「再生可能エネルギーによる地域づくり~ 自立・共生社会への転換の道行」という本を2018年1月31日に上梓しました。以下に同書の「はじめに」の部分を抜粋して、ご案内とします。
書籍は、アマゾン、一部大手書店、環境新聞社より、お求めになれます。
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「中央資本による再生可能エネルギー事業では地域に何も残らない。自分達でやらないと意味がない」。これが、全国各地の再生可能エネルギー事業家たちのインタビューで、繰り返し聞いた声である。
再生可能エネルギーで発電した電気を高く買取る国の制度(FIT:固定価格買取制度)により、中央の大資本が大規模メガソーラーの用地を求め、黒船のごとく、地域に迫ってきた。それを受け入れるだけに終わっている地域もあれば、それを反面教師とする気づきを得た市民や地域行政が立ち上がり、地域・市民主導の再生可能エネルギーによる地域づくりが動きだした地域もある。
もっとも地域外の資本だから地域資源を搾取するということではない。本書で取り上げる秋田県にかほ市にように、神奈川の生協の風車設置をきっかけに、地域特産品の産直提携が始まったケースもある。地域の主体が再生可能エネルギー事業による設置後も主体的に関わることができるかどうか、そこに再生可能エネルギーによる地域づくりの鍵がある。
本書では、地域・市民主導の動きを見せている日本国内の8地域の訪問調査を中心に、再生可能エネルギーによる地域づくりの経緯と到達点を共有し、学ぶべき点や今後のあり方への提案をまとめたものである。調査は主に2015年度と2016年度の2年間に実施し、各地域を2回以上訪問し、総勢96 名の方々にインタビューをさせていただいた。
再生可能エネルギーを自分達の道具として手にし、発電や熱供給事業を始めた地域は、大きな経験と学びを得ており、これまでの社会を代替する新たな社会への転換の礎をつくっている。これが各地域を知ることから得た実感である。
一方で、各地域の再生可能エネルギーへの取組みは、ニッチなイノベーション(小さな変化)に過ぎない。例をあげれば、長野県飯田市のおひさま進歩エネルギーは市民共同発電所を約350ヶ所も設置しているが、それによる二酸化炭素の排出削減量は市域全体の排出量の1%に満たない。また、同市では、条例により地域自治組織が主体となって地区活動の拠点施設の屋根上に市民共同発電所を設置するという意欲的な取組みを進めているが、それによって地域自治組織が得るお金は1地区10万円にもならない。
このような小さな取組みの積み重ねは、量的な効果をもたらさないから意味がないと言うだろうか。答えは「否!」である。小さな取組みが地域全体のアイデンティティを高め、帰属する住民の意識を高め、地域内に波及していることに目を向けなければならない。
そして、ニッチなイノベーションが地域内に普及し、他の主体に広がり、他の動きを触発し、他の地域との水平方向のつながりを強めるとき、ボトムアップでの大きな社会転換が始まる。国が温室効果ガスの排出削減の目標を決め、それを地域や事業者が分担するというトップダウンの取組みが地域の主体的な動きをひきださずに行き詰まりを示しているなか、ボトムアップによる社会転換の動きが強く求められている。
本書は、地域における再生可能エネルギーへの取組みの過去や現在を共有するととともに、ボトムアップによる社会転換への道行(みちゆき)をデザインする未来志向の指南書を目指している。太陽光発電のFITによる買取価格が下げられ、事業採算性が低くなることで、新規申請ブームともいうべき状況は沈静化しつつある。地域の関係者が、立ち止まって、現状を評価し、今後の方向性を再構築すべき段階になっている今、本書が今後を考える視点の提起、検討のたたき台となればと願っている。