地球温暖化対策計画(2016)において「環境・経済・社会の統合的発展」、さらに長期低炭素ビジョン(2017)においては「環境と経済社会の同時解決」という方針が強調された。脱炭素に向けた取組は、人口減少・低成長時代における社会経済問題を解決するチャンスとだと位置づけられている。
こうした統合的発展や同時解決という点を加味した脱炭素社会の方向性を表に示す。
表では、筆者が持続可能の規範として整理している4つの側面(社会・経済の活力、環境・資源への配慮、公正への配慮、リスクへの備え)に対応させて、赤字の部分の脱炭素を実現しつつ、他の規範を満たすように配慮するという考え方で、脱炭素社会の方向性を整理している。
ただし、この方向性においても、価値規範等が異なれば、目標とする具体的な社会像が一するとは限らない。従来の社会経済構造を脱炭素対策によって改善し、強化・延命するという「エコロジー的近代化」路線と諸問題の根本にある社会経済構造の転換を図る「ポストエコロジー的近代化」路線では目標となる社会像が異なる。
カーボンゼロさえ実現すればいいという考えるのではなく、価値規範の置き方によって異なる脱炭素社会の具体像を議論し、共有することが必要である。
特に、脱炭素社会の具体的な選択にあたっては、①再生可能エネルギー、CCS付火力発電、原子力発電といった低炭素電源の構成をどうするか、②社会経済システムの構造・ライフスタイルをどのように転換するのか(慣性の構造や様式をどのように変えるのか)、③経済の量的成長から質的成長への転換をどのように図るのかといった点について、さらに議論が必要である。