「サステイナブル地域論~地域産業・社会のイノベーションを目指して」(2015年9月、中央経済)について
本書は、法政大学の樋口一清先生と元同僚の新見友紀子氏との共著である。樋口先生が地域経済、私がどちらかというと地域社会の側面を分担して執筆した。新見氏には、移住に関する論をまとめていただいた。
私の分担分では、(1)長野県飯田市住民の環境配慮に関する調査と、(2)持続可能な地域づくりのチェックリスト開発と試行に関する研究の成果をまとめた。
(1)では、国内トップクラスの環境先進都市と評される飯田市の住民の環境配慮の実態を明らかにするとともに、それと飯田市の環境政策あるいは地区活動との関連を探るために実施した2009年に実施した住民アンケート調査(発送数:1,500件、回収数793件、回収率52. 9%)データの解析と関係主体へのインタビュー調査の結果をとりまとめた(査読付論文3本を編纂した)。
研究の結果、飯田市住民は総じて、環境配慮行動の実施度が高いが、若年世代は全国平均と同等であり、高年齢層において飯田市が大きく上回る。この理由は、飯田市の高年齢層は飯田市で実施されてきた環境施策等の影響をより強く受けているとともに、結合型社会関係資資本に強く接続しているためであることを、パス解析等により明らかにした。
さらに、結合型社会関係資本が環境配慮行動の高さを規定する要因を解釈するために、飯田市の地区公民館活動の実態を調査し、環境をテーマにした活動はそれほど活発ではないことを確認した。結合型社会関係資本への接続度の高さが環境配慮度を規定する理由は、結合型社会関係資本への接続による行政からの環境情報に接触する機会の多さ、結合型社会関係資本に強く接続する主体の社会的責任意識の高さ等である可能性が示された。
また、飯田市において300を超える市民共同発電を設置しているおひさま進歩が地域住民に与えている影響の分析を行った。おひさま進歩は、20歳代を除き、男女を問わずに幅広い年代の世代に認知され、影響を与えていること、さらにおひさま進歩は温暖化防止行動及び太陽光発電の評価を高めることで、間接的に住宅用太陽光発電の設置意向を高めている、ことを共分散解析等により定量的に明らかにした。
(2)では、科研費を得て、実施した研究の成果である3本の査読付論文の成果を編纂した。持続可能な地域づくりの3つの規範(「他者への配慮」、「多様なリスクへの備え」、「主体の活力」)と6つの評価領域(環境、経済、社会、環境×経済、経済×社会、社会×環境)を枠組みとして、地域住民が地域を診断するチェックリストを作成し、全国WEBモニター調査(2012年、1,000サンプル)による絞り込みを行い、最終的に45項目のチェックリストとした。
全国WEBモニター調査のデータによる分析では、①人口規模が大きな都市では「地域の持続可能性」に関する変数値が有為に高い傾向にあり、規模が小さい都市あるいは町村で変数値が有為に低い傾向にあること、②「住民の幸福度」は「地域の持続可能性」とともに「住民の地域への関与度」に規定されること、③「住民の幸福度」の規定構造は地域の人口規模や住民の基本属性によって異なることを明らかにした。
また、開発したチェックリストを用いて、山形県朝日町の集落(4地区)、静岡県浜松市の山間2集落において、住民による地域点検を実施した。同地区ともに、チェックリストの集計結果を回答した地域住民に報告して、ワークショップまでを行い、チェックリストの回答結果の解釈や今後の集落のあり方の話し合いまでを行った。この結果、総じて集落機能の低下傾向にあるが、地区毎の機能分担や地区毎の特徴を踏まえた集落整備を行うことが望まれる等の結論を導出することができた。集落単位での統計データの整備が不十分であるなか、チェックリストを用いた地域点検が有用である。