前回までに、湖南市において、2013年に障がい者の作業場の屋根上(初号機)、地元運送会社の倉庫上(弐号機)に、市民共同発電所が設置されたことを記した。今回は、新たに設置された市民共同発電所(参号機と四号機)や地域電力会社の設立の動きを紹介し、最期に湖南市における取組の全体像をまとめる。
●公共施設に設置された参号機と四号機
十二坊温泉ゆららに設置された参号機16.3kWと、柑子袋まちづくりセンターに設置された四号機23.6kWが、2016年3月から稼働を始めた。この2つの事業には、4つの特徴がある。
第1に、湖南市の市民共同発電は民間事業者の施設での設置が先行したが、これらは公共施設の屋根上に設置された。公共施設の屋根上で利用の調整に時間がかかったためである。市内の公共施設は数多くあるが、建物の耐用年数や集客性がある建物への設置による波及性を考えて、この2か所が選定された。
第2に、資金や設備の調達において、湖南市の主体を重視し、「オール湖南」の方針で設置された。初号機と弐号機における資金調達は、地域外の信託会社に委託する方式(信託方式)であったが、これらは、地元の信用金庫と連携して、匿名組合方式とした。匿名組合方式にすれば、外部への委託に頼らず、地元主導性が高まる。太陽光パネルは国産2社のものとし、もちろん設置は市内事業者によるものとした。なお、配当はこれまでと同様に、地域商品券で行っている。
第3に、匿名組合方式では出資者は50者までという制限があるため、不特定多数の参加を得ることが必要であるとして、出資に加えて、1口1万円の寄付参加(250口)も募集した。寄付参加者には、ふるさと納税と同じように、地域の特産品(近江牛の味噌漬、近江漬物、こだわり卵、スイーツから選べる)を3年間、届ける。
第4に、地域密着型の市民共同発電所として、災害時の非常用電源としても使えるようにするなど、防災施設としての役割にも配慮している。
●電力の地産地消を担う地域新電力会社
2016年5月には、官民連携による地域新電力会社「こなんウルトラパワー株式会社」が設立された。10月から電力供給を開始している。同事業は、2015年に、経済産業省の「地産地消型再生可能エネルギー面的利用等推進事業」の採択をうけ、湖南市におけるスマートエネルギーシステム構想の一環として検討された。そこに、民間コンサルタントの関連会社から、地域新電力会社の事業化の提案があり、実現に至る。電力調達や需給管理は同社のノウハウを活用するとしても、新しい事業への行政や地域内の合意を如何に得ていくかが課題となる。この調整を担ったのが、地域エネルギー課の池本未和氏である。同氏は、地元の再エネを集め、行政で消費するという計画を、市長に説明し、理解を得た。次いで、議員、庁内幹部に説明を行った。この際、地域新電力をつくり、そこから行政施設での電力を調達すれば、一定の電気代削減になること等を説明し、財政課からも理解を得ることができたという。
地域新電力会社への出資は、市が330万円、民間コンサルタント320万円、5社×40万円、商工会50万円、合計900万円である。地元銀行の出資も得たが、5%ルールがあり、40万円の出資である。今年10月から公共施設へ電力供給を開始し、約1,000万円(平均11%)の電気料金の削減となった。
電力調達は、市内の市民共同発電168kW、市内太陽光発電1800kW、残りが卸市場、常時バックアップで、合計3800kWになる。電力供給は、公共施設3300kWと民間施設が500Kwからスタートし、段階的に民間企業、さらには一般家庭への販売も増やしていくという計画である。将来的には、省エネ・節電サービス、災害時の避難所の電源確保なども考えられている。出資会社の中には、太陽光発電の設置事業者、商工会等があるが、今後の電源調達や需要開拓を行う上での連携が必須となると考え、参加を得ている。
●湖南市における取組のスピード感と巻込み力
前々回、前回と紹介した湖南市の取組みを表にまとめた。第3段階のところに記しているように、観光客を集める伝統的な地区にも小規模ながら太陽光発電所を導入したり、歴史がある工業団地内で排熱融通の計画を進めていたりと、湖南市の再生可能エネルギーに係る取組みは多様化している。
福祉の町の再生可能エネルギーへの取組は、福祉、地区活動、工業団地、商工会等と接合することで多くの主体を巻き込みながら、走り出している。そして、地域外の専門家や他地域の先進事例、専門コンサルタント等と接合することで、外部の専門知識を上手く活用している。
池本氏に、「スピード感があり過ぎて、地域住民が置いてけぼりになっていませんか」と質問したところ、「地域の認知や信用を高めるためにも、行政が率先し、今後に展開を広げるうえで必要となる関係者に参加してもらうようにしている。」と答えてくれた。地域にあるものをいかし、できるところから段階的に広げていく取組みに、今後も注目したい。