サードウェイ(第三の道) ~白井信雄のサスティナブル・スタイル

地域の足もとから、持続可能な自立共生社会を目指して

環境新聞連載:「再生可能エネルギーと地域再生」より、4回目:飯田市の再生可能エネルギーと地域づくり(2)

2016年09月24日 | 再生可能エネルギーによる地域づくり

  前回、飯田市における市民共同発電事業の中核である「おひさま進歩エネルギー株式会社(以下、おひさま会社)」を中心に紹介した。今回は、2013年4月に施行された「飯田市再生可能エネルギー導入による持続可能な地域づくりに関する条例」とそれによって再生可能エネルギー事業の主体であると位置付けられた地域自治組織に焦点をあてる。

 

●地域が主体となるエネルギー自治を目指す条例

  飯田市では、もともと小水力の導入を図る地区の行政支援の仕組みとして、条例を検討していたが、FIT(固定価格買取制度)が創立され、大資本によるメガソーラー等の地域進出が後押しされる状況となった。条例の検討委員の中から、再生可能エネルギー(再エネ)を生み出す資源は地域の人や土地と密接なかかわりがあるものであり、その再エネと住民自治をつなげ、事業化に向けて住民自治の力を発揮することができないかという提起があり、「地域が主体となるエネルギー自治」を形成することを目指す条例を制定することとなった。

  条例による事業システムのポイントは、①支援対象となる再生可能エネルギー事業(再エネ事業)の主体は、地域自治組織であり、そこが②飯田市での市民共同発電事業を担ってきたおひさま会社等の事業者と協働して、再エネ事業を行うことができること、さらに③再エネ事業の推進により地域住民との合意形成を重視し、利益は地域に還元することにある。

  また、④専門家で構成する第三者機関である「再生可能エネルギー導入支援審査会」が対象事業の認定や専門的なアドバイス等を行い、⑤市行政は、実施計画の策定及び運営へのアドバイスの他、資金調達や公共施設の屋根等の利用等の円滑化を支援する。

  地域自治組織が主体といった再エネ事業を、市内の事業者、地域内外の専門家、市行政が一体となって事業を進めるという協働の仕組みが、この条例で具体化されている。

 

●条例で認定された8事業の動き

  条例制定後、現在8件の事業が認定されている。現在のところ、実施されている再エネ事業はすべてが太陽光発電であり、公共施設の屋根貸しによるものが7件で、野立てが1件となっている。協働先となる事業者はおひさま会社が中心であるが、1つがおひさま会社以外の民間企業と協働し、うち1つが協働企業をつけずに地域自治組織単独で実施している。おひさま会社が協働企業となる場合では、市民出資による資金調達を行っている。

  再エネ設備の設置場所は、屋根貸しでは、防災センター、廃校になった中学校を活用している地区拠点施設、飯田市で盛んな人形劇を行う舞台のある施設、公民館、地区で運営している保育園等、中学校である。野立てでは民間企業の遊休地を利用している。

  これらの施設を訪問して改めて気づかされるのは、飯田では地区に人形劇の拠点施設があり、地区で運営する保育園があり、廃校を利用した地区活動の拠点施設があり、立派な公民館や防災センターがあり、それを活用する地区活動が活発だということである。活発な地区活動を象徴する施設に、太陽光パネルが設置されることの意義は大きい。

  また、1つ1つの設置に経緯があり、事業内容も様々である。例えば、2番目に認定された民間企業の遊休地の利用した地区では、民間企業が住宅に隣接してもっていた荒地に太陽光発電所を建設するにあたり、一部が荒地のまま残ってしまう計画で、環境的にも悪いし、火災の不安もあって、この機会に何とかしたいと考えたという。そこで、地区の会長が、地域での取組みの支援を始めていた市環境モデル都市推進課に相談し、再エネ条例を活用することになったという。行政担当者が地区と企業の間に入り、熱意をもって調整役を担ったからこそ、この事業が形になっている。

  最近、認定された中学校の事業は、生徒会の選挙で再エネ事業の設置が公約になったことから、条例認定に至っている。教育施設での条例事業の展開も期待される。

 

●エネルギー自治のゴールではなく、始まり

  再エネ条例は、必ずしも統合化されていなかった飯田市における自治活動と再エネ事業を連結させる仕組みとなった。飯田市では、自治活動が活発な地区としても顕著な特長があるが、それと再エネ事業が直接的に統合している状況ではなかった。しかし、条例により、再エネ導入による自治活動のメリットが創出され、地域自治組織の参入が図られている。

  再エネ条例の認定を受けた地区では、再エネに関する意識の高い区長等が発案し、その発案に対する地区住民の受容性を高めるために、売電収入の地区活動への活用、非常時の自立的電源等の意義づけを強調している傾向がある。ただし、地区の重要な施設の屋根上に太陽光発電が設置されることで、その合意形成の段階あるいは設置後の売電収入の運用段階で再能エネへの関心や知識が啓発される効果があり、また事業協力会社による環境学習事業も展開される。つまり、再エネ条例の認定事業は、エネルギー自治が形成されたゴールとしてではなく、エネルギー自治への意識を高めていくスタートとしての意味を持っている。

  エネルギー自治を掲げる市町村は他にもあるが、地域自治組織が主役となる再エネ事業推進の仕組みを整備し、実践している地域として、飯田市の取組みは突出している。他の市町村では、飯田市のようにはできない理由をあげるのではなく、飯田市が先陣をきって具現化している姿を参考して、各市町村なりの方法を創造していく工夫が期待される。

 

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