2015年度より、再生可能エネルギーの導入による地域社会の構造的再生(変革)の目標として、5つの目標側面を設定し、全国8か所の先進地域でのアクターへのインタビュー調査を行ってきた。これにより、5つの目標側面に対応する具体的な取組を抽出し、5つの目標側面を実現するアジェンダを具体化した。
現段階でまとめている5つの目標側面での、合計15のアジェンダを示す(今後、さらに改訂する可能性あり)。
8か所の先進地域は、長野県飯田市、滋賀県湖南市、長野県上田市、神奈川県小田原市、岡山県西粟倉村、岐阜県郡上市、秋田県にかほ市、福岡県みやま市である。各地域ともに2回以上訪問し、再生可能エネルギー事業に係るできるだけ多くのアクターを調査することで、各地域の全体像を把握するようにした。
5つの目標側面の設定は、下記参照のこと。
http://blog.goo.ne.jp/shirai01/e/f361a9b4d649010df0120c03a8f24c1e
以下、5つの目標側面毎のアジェンダ *******
(1) エネルギー自治
(1-1) 目指す社会の姿や理念を共有する
■ 地域資源としての再生可能エネルギーを地域住民が主体となって活用し、地域経済の発展に活かす等といった理念を条例に示し、関係主体での取組み方向を共有する。
■ 条例でなくても、地域ぐるみの構想や計画において、再生可能エネルギーの位置づけやそれを活かす方向性を明確にする。
■ こうした条例や計画の策定においては、再生可能エネルギーの望ましくない活用や地域の衰退等に対する危機感を共有し、理念を検討する検討会や協議会等の場で検討し、作成した理念の正当性を高める工夫が必要となる。
(1-2) 事業を担う組織を形づくる
■ 中核的な実践組織は、市民出資等の方法で、できるだけ多くの主体の関与を得ながら事業を進めるとともに、地域の実践を積み重ねることでノウハウを蓄積し、他の主体との連携や支援等を行う組織となる。
■ 中核的な実践組織への出資には、地元銀行、地域の商工会、地域で実績があり信頼されている企業等の参加を得て、地域との信頼関係を高め、将来的な事業展開の拡張に活かすという戦略性を持つ。
■ 中核的な実践組織の設立において、過疎化が進む地域等では、地域一丸となるうえで全戸参加という方法もある。それを実現するためには、地域内での実績の積み重ねる。
■ 企画・調整・支援を行う組織については、地域行政内の担当課やコーディネイトの責任を持つ主体を事務局として、多くのステークホルダーが参加する場として設立・運営する。
■ 企画・調整・支援を行う組織では、専門的なアドバイスを行う組織や人材を確保すること、それによる“公共品質”を確保する。
(1-3) 包括的なエネルギー自治に取り組む
■ 発電(太陽光、小水力、風力等)、熱利用(太陽熱、木質バイオマス等)、輸送燃料としての利用(電気自動車等)といった再生可能エネルギーの多様な利用、さらには省エネルギーに包括的に取り組む。規模を拡大した事業体が複数の再生可能エネルギー事業を手掛ける場合と、異なる主体が各々に得意な事業を手掛ける場合がある。s
■ 地域で発電した電気を地域で販売する地域新電力会社(あるいはそれに相当する仕組み)をつくる。
(2) 対話とネットワーク
(2-1) 不特定多数が関心をもって参加し、さらに学習を継続する機会をつくる
■ 不特定多数の住民(あるいは事業所)に関心を持ってもらうように、再生可能エネルギー事業を通じて、住民(あるいは事業所)の関心に合わせた価値を創出する工夫を行う。
■ 地域内の様々な場所と様々な方法で、再生可能エネルギーに関する情報共有と学習の場を継続的に運営する。
(2-2) 異質な主体をつなぐ・巻き込む
■ 事業の中核的な実践組織の設立において、再生可能エネルギー事業を展開していくうえで、先々に関連するだろう地域の関係主体の参加を得る。
■ 発電、小売、電力需給マネジメントを行う企業の分担と連携により、エネルギーの地産地消を行う事業体をつくる。特に、電気工事や小売営業においては、関連する地元企業との事例連携を図る。
■ 地域自治組織が主体となり、専門的な再生可能エネルギー会社との協働により、地域主導の発電事業を実施する仕組みをつくる。
■ 異なる市民活動が形作ってきたネットワークの結合、若者や女性といった地域活動につながっていなかった主体の地域活動への接続、移住者同士の連携を促す。
■ 広域(隣接市町村どうし)、再生可能エネルギーに取り組む地域どうし、需要地である大都市との連携等といった地域を超えた関係を活かすことにより、事業の安定化や交流による波及効果の創出を図る。
