サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

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地方自治体における住宅用太陽光発電の設置補助金について

2011年11月05日 | 気候変動緩和・低炭素社会

1.太陽光発電の普及目標と地方自治体における設置補助金

 

温室効果ガスの排出削減等のため、自然エネルギーの利用、とりわけ太陽光発電の本格的な普及が進められている。国の太陽光発電の導入シナリオでは、2020年までに2005年比で約20倍の導入量(約530万戸)を目標としている。目標達成の手段として、国は、住宅用太陽光発電(以下、太陽光発電)の2006年以降に中断していた設置補助金を2009年に再開し、2010年秋からは余剰電力買取制度を開始した。

 

こうした国の動きと連動して、地方自治体における地域独自の設置補助金制度が全国各地で立ち上げられてきた。国の買取制度の設計においては、固定価格買取制度の買取額の決定に当たり、地方自治体の設置補助額も見込んだうえで、初期投資分の売電等による償却期間が10年になるように設計している。つまり、国の制度設計において、地方自治体の設置補助金は一定のウエイトを持って位置づけられている。

 

例えば、一般住宅では4kWのパネルを設置する場合、250万円程度の設置費用になる。それに対して国の補助金7万円/kW、地方自治体による補助金等4万円/kWとあわせて設置費用は200万になるとすれば、年間の電力消費削減と売電収入をあわせて20万円として、償却期間は10年となるという計算である。

 

この地方自治体の設置補助制度は、補助制度を実施しない地域があることはもとより、実施している地域においても補助額、予算総額、対象条件等において、地域差がある。これは、太陽光発電の普及目標の違い、地域特性の反映、予算制約の都合等の現れであると考えられる。

 

設置補助金制度について、インターネット上で公開されている平成22年度太陽光発電の補助金一覧を基にして、個別施策をホームページで検索し、補助金額や対象条件等の内容を整理した結果から、次のことがいえる。

 

1)補助金を実施している都道府県は29団体(全都道府県の61%)、補助金を実施している市区町村は全国で605団体(全市区町村の35%)である。市区町村補助金の人口カバー率(補助金を実施している市区町村の人口を全国人口で除した値)は68%となる

 

2)補助金の実施状況に地域差をみることができる。例えば、神奈川県は県が補助金を持ち、県内市町村の全ても補助金を持つ。これに対して、静岡県と愛知県では、県は補助金を持たないが、市町村の補助金の実施率が高い。大阪府、兵庫県、奈良県等では、府県が補助金を持たず、また市町村でも補助金の実施率が低い。九州地域では、市町村の補助金の実施率が総じて低い傾向にある。

 

3)各市区町村の補助金額をみると、3万円/kWが最も多く、次いで2万、5万、4万、7万円/kWが多くなっている。市区町村と都道府県の補助金は併用が可能であることが多いため、両者の補助金の合計額では2万円から7万円/kWの市区町村の比率は、補助金を有する市区町村の76%を占める。同合計額10万円/kW以上の市区町村は補助金を有する市区町村中13%となっている。

 

4)人口規模別の補助金の実施状況では、補助金の実施率は人口規模の大きな市区町村ほどに高く、同実施率は、人口30万人50万人未満で90%、50万人以上で94%となっている。これに対して、人口1万人未満では同実施率が11%となっている。

 

2.地方自治体における設置補助金の問題点

 

全国各地で導入されている太陽光発電の設置補助金であるが改善の余地が大きい。筆者が行った一部の地方自治体への聞き取りによれば、十分な制度設計の議論がなされずに、設置補助制度が導入されている場合も多いと考えられる。

 

例えば、ある地方自治体の職員から、太陽光発電の設置補助金の導入経緯等を聞いたことがある。その町では、地元議員の要望で補助金制度を導入した。地元議員は地元設置事業者の要望を受け、補助金制度の導入を要望してものである。そうした経緯もあって、市行政担当は設置補助金の活用にあまり熱心でなく、地元住民は町の補助金制度を知らない場合も多いという。

 

また、別の町から、太陽光発電の設置補助金をやっている市町村が増えてきているので、本市でも検討するように市長から言われ、他の市町村の状況を調査していると聞いた。もちろん、地元産業の要望を地域行政が施策に反映することは悪いことではなく、他市町村の施策状況を調査することも必要である。しかし、地域の補助金制度の導入にあたり、施策目標や最適な方法について議論が成されていない状況は多いと考えられる。

 

一方、補助金の支給における付帯条件をつけ、補助金の波及効果を高める工夫が行っているところもある。付帯条件としては、次のようなものがある。こうした付帯条件は、太陽光発電パネルの発電による二酸化炭素排出削減効果だけでなく、電力消費量の抑制(省エネルギー)効果、あるいは太陽光発電パネルの設置による地域経済への効果を狙うものである。

 

1)設置後にモニターとして、発電状況や電力消費量を報告してもらう。

 

2)省エネルギー設備と併用で太陽光発電を設置することを補助金支給の条件とする。

 

3)設置業者を限定する(地域内の設置事業者の設置あるいは製造設備に限定して補助する)。

 

4)エコポイントで補助額を支給し、その流通による地域経済活性化等の波及性を狙っている場合もある。

 

3.地方自治体における太陽光発電の設置補助金のあり方

 

地方自治体における太陽光発電の設置補助金は、パフォーマンスが非常により地域施策である。国の設置補助金と買取制度があるところに、地方自治体が設置補助金を上乗せすればいいのだから、上乗せ額当たりのパフォーマンスがいいのは当然である。

 

実際に、設置補助金に対する応募は予算額を上回り、予算を補正で追加する地域の多い。しかし、逆にいえば、それだけ申込みが多いならば、設置補助金はもはや不要であり、設置補助金以外の施策を推進することも視野に入れていくいことが必要ともいえる。設置補助金を行う場合の工夫のあり方を整理しておく。

 

1)地方自治体における太陽光発電の設置補助金は、地域住民に十分に知られていない場合が多い。設置補助金の広報を積極的に実施することが必要である。

 

2)太陽光発電の設置意向は、補助金単価(設置費用の自己負担額)によって高まるが、太陽光発電の社会的意義等に関する意識向上によっても高める。経済便益だけで設置を促そうとせず、太陽光発電の社会的効果を高めるような普及啓発を重視して、実行することが必要である。

 

3)環境と経済の好循環のまちモデル事業(まほろば事業)のように、太陽光発電の設置補助金においても、ハードの普及だけでなく、ソフト面での波及性を高める工夫が求められる。

 

なお、太陽光発電の補助金の予算総枠が決まっている場合、補助金単価を高くすると補助件数は少なくなる。筆者は、補助金単価と設置意向の関係式を作成し、地方自治体が補助金単価を2倍にしても設置意向は2倍にならないとすれば、補助金単価を高くするのではなく、できるだけ安くして、補助件数を多くすることが効果的だという試算を行っている。

 

補助金への応募件数が少なく、予算を下回る状況であれば、申込みを増やすために補助金単価を上げることも必要であるかもしれないが、その場合であってもまず補助金制度の認知を高めることが必要である。そして、応募件数が予算を上回る状況であれば、できるだけ多くの人に補助をした方がよく、予算を下回らない範囲で補助金額を下げることがよいと考えている。

 

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