にかほ市における生活クラブ生協(以下、生協)の風車を契機にした生産地・消費地の関係形成の経緯を紹介した。今回は、生協の風車に対する地域の側の動きと地元企業の事業をとりあげる。
●生協の風車の受け入れと地区からの提案
風車の立地の経緯を、風車が立地した芹田地区の側から記す。風車が設置された芹田地区は63世帯、高齢化率は43%である。昔からある地域として、共有地といった形で共有の財産を持っている。生協が建てた風車も海沿いの共有地である。昔は牛や馬のための草地だったが、今は牛や馬もいないので、ほとんど使われていない。集落のはずれにあり、周りは田んぼや畑になっている。
芹田地区の会長の荒川定敏氏(当時は会計担当)は、生協、市民風車の会秋田(以下、市民風車)の方々とお会いして、風車を建設したいという話を聞いた。「最初はお付き合いして話ぐらいは聞こうかという感じだった」と荒川氏はいう。自治会で所有している土地に建てたいと聞き、説明を聞いたが、その時は返答をしなかった。その後に東日本震災があり、さらに別の民間企業(ワタミ㈱)がこの地区は風が良いと説明に来て、急に風車を建てる話が進み、風車の受け入れをつながった。
風車の建設受け入れについて、騒音、電磁波、水田にかかる風車の影等の環境影響も危惧された。風車の建設是非を議論した2011年の自治会の臨時総会では、環境影響への危惧について、騒音は距離的に問題なく、シミュレーションで影響評価を行っているという説明を受けて納得した。臨時総会の場で採決をとり、反対なしで受け入れOKとなった。自治会としては、「初めてのことなので、先々のことは分からないが、とりあえずやってみよう」ということであった。
芹田地区は、生活クラブがどういう団体なのかよくわかっていなかったが、生協が夢風という愛称を募集する頃から、芹田地区の役員の人が交流を意識し始めてきた。生協は地域と交流を持つような組織なのだとわかり始めたのである。荒川氏は、生活クラブ生協が山形県遊佐町の米を提携で扱い、地域間交流を行っていることをテレビで知っており、農業のチャンスだと思っていた。芹田地区はお米しか生産していないので、その扱いを生協と相談した。会うたびにお願いしていた。そして、加工用のトマトやらないかという話になった。
芹田地区は、山間部にも財産区を持っている。その土地は採石場があったが放置された状態にあり、またゴルフ場もあったが練習場だけ残っていた状態であった。そこに、岡山のメーカーが東北最大規模のメガソーラーを設置した。賃料は、海の風車は60万円程度、山のメガソーラーは数百万円である。これらの賃料収入があり、2015年に自治会館を新築した時に、ソーラーパネルをつけてオール電化にして、最終的には発電と消費がプラスマイナスゼロになるようにしている。もともと蓄えていた資金と、風車やメガソーラーの賃貸料で資金をまかなっている。非常用電源として太陽光発電を使え、発電機も備えている。
●地元企業による事業創出の動き
地元事業者もまた、風車やメガソーラー事業に参入してきた。そのうち、地場の建設業者である三共㈱の動きを紹介する。
同社は、FITが開始され、再生可能エネルギーの事業可能性を検討した。にかほ市は製造業が中心だったが、当時は不況もあって、工場の閉鎖が起きていた。それらの跡地の活用に注目したのである。同社のメガソーラーの建設場所は、市内のある地区の共有地で、地区から提案があって、条件を話し合い、スムーズに合意に至った。採石場の跡地で放置された土地で、工事用の大規模な設備も残されていた。それを撤去し、有効活用を行うという条件であった。集落側からしたら、(土地代を得たいというよりも)採石場跡地の設備を撤去してほしいという要望が強かった。
同社はさらに、自社のメガソーラー事業により、ソーラー工事のノウハウを得たので、それを活かして他の業者との連携を検討している。また、風力のメンテナンス事業を開始した。電源開発が仁賀保高原に風車を建てたときに、勉強も兼ねて数名ほど派遣しており、そのノウハウを活用すべく、子会社を設立した。今後は、技術者の確保と育成を図り、海外の技術も取り入れるよう努め、争力を高めていく考えである。
この他、にかほ市内では、自動車燃料やLPガス等のエネルギーを扱う事業者が風車を設置し、中古車の買い取り・販売業務を行っている事業者がメガソーラーを設置した。また、瓦の製造から施工までを行う会社が家屋の屋根に太陽光パネルの設置事業、小型風力発電の施工も手掛けるなど、地元事業者が再生可能エネルギー事業に新たな活路を模索している。