですけど。如何でしょう」
健三 「ああ、構わないよな」
大輔 「ええ、それは」
瑠香 「そうですか。それじゃお願いします」


皆の笑顔にようやく緊張がほぐれた瑠香、本格的な取材に取り掛かります。

瑠香 「では、先ず初めに港北露天商組合長の瀬村組の歴史の紹介からお願いいたします」
健三 「あっ、そう。ねえ、あんた等に瀬村組っていうのはどんな風に映っているのかね」
瑠香 「あの、暴力団とは関係のない真っ当な的屋を目指している伝統のある組だと聞いておりますが」
健三 「うん、その通り。あたしが継いだ瀬村組っていうのはね、昭和二十四年に瀬村誠二郎親分が戦前から続いていたヤクザとのつながりを断ち切って真っ当な露店商人としても商売を始めたのが始まりでね。初代の人望っていうのかな、その人柄に惚れて的屋を志す者が集まって、今の港北露天商組合ができたんだ。その初代の誠二郎親分の娘さんが瀬村の幾久さん、つまり立飲み横丁の幾久松の女将さんさ。初代が引退して幾久姐さんと一緒になって二代目瀬村組を継いだのが瀬村達夫親分、つまり俺の直の親分さ。その親分が十年前に亡くなって俺が三代目瀬村組を継いだって訳だ」
瑠香 「ああ、幾久松の女将さんに話を通すっていうのはそういう事だったんですね」
健三 「幾久松の女将さんは俺にとっちゃあ終生姐さんなんだ」


瑠香 「成程、有難うございました。次にコロナ禍の三年間の的屋さんへの影響をお聞きしたいんですが」
健三 「そりゃ、大変さ。いや、大変な三年間だったね。あたし達露天商の職場は祭りや縁日みたいに人が集まってくれる場所だからね。人が集まらないと商売にならないのさ。コロナの間祭りも縁日も出来なくなった訳だからあたし達の職場が無くなってしまった訳だよ。平場で露店やっても誰も寄り付かないし、なにしろ人が集まっちゃダメっていうお上からのお達しだからどうすることも出来なくてね・・・」
瑠香 「ご苦労なさったんですね。その後組合の方は如何ですか」
健三 「的屋商売はもともと年中できる商売じゃないんでね、それぞれ露店の他に副業と言うか仕事を持ってるんだが、本業の方が出来なくなって副業が本業みたいになっちまったもんで廃業する人間が増えてね。今はコロナ前の四分の一になっちまった」


瑠香 「それじゃ、6月の例祭は大変なんじゃないですか」
健三 「まあ、残ったものだけでしっかりやるよ。そうじゃないと祭りを楽しみにしているお客さんに失礼だからね。あたし達的屋は祭りの盛り上げ役だって自負でやってられんのさ。
なんせ、見栄っ張りだからね、みんな(笑い)」


瑠香の取材はうまくいったようです。

第三場終了。
第四場へ続く。

撮影 鈴木淳


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