(2-3) 「外の力」の持つ専門性を上手く活かしながら、「内の力」を高める
■ 地域で起業をしている企画力・プレゼン力・広報力等のある人材に参加してもらい、再生可能エネルギー事業の実践力とする。
■ 民間の専門コンサルタントに通ってもらいながら事業を進め、事業の実施・運営段階で地域に移住してもらうことで、「外の力」を「内の力」に取り込む。
■ 地域外の大学教授等を委員とする場を活用し、地域内では思っていても口に出さない、あるいは気づかないでいることを指摘してもらい、突破的となる取組みにつなげる。
(3) 地域経済の自立
(3-1) 地域内でお金をまわす
■ 国や県等の補助金を上手く活用しつつ、地域内の住民や企業、行政、地域銀行が出資し、リスクを共有するとともに、収益を地域内に還元する。
■ 固定価格買取制度による売電収入を原資として、地域内に再投資を行う。出資者への配当は、地域内で消費されるように地域商品券で還元する等の工夫を行う。
(3-2) コミュニティ・ビジネスを起こす
■ 市民共同発電事業、さらにはそのノウハウを活かした他地域の支援等を採算のとれる事業とすることで、専任人材の生計をたてる。ただし、市民共同発電事業の採算性の追求は本末転倒ともなるため、過度な採算性の追求は避ける。公益性のある部分に行政予算をつけたり、専任人材の生計を周囲がボランタリーに支援したりすることが重要である。
■ 地域企業が再生可能エネルギー事業に参入し、新規事業を開拓したり、工業団地共同で再生可能エネルギー事業に取り組む。
■ 再生可能エネルギーによる電気や熱の使用を付加価値としたり、それを契機として6次産業を展開する。特に、地域の特産品の生産用に地域の電気を使い、
■ 地域内で再生可能エネルギーに関する技術開発を行う。
(3-3) ボランタリーな交換・融通を活発化させる
■ 市場経済外での物や労働の交換として、地域通貨の活用やベンチャー間の相互融通を活発化させる。
(4) 公正、安全と環境共生
(4-1) 恵みを公平にわかちあい・地域の福祉に活かす
■ 売電収入や土地の賃料等を地域活動の資金とし、関係者で使いみちを考え、地域のために活用する。少額であっても、地域の主体が地域のために使えば、その使いみちを考えるプロセスも含めて、額面以上の価値をもたらす。
■ 再生可能エネルギー事業による効果を、廃校が危惧される小学校等の維持継承、衰退する商店街地域の維持・継承において重要な課題の解決につなげていく。
■ 障がい者や高齢者等の福祉(ウエルフェア)と再生可能エネルギーによる地域づくりの親和性があることを捉え、福祉目的での再生可能エネルギー事業を進める。
■ 高齢者の増加と人口減少、近隣関係の希薄化があいまって、地域福祉における互助力の向上が課題となるなか、再生可能エネルギー事業を通じてコミュニティの結びつきを強めるような付加的サービスを提供する。
(4-2) 非常時に使える電源・燃料とし、災害への抵抗力を高める
■ 再生可能エネルギーを防災時の拠点となる施設に整備し、非常時の電源や燃料として利用できるようにする。
■ 再生可能エネルギーの設置場所での防災教育活動を活発化させる。また、設置場所の余剰地を防災広場として整備し、活用する。
(4-3) 地域内の環境問題、地球規模の問題に貢献する
■ 再生可能エネルギーによる二酸化炭素排出削減効果(化石燃料の使用量削減、森林による二酸化炭素の吸収等を数字で把握・公開し、地域の温暖化防止対策として位置づけ、温暖化対策関連の国や県等の補助金等も活用する。
■ 再生可能エネルギーに伴う環境面でのマイナス影響について、影響評価と情報共有、関係者とのコミュニケーションを図るルールを地域でつくり、関係者の対話を促す。
(5) 主体の自立共生
(5-1) 小さな成功を積み重ね、地域に生きる手ごたえを高める
■ 地域資源を活かし、できることを成していく小さなアクションから始め、成功を積み重ねることで、自信をなくしがちであった地域住民の手ごたえと自信を高めていく。
(5-2) 関与を通じた歓びを共有し、より良き居場所をつくる
■ 地域の各主体がそれぞれに工夫して、再生可能エネルギーへの取組みを創出していくことで、地域資源と自分との関係、さらには取組みを通じた仲間との関係がつくられ、それぞれが充足感のある居場所をつくる。このために、発電事業に限らず、再生可能エネルギーに関する多様なプログラムが地域で展開されるようにする。
(5-3) 活動を通じて、一人ひとりが自分を見つめ、成長する
■ 再生可能エネルギーにより依存しない暮らしをつくること等について、考えながら地域で暮らし、活動に関わっていくことで、一人ひとりが人間として成長する。