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地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

再生可能エネルギーと地域再生:環境新聞連載1回目

2016年05月08日 | 再生可能エネルギーによる地域づくり

 【環境新聞連載:「再生可能エネルギーと地域再生」より、1回目:再生可能エネルギーが地域にもたらしたもの(4月13日号掲載)】

 

 2012年7月に導入された固定価格買取制度(FIT)により、再生可能エネルギーの普及は飛躍的に進んできた。特に、非住宅用の太陽光発電設備の設置が極めて短期間に拡大している。しかし、大規模な太陽光発電所の用地は主に地方部に求められたが、必ずしも地域が諸手をあげて歓迎したわけではない。

 

 例えば、新聞記事検索からメガソーラーによるトラブルを分析した調査では、トラブルの内容は景観や防災、生活環境、自然保護等、地域では長野、大分、山梨、兵庫等が多いことが示されている(環境エネルギー政策研究所の山下紀明研究の調査より)。

 

 顕在化したトラブルだけではない。大規模な発電設備は地球温暖化防止や脱化石燃料という大義名分を持つものの、地域にもたらす恩恵が大きくない。地域外の資本による整備は売電収入による経済効果を地域にもたらさない。地域で生産されていない設備の導入は地域企業の活性化に波及しない。住民の関与なく設置される施設は、設備自体が無機質であるだけに、親密感をもたらさない。地域にとっては、“ないないづくし”となってしまう。

 

 こうした問題を察知し、地域の企業や住民が主導して、再生可能エネルギーを活用することを重視する動きが出てきた。地域資源としての再生可能エネルギーを地域主導で利用する理念や仕組みを定める条例を制定した地域もある。2012年9月に滋賀県湖南市で策定された「自然エネルギー基本条例」は、前文にも理念を解説し、地域経済の循環に貢献できるような再生可能エネルギーの活用を強調する日本初の条例となった。

 

 さらに、東日本大震災での原発事故や計画停電を経験したこともあり、市民は自分達で発電所を設立・運営する形を求め、市民出資で資金調達を行う市民共同発電が全国各地で設立されてきた。市民同発電所は2015年度末までの累計で800基以上になり、2012年度末時点から倍増したと報告されている(気候ネットワークの豊田陽介氏の調査より)。

 

 そして現在、状況は変わりつつある。FITによる買取価格の低下である。10kW以上の太陽光発電の売電価格は2012年度に40円であったが、36円、32円、29円と毎年低下し、2016年度は24円となる。大規模な再生可能エネルギー事業により大きな利益を求めるFIT時代は終わり、ポストFIT時代のビジネスモデルを求められる段階になったといわれる。

 

 一方、この4月から導入された小売電力完全自由化は、発電だけではなく、電力供給も担う事業の可能性を地域にもたらしている。蓄電池と組みあわせた電力の需給制御と見える化、情報通信を使った高齢者支援サービスの提供を行うスマートシティ化も描かれつつある。既に、福岡県みやま市など、地方自治体が主導する売電まで行う電力会社の設立もみられる。

 

 本連載では、FIT時代の先進地域では、地域主導の再生可能エネルギー事業にどのように主体的に取組み、どのような成果をあげてきたのかをとりあげる。そして、ポストFIT時代における再生可能エネルギーを通じた地域再生を模索する動きを紹介していきたい。

 

 ポストFIT時代の地域での取組において重要なことは、制度変化に合わせて何をするのかではなく、そもそも再生可能エネルギーを通じてどのような地域を目指したいのかという目標の設定である。目指すべき地域社会の目標は、従来の地域づくりの規範を維持し、既存の社会経済システムの延命を図ることでいいのだろうか。再生可能エネルギーを通じ、地域社会を変革し、新たな時代を拓いていく創造性が必要なのではないだろうか。価値規範の在り方も含めて、本連載で考えていきたい。

 

